今日は第一次世界大戦の日
男は頭に薄汚れた包帯を巻いている。その包帯からは赤い血が滲んでいた。男の皮膚は透き通るように透明でもう、ビクリともしない。
男の枕元には乾パン代と金平糖吉(こんぺいとうきち)が無念そうな表情をして転がっている。
藤吉:亡くなってしまったね。
パン代:まだお若いのに・・・
糖吉:こんなに痩せちまって、せめて最後に一口でも私を舐めてくれたらなぁ、他に楽しい思い出がいくらでもあるんだったら、良いのだけれど、
まだ若いのに戦場暮らしだったろう?冥土の土産話が、悲しい事ばかりじゃ、切ないから、一口でも舐めてくれたらよかったのに。
パン代:かわいそうに、そんな力も残ってはいなかったんでしょう。
私はね、おにぎりに似せて作られた自分の顔を恨みますよ。このモノは私をおにぎりと間違って慌てて食べて、歯を折ってしまって、
それ以来、見る見る、様態が惡くなって、でも口に入れられるものなんて、こんな戦場じゃあ、私と糖吉さんしかいない。
ああ、おっかさんが握ってくれたホカホカのおにぎりが食べたいなぁ、って、呟いていた夜なんて私は生きた心地がしませんでした。
病気で、寒くって、ひもじい思いをしているモノを黙ってみているしかできない、本当に私は情けないモノなんです。
糖吉:パン代さん、そんなに自分を責めちゃいけないよ。僕らは戦場で手軽に食べられるようにと生まれてきたんだもの。
その定め、変えられやしない。これからも今日と同じさ。強くならなきゃ。
パン代:水もない、火もない、そんな場所でさ、ドンパチしたって勝ち目なんてない。
糖吉:そうだねぇ、この国のモノは三合の米と、一合の外米、少しの麦を沢庵をおかずにして食べていたのに、歯が立たないほど硬いあんたと、
極寒の雪を連想させる私を食えと言われても納得できやしないよね。明日をも知れない身だからこそ、
ホカホカのご飯が食べたいのは当然だよ。僕らの創造主は顎がよっぽど丈夫で、他のモノたちの気持ちなんて分からなかったのかな?
今はこの戦いに勝利したから気が付かなくっとも食い物の恨みは恐ろしいから、これからもっと厳しい時代を見るかもしれない。
パン代さん、それでも僕ら、笑顔でいようじゃないか、どんなに辛い食卓だとしても、僕らの笑顔がきっとモノたちを勇気づけるよ、僕ら、それを信じるしかないと思う。
パン代:糖吉さん、ありがとう、私はもう、泣かない。最後まで自分のお務めを果たします。