春色のランウェイ
かたく、かたく、なれているのだと思っていた。そうでしょう? 小さいままの僕たちがわらわらと薔薇の棘の上に乗っては、空を仰いで必死に何か叫んでいる、何の意味もない言葉の羅列、消えていく世界の中で、明日には死体になっているのだと、分かっているのに。分かっていないふりをする。生き残れるなんて、ほんの少しだよ、分岐点だらけ、選ばれなかった方に乗っていたものはがらがらと落ちていって、そのまま戻ってこない。
だから、かたく、なって、みせて。なにものも僕たちを傷付けられないのだと、非常階段を蹴った、貴方の煙草の香りを、今だって思い出せる。横顔はもう、忘れたのに。髪の先にまでこびりついた、煙草の香り。大人になんてなれなかった貴方の、大人になりたかった証明。
薄い、罅のはいったもの、だったよ。
卵よりも