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誰にも話せないこと。



死を羨ましいと思ったことがある。
人は生きることがいいことで、死ぬことが悪いことだと思っている節があるが、果たしてそうなのかとたまに思う。
今死んでもそんなに未練残らないかもなーってタイミングで死ぬことができればそれはその人にとって1番死についてベストなタイミングだと思う。
これと自殺の推奨はまた別の話。
別に若いから死なないという保証はないので、常に現世に未練を残さないように生きていけば済む話ではあるけど、そううまくはいかない。


とある身近に起きた死の話をする。
私が東大受験を控え浪人していた時、ふと訃報が耳に入った。その人は一つ年上で私が落ちた年に一浪で東大に合格した先輩だった。
詳しいことは知らないが、電車に轢かれて亡くなったらしい。もしかしたら事故かもしれないし自殺かもしれない。そこまで詳しく教えてはもらえなかった。
周りの人の反応も自然と耳に入った。
「なんで?」「東大に入って人生順風満帆なはずなのに」「これから人生を謳歌できるだろうのに」
そこまで背景を知らず、東大生死亡と聞くと誰しももったいないとか残念という反応をするだろう。
彼らはなぜそのような感情を持つに至るのだろうか。
それは間違いなく、"可能性"である。
彼の人生はこれから幾万通りの進路があり、そのどれもが幸せに満ち溢れているものだろうという世間一般的な東大卒の未来である。そこで不幸な未来など誰も想像しないし、できるはずもない。
その時、私は可能性を多く残すうちに死ぬ方が、無駄に長生きして何も達成できない哀れな人生を送るよりよっぽど人に悲しまれるんじゃないだろうかと思ったのだ。
人生の価値というのは、尺度によってもちろん違うが、死んだ時のことを考えると、死に際してどれだけの人に悲しまれるか惜しまれるかというのがある種基準としてあると思われる。大抵の場合、故人が惜しまれるのは、長寿を全うし、人々から愛された人や、不慮の事故や病気などで若くして亡くなった人の2パターンだと思われる。それを考慮すると、永く生きて多くの人から愛されるかどうか分からない人生を送るリスクを負うよりは、若くして死ぬ方がよっぽど将来の可能性を残しているため過大評価されるのかもしれないとさえ思う。

そもそも、死ぬとはどういうことなんだろうか。
死んだという事実が自分に覆いかぶさった時、そこに残るのは何もない。死者の世界があるとして、現世のものは何も持っていくことはできない。せいぜい現世の人たちが相続できるものや、無形有形問わず遺産を分け合い利用するにすぎない。
この世を永く生きらえることに何か大きな意味があるのか。もちろん私を含め世界の人々は自分自身だけで生きることはできないため、自分の抜けた穴はできるだろう。それが簡単に埋まるかどうかはどうでもいいが、抜けた穴に埋める価値があるのかというそもそもの問題はあるだろう。
家族や友達、配偶者など悲しんでくれる人はいるだろう。それはもちろん分かっている。
ただ自分が死後の世界に行ったあとの現世のことなど正直どうでもいいと感じる。
立つ鳥跡を濁さずという諺があるが、跡を濁さず立つことができればもちろんそれに越したことはないが。

可能性のあるうちに死ぬこと。つまり、人生を数学のグラフに喩えたとき、漸化式の値が1番大きな時に死ぬことが将来的に死ぬ前提の人生にとって最良の選択なんじゃないかと思う。もちろん未来のことは分からないため、そう多くはない人生の波の中でどこが1番傾きがあるかということは分からない。しかし、自分自身が人生に納得しているのであればそれはある種タイミングと言って良いのではないだろうか。

三島由紀夫の思想の根本には、戦争で死ぬために生まれてきたのに死ぬことができなかったという後悔の念がある。そもそも国のために死ぬ、という目的のために生まれたというのが、我々が生きている時代とは違うが、いかに死ぬかというのはいかに生きるかという思想に繋がってくるのは確かである。

三島由紀夫的使命感を現代に戻すと何だろうか。我々が生きている日本は今客観的にみても沈みゆく船である。少子高齢化が進み、選挙は老人のために行われ、社会保障に大量の金が使われ、未来を生きる若者や、子供を産まんとする人々に対する支援が非常に少ないのが現状である。この現状を打破するために我々が生きているとは言い難い。どうしても抗えない波に舵を奪われていずれ沈むことが分かっているままに揺れる船に乗っているのが我々国民であり、このような国で生きていくことに全く未来を感じられない。
老人を生かすためだけに生き続ける人生に何か希望はあるだろうか。1番幸せで可能性のある若いうちにいつか必ず訪れる死に自ら歩み寄ることも考えてもいんじゃないだろうか。

ただ若くして亡くなった知り合いの死からふと感じた羨望の感情ではあったが、これはもしかすると自分の死生観に関わってくるものではないかと思い書いてみたが、なかなか世間には受け入れられなさそうな思想なのでひっそりと公開する。

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