今日は瞳の日
そら豆村のボーマンワンは濾過仕事に精を出していた。そこに通りかかった米子と素子。彼はチラリとも見ずに、手だけ左右にヒラヒラと振って行け行けのサインを示した。
米子∶ちょっとあなた、私達を見もせず、正月の挨拶もせず、瞳の日なのに目も合わせずにアタシたちを通しちゃって本当にいいのぉ?礼儀とお仕事欠いてない?
ボーマンワン∶あのね、君たちなんか一目見ただけで、滓だなーってわかるんですよ。こっちはもう何千年もやってるんですからこの仕事。
それにねぇ、古米と化学調味料と腎臓の見た初夢話しなんて聞きたがる変人いませんよ!!
素子∶アケオメ〜、あらま、お気の毒、働きすぎて疲れてるんじゃありませんか?正月くらいはダラダラモードでいきましょう。
ボーマンワン∶えー私、実は双子でしてね。隣にそら豆ボーマンワンダッシュっていうのがいるんですけど、弟の方は全然仕事しないんですよ。毎日がお正月。
多分、念子さんが死ぬまで弟は大して仕事しないと思います。あー本当にこの世の中不公平だ。
米子∶ちょっとぅ、これまでも名前がいい加減だったけどあなたの名前、ウルトラ酷くない?
ボーマンワン∶それはそうですが実は私には分身がいましてね。その数なんと100万体。数でないと表現が難しいのでしょう。
素子∶分身100万ボーマンで濾過仕事をしているんですか?しかもあなた方だけ?弟さんはどうして仕事なさらないんですか?
ボーマンワン∶私ら、そら豆村では尿を作るのが仕事です。村は150グラムと肝臓さんの1/10の重さで150リッター、大型ドラム缶一本の血液を濾過して1500ミリリットルの尿を毎日、作ります。
休みなしでフル稼働なんかしたら死んじゃいますから、100万の分身仲間で休み休み尿をつくっています。
だから弟は、私が倒れた場合に備えて仕事をしないんですよ。私が弟に生まれたかった。
ヤレヤレ。
素子∶弟さんと言うスペアが必要なほど重要なお仕事なんですか?
ボーマンワン∶ええ、肝臓さんなんかは少し切り取られても一週間くらいで再生しますけど、私たちには弟と言うスペアが存在しています。
だって、私ら双子が死んでしまったら体中にアンモニアが広がって念子さん御陀仏だ。
米子はまたもや臓器たちが複雑な仕組みで懸命に働いていることに感激し涙を流した。
米子∶こんなに、主を生きさせたいと働くモノたちが自分の体内にある事を主は考えるべきよぉ、命を粗末にしちゃあいけないわ。
素子∶あー米子さん、命を終わらせようとするのもまた主の中での出来事ですよね、そー言うの私らの趣旨じゃないんで、次に行きましょう
行きましょう。
こうして米子と素子はボーマンワンに濾過された。
つづく
腎臓には、血液のろ過を担っている糸球体とそれを包んでいるボーマン嚢、合わせてネフロンと呼ばれる組織が左右でそれぞれ約100万個ずつ存在。糸球体は、小さな穴が開いた微細な血管(毛細血管)で形成された顕微鏡レベルの微小なかたまりです。
※このお話ではその内の一つがボーマンワンと言う名で近位尿細管(この話の中ではハルンと言う名)との掛け合いをしています。
そら豆村は硬い脂肪の城壁に包まれてボーマンワンと分身たちは暖かくしている。