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『今日も上司に怒られた、、。』 〜基盤型プラットフォーム〜
オレの名前は木暮。
都内の中小コンサル企業勤務の44歳。係長。
高校生までは神奈川県の高校でバスケットボールに熱中し、大学では経済学部を専攻。
卒業後は、塾講師を経験、今が2社目。
結婚はしていない。高校時代にマネージャーを好きになったが、オレみたいな補欠を相手にする訳もなく、それ以降はダラシない恋愛しか出来なかった。
コンサル企業での仕事は、辛い。クライアントからは毎日新しい提案を求められ、上司からは成果を出せと毎日叱責をくらう。
高校時代、ゴリラの様なキャプテンからの怒声が今になっては優しい言葉だった事を痛感する。
この精神が削られる日々を耐えるかが最重要タスクになる。
一番の悩みは、上司の存在だ。
織田部長。
どこかの高校の五月蝿いバスケプレーヤと同じ名前だ。
昭和時代の生き残り。
コンサルタントとしての能力ではなく、飲みニケーションという手法で生き延びる化石の様なヤツだ。
仕事は全て部下に投げつける。今日も朝から大きな声で呼ばれた。
「お〜い、木暮ちゃん!メガネの似合う木暮ちゃん。」
低いシャガれた声がオフィスの中で響く。
転職したての頃は、呼ばれたすぐに返事、依頼された事は最速で仕上げて報告した。
半年間続けたが、意味のない行為だという事が分かった。織田は、社内の人、特に部下の顔なんて覚えていない。作業員くらいの理解をしている。依頼の仕方も適当で曖昧だ。
「木暮ちゃん、さっき暑い中お客さんの所に行ってきたわ〜。シャツがびしょびしょや。」
髪の毛もベタベタ、臭いもキツい。
「前のプラット何とかの依頼を受けたお客さんから、またプラット何とかの依頼を受けたわ。全く意味わからんから、ヘラヘラしながらコーヒー飲ましてもうてたけど。グヘヘ。」
最高に気持ち悪い。
「そのお客さんから、”基盤”を使うプラットフォームが必要らしいわ。細かい事は分かってないみたいやから、こっちから説明せぇへんとアカンねん。」
「木暮ちゃん、分かるやろ?ヘルプミーや。ヘルプミー!」
もう一度言う。最高に気持ち悪い。
ただ、こいつがオレの上司だ。聞くしかない。答えてやるしかない。
『織田部長、そちらは”基盤型プラットフォーム”の事ですね。ご説明いたします。』
『基盤型プラットフォームとは、
・サービスの重要な所を押さえて儲けるビジネスモデルです
・ソフトの様な補完製品がある事を前提とした製品・サービスになります
・一番分かりやすいのは、ゲーム機とゲームソフトの関係です
・任天堂やソニーが事例です。ゲーム機メーカーは本体以外の収益としてライセンスも大きな割合を占めます
・ライセンス収入を考慮した上で、ゲーム機の単価を決めています(安くする)
・最近は、クラウドサービスもネット経由でハード・ソフトのコンピュータ資源を提供するサービスもございます。
・IaaS(Infrastructure as a Service) / Paas(Platform as a Service) / SaaS(Software as aService)などがあります
・このビジネスを成立させるには、補完製品が必須という事です
・インセンティブに関しても検討が必要になります。ここは要注意かと思います
・簡単に資料を準備しましたので、こちらをご活用ください。
『織田部長、いかがでしょうか?』
「おー!これや。木暮ちゃん、これ!よう分かってるやんか。さすが経済学部やな。」
『ありがとうございます。また何かございましたら、いつでもお声がけください。』
「おおきに。木暮ちゃん、二課の藤間課長が辞める話聞いてるか?」
『はい、メンタルで退職とは聞いています。』
「あそこの課長ポジション、人事が探してるみたいやわ。ワテから人事に木暮ちゃんアピールしとくわな。」
『ありがとうございます。よろしくお願い致します。』
「ほな、もうええで。」
分かっている、いつものやつだ。口だけの応援、口だけのアピール。
この類の会話をもう何度も繰り返してきた。
でも諦めない。諦めたら終わりだ。そう教えられてきた。
ただ、精神的に辛い日もある。
今日は家に帰る前に、あのマネージャが運営しているバーにでも寄って、
一杯飲もう。
おれはいつになったら課長になれるんだ。
教えてくれよ 先生。