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呪術廻戦の終わり方に少々モヤいている問題【とはいえ芥見先生ありがとう】
2024/12/25、漫画呪術廻戦の最終巻である29,30巻がついに発売された。今回は完結記念として、私の本作への思いを綴らせてほしい。
まずは呪術廻戦と私の出会いから。
当時、私は就職から逃げたクソカス大学生として、漫画映画ゲームアルコールに溺れる日々を送っていた。そんなインドア娯楽に人生の大半を費やしている中、連載が始まったのが呪術廻戦だった。
第1話を読んだ感想としては・・・・まぁ可もなく不可もなくといったところ。主人公虎杖悠二は猪突猛進系、伏黒恵はクール系というよくある属性で、話自体もテンプレ気味。この時点では即打ち切りになるだろうなーと始めは思っていた。
第2話を読んでもその印象は変わらなかった。主人公が属する組織が専門学校という体系なのは少しワクワクしたが、それ以外は特に惹かれる要素が無く・・・。何なら夜蛾正道が入学を渋る件も段取りじみていて、ご都合主義臭いなーとまで思っていた。
その後、印象が少し変わったのが第5話のラスト。ヒロイン釘崎野薔薇が、虎杖から呪術高専に来た理由を聞かれた際のこの回答。
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私は、この発言に感銘を受けた。「それだけで呪術師になったの!?」と。決して悪い意味ではない。むしろ「東京に住みたい」という普遍的な理由で、呪術師という命懸けの道を選んだ事に、彼女の覚悟を感じたのだ。連載二か月目に突入して、遂にインパクトのあるキャラクターが出てきたなと、ここから段々続きが気になっていたのを憶えている。
その後のエピソードである呪胎戴天編もそこそこ面白かった。ただラストで虎杖が死んだたため、「あー打ち切りか・・・これからって所だったのに」と、まだ終わると決まってもいないのに残念がっていた所、衝撃の展開が。
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何と、虎杖たちが孤児院へ派遣されたのは、虎杖を間接的に殺すために総監部が根回した結果だったのだ。
このシーンの何がすごいかって、主人公たちが命懸けの戦いを強いられている状況に、しっかりと理由があったって点なのよな。
これまで、少年ジャンプのバトル物は、10代の少年少女を特に理由もなく戦場の最前線に立たせるのが当たり前だった。まぁ読者層も10代だから、キャラクターの年齢もそれに合わせているってだけなんだけど、現実的に考えると「大人たちは何やってんの?」って疑問が出て来てしまう。そんな少年漫画ではお約束となっていたツッコミ所に、本作は正当な理屈を用意し、ストーリーの一部に組み込んでしまったのだ。
当時、狂ったように多種多様な漫画を読み漁り、一部食傷気味となっていた私は、このシーンだけで心掴まれてしまった。「これまで少年漫画を過去にしてしまう逸材なのではないか?」と。
そしてその予想は当たっていた。次に刺さったのは彼の存在。
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正直、初登場時の印象はあまり良くなかった。無駄に理屈っぽい振る舞いや、虎杖を呪術師として認めていない発言を見て、「ああ、少年漫画によくいる子供を見くびっているステレオタイプの大人だな」と。「どーせこの後、虎杖の潜在能力に驚かされ、赤っ恥をかくんだろうな」と思っていた。
そこから掌を返したのが以下のシーン。
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彼のような堅物が、呪術師を続ける理由。それは人々からの「ありがとう」だった。なんてあざといギャップなんだ。野薔薇やこの後出てくる三輪もそうだが、本作のキャラクターが戦う理由って、どれもありふれているんだよな。だからこそ感情移入しやすいんだけど。「あのキャラにあんな悲しい過去が」って件に飽き飽きしていたタイミング故、余計肯定的に捉えていた節もあるかもしれないが。
・・・ナナミンに話を戻そう。トドメを指されたのが次のシーン。
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この一連の流れで、ナナミンの虜になっていました。現場責任者として虎杖を守り切り、虎杖の成長をしっかりと認めてくれる素晴らしい大人だなと。そう考えると、初登場時の冷たい発言も、大人としての責務を全うしているにだけだと分かる上手いシーンだったな。少年漫画で、こんなにも子供を正しい方向に導いてくれる大人キャラと出会ったのが久しぶり故、連載が終わった今でも一番好きなキャラクターです。
・・・前置きが長すぎたのでここからは巻きで。(時間外労働の縛りとか、領域に突っ込んで意図せず宿儺の力を引き出す件とか、順平の先生のラストとかもっと語りたかっター!)
