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練習・下絵を描く、生活を一旦捨てる

11月の展示に向けて制作を始めた。

今年の上半期はひたすら漫画を描いていたが、さすがにそろそろ準備をしないとまずい時期になってきた。

年間で制作する点数が少なすぎることがコンプレックスの私であるが、特に今年は退勤後や休日は漫画ばかり描いており、「タブロー作家です!」と名乗るのも烏滸がましいレベルで絵を描いておらず、スケッチのストックもマジでない。

ということで、リハビリも兼ねて2日間机に張り付き2時間程度で描ける小さな習作を何点か制作し、手を慣らした。

アクリルガッシュ・色鉛筆
今回最初に描いたもの。
アクリルガッシュ・色鉛筆
固有色を使わない練習。
アクリルガッシュ・色鉛筆
固有色を使わない練習、モチーフの組み合わせ。
アクリルガッシュ・シャーペン・色鉛筆・朱墨
原点回帰でVシネ任侠系男性。


顔の絵ばっか!
だが、あえて肩肘を張らずに正解を探さず描く。「落書き」的な小作品である。
(こういうのを「ドローイング」として販売することがある。)

実は、私は落書きをするのが苦手だ。

依頼された絵やプロジェクトのために案を出すことは苦ではないが、「心の赴くままに描く」みたいなのが下手くそ。(日曜画家やってるのに……?)

と言っても、学生時代は寝ても覚めても興奮状態で絵を描いており、どちらかというと落書きが得意だった。

今も基本的に仕事から帰ったら何かしら描いている。描いているが人に見せられたものではない。
好きで絵を描いており、友人を誘ってクロッキー会をしたり、基礎の練習をしたり、積極的に制作に取り組む方だが、備忘録のための最低ラインを死守しているばかりであった。

社会人デビューして2年ほど経つ頃にはすっかり「いい意味で無意味な作品」を作るのが苦になってしまっていた。

理由は単純、生きる辛さを紛らわす逃避行動を絵から労働に切り替えたわけである。
奨学金、身内の借金など色々と物入りだったこともあり、大して上手くない絵よりも遥かに安心感があった。
自分の周りにあった問題を解決するには労働に神経を割くのが一番コスパが良かったのだ。

安寧を求めるあまり突如発生した落書き苦手意識は、「絵を描くのが好き!」というアイデンティティをじわじわと蝕み、近年では「パーッと売れない絵を描くカスのワタクシ……」みたいな良くない思想に囚われる事もないではなかった。
(あくまでも不調な時の話ね!)

気長に私の成長を待ってくださるギャラリーさんに展示の予定を入れてもらい、売れますように……と祈りつつ、展示めがけてなんとかやっている状態が数年続いている。

毎回「売れる売れないは考えずに描きたいものを描いてね!」と言ってもらっているのに、「描きたいもの(※かつ売れ筋)を描くぞ!」と、つい邪な気持ちが流れ込み、無駄な戦略を立ててしまうのを止められなかった。

なんといってもこの私、性根が銭ゲバなのである。

展示活動を始めて最初のうちは、珍しいモチーフが武器だし、みんなの度肝を抜いたるでぇ!と息巻いていたのに、結局抜けたのは私の牙だったわけだ。トホホ……。


さぁちょっきり30歳になったし、あのキラキラした若人の、意味わかんない輝きをもう一度取り戻したいよ……。みたいなセンチな気持ちになる日々。

キラキラを取り戻すには、やるしかない。

この夏はちょうど良く(?)身体にガタがきており、ドクターストップにより突如夏休みが発生してしまったため、生活と金銭への妄執を捨てて食う寝る犬見る以外の時間はせっせと絵を描いてみることにした。

現金な性格が功を奏してか、3日目にして効果が現れた。

なんと、毎回展示の準備にあたり最も苦戦するエスキース作業がすんなり進んでいる。

今までは大胆な編集が容易なデジタルツールで連作のスケッチを何点分も行い、選び抜き、転写用の下絵を作成し……と、iPadをこねくり回すだけで2ヶ月かかっていた作業だ。それが、紙一枚で進んだ。

売れ筋と評価に作品の誕生が左右されることなく、赴くままに描いた。
珍しく、心に蟠りのない気持ちの良い作品になりそうな予感がある。

アイデアスケッチ。
模造紙に下絵を起こし中。
ソリッドでカッコいいケツを描く。


3日ほど生活を捨てて没頭したら、アイデアの糞詰まりが改善されたのだ。

やはり捨てるべきは恥やプライドなどのうわべではなく、理性と社会生活。

ただし、体を労わらなければ本末転倒なので早寝早起きで没頭している。
健康を保てる範囲内で、一旦大人としての生活を捨てることが正解だったようだ。

売れる売れないは考えず描く、ということを身体で理解するには、擬似的にでも経済活動から切り離される経験が必要だったのかもしれない。

今後も切羽詰まったら休みを取って積極的に生活を捨てることにします。

必要があれば服も脱ぐし吠えます。

家の中なので。

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