今日は風呂の日
登場モノ
おぼろ天女:おぼろ昆布の妖精
薬焼刃:薬焼刃の妖精(おぼろ昆布を削る道具)
その他妖精
竜宮城に住むおぼろ天女は不老不死の身ではあったけれど一年一年年は取っていた。だから美容には人一倍気を使っていた。風の便りにどこそこのなになにが良いと聞けば、なにを差し置いてもそのものを手に入れたり、現地に行って体験したりした。
その日はワカメ天女に聞いた地上にある霊験あらたかな霊泉に身を沈めていた。そこに通りかかった薬焼刃(くすり やいば)はおぼろ天女が霊泉に入浴しているのを一目見て、こんな美しいモノとお近づきになりたいと思い、彼女が岩の上に置いていた羽衣を隙を見て隠してしまった。
そうして困っている彼女に親切面をして自分の上着を貸してやり、言葉巧みに自宅に連れ込んだ。おぼろ天女は自分の住んでいた竜宮城に戻りたかったけれど、羽衣がないと帰れない。
そこで焼刃に失くした羽衣を探して欲しいと頼んだけれど、彼は
お肌のためにニューヨークに入浴に行こうとか、むしろむしろに包まって蒸し風呂なんだってと、言葉をはぐらかし続けた。
ある晩彼女は夢を見た。その夢は羽衣を焼刃が隠している夢だった。翌朝、彼にこのことを話すと、焼刃はうつむいて黙ってしまった。おぼろ天女はその姿を見て事実を悟った。そこで彼女は昆布を酢につけてあなたのその焼刃で薄く削って羽衣を作って下さいと言った。
焼刃は彼女に言われたとおり、昆布を削ろうとしたけれど、面倒になり、昆布をひとまとめにして削った。そうして出来た衣はおぼろ衣よりも黒っぽく、破れやすいトロロ衣だった。流石のおぼろ天女もこの有様に怒り涙を流した。
おぼろ天女の涙は止めどなく濁流となり、焼刃を押し流しそうになった。彼は恐ろしくなり、今度こそ真面目に作りますと言い、昆布を一枚一枚、丹念に削り、純白のおぼろ衣を作り上げた。おぼろ天女はそれを身に着け、竜宮城へと帰っていった。
焼刃は一目彼女に会いたいと昆布を削り続けたけれど、彼にできるのはトロロ衣だけだった。かれはおぼろ天女の着ていたおぼろ衣を汁にして飲んでしまったので、彼女と同じく、不老不死を授かったけれど、後悔ばかりする日々を送っている。