他にも、読者への説明台詞をバトルの設定に落とし込んだ術式の開示。威力増加が2.5倍でなく2.5乗の黒閃。虎杖や伏黒のようないわゆる少年たちが直接命を奪う描写・・・などなど、既存の少年漫画でありがちな要素にひとひねり加えた設定、描写の数々に心惹かれ、ジャンプの中でもトップレベルに好きな漫画となった。
呪術読んでると、芥見先生のジャンプ愛がひしひし伝わってきて、それだけで楽しいのよな。特にハンタとブリーチへのオマージュが多くて、しかもそれらを土台に物語を更に拡張しているから、アレンジ元に気づいた瞬間のアドレナリンが凄まじい。術式の開示とか、明らかに上記2作品へのアンサーみたいなもんだし。
本作の真骨頂だと感じたのは以下のシーン。
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こことかもさぁ・・・!左手がなくとも不義遊戯発動できるのが少年漫画の王道じゃん?そんな先入観を逆手に取った最高のブラフだった。てかむしろ少年漫画読んでれば読んでるほどこの件騙されるよね。
・・・まずいまた本筋から外れてきた。今度こそ前置きはここまで!次の段落から本題入ります。
とにかく、私は呪術廻戦が大好きなわけだが、その中でも特に注目していた要素がある。
というのも本作、終わらない戦いを強いられる物語に終止符を打つ可能性を明示していたのだ。
イマイチピンとこないと思うので、とりあえず以下シーンを読んで欲しい。
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連載当時、「ここまで切り込むのか」と戦慄したのを憶えている。
呪術廻戦の世界の構造として、人間の負の感情が存在し続ける限り無限に呪霊が生まれてしまう。そいつらを狩り続けるために、呪術師たちは戦い続けなければいけない。そんな負の連鎖を断ち切るゴールを、この作品自らが提示して見せたのだ。
バトル漫画というジャンルは、その名の通りバトルがあるからこそ物語が成立している。敵を倒したら、新たに強い敵が現れ、その敵を倒したら更に強い敵が現れ・・・というのを延々と続けるのが鉄則だ。ナルト、ブリーチ、ネウロ、ムヒョ、リボーン・・・・(自分の世代ばっかでゴメン)。どれも強い敵が登場して初めて物語が動き出す。
私はこの構造に若干嫌気が刺していた。敵が現れたら倒して、敵が現れたら倒しての繰り返し。勿論その中で生まれるドラマや斬新な設定、ダイナミックなバトル描写に心奪われた経験も確かにある。しかし敵の出現という受動的な物語のスタートに既視感を憶え、何度も読んでいるうちに飽きてしまったのだ(ハンタGI編までやワンピといった例外もあるけども)。人気が無くなって打ち切りになるか、最も強大な敵を倒して完結ではなく、戦いそのものを手放す終わりを求めていたのだ。
上記を踏まえると、夏油と九十九由基のやり取りが如何に深い意味を持ったシーンなのか理解いただけるだろう。戦いが終わらない世界を構築しておきながら、作者自らがが、それを壊す可能性を示しているのだから。
このシーン以降、私は本作がどのような完結を迎えるのかに注視して、物語を追い続けた。
「非呪術師皆殺しは倫理的にアウトだし、かといって全員を呪術師にするのも無理があるな・・・。王位継承戦編のクラピカみたいに一般人にも基礎だけ教えてーみたいな着地ならできそうだけど・・・」
「死滅回遊!?もしかして全人類呪術師エンドか・・・!?いやルール追加を上手い事利用して、羂索と宿儺を倒ししつつ、呪霊に苦しめられない世界を作るつもりか・・・・くぅー続きが気になるぜ!」
はい。当時は楽しかったですね。渋谷事変の途中あたりからジャンプの購読をやめて単行本で追うようになったものの、熱は収まらなかったです。流石に終盤は術式の設定が複雑すぎて理解するのに時間がかかるので、27巻からはkindle版を買うだけで読まず、最終巻が出るまで寝かせてたけど。
・・・要は今日一気に最後まで読んだわけだが、果たして「呪霊無限湧き問題」に対し、どのようなアンサーを用意したのか?改めて振り返るか。
・・・・・え、宿儺倒すだけで終わり?
てか呪霊云々の話自体一切触れて無くない?
そりゃあないでしょ芥見せんせー!
結局虎杖たち呪術師が戦い続けるという構造は一切変わってないじゃん!夏油の悲願はどうなんのよ?私だって何年もかけてじっくり考察してたのよ!?ついに完結って聞いたからこんだけ長々と語ってたのにぃ!
まぁそれは置いといて、宿儺との最終決戦が長すぎたね。流石に。トップバッターの五条先生から数えると、大体5巻半くらいずーっとドラゴンボールやってたんじゃないかな。宿儺が黒閃連発して術式回復させてーをやりすぎて、「まだやんの?」と思ってしまった。まぁ参戦キャラを次々投入して、多彩な戦術で宿儺を追い詰める件は総力戦感あって良かったけどね。クライマックスで東堂と野薔薇出てきたときはグッと来たし。
あとはこの件メッチャモヤモヤする。
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生き残ったキャラ達で反省会している、いわゆる後日談的な立ち位置のシーンなんだけど、真希さんが一人イキっているみたいでヘイト溜まるし、結局「みんな頑張ったよね」って結論に落ち着くから、ストーリー上要らなかったのでは?と思ってしまった。ぶっちゃけ、芥見先生が読者からツッコまれてる所を言い訳したかっただけに見えるし。単行本の隙間に補足入れる分には良いんだけど、本編でそれやられるの冷めるんだよなー。
・・・とまぁテーマの消化不足に対しては不満が残るものの、終わり方自体は満足です。生き残ったキャラたちのその後をしっかり描いて、エピローグも読者に想像を委ねる程度に留めているし、(乙骨は真希さんとくっついたのかね?男の方の孫が禪院家顔だし)、無駄のない大団円だったと思います。
改めて芥見先生。呪術廻戦を描いてくれて、本当にありがとうございました。過去のジャンプ作品へのリスペクト、それらの先を描こうという姿勢に溢れた本作は、唯一無二の名作でした。私の漫画人生の中でも、最も心動かされた作品の1つであることは確かです。
次回作が連載された必ず追うので、楽しみに待ってます。
・・・どっかでもっと語りたいな。またいつか本作について記事書くかもです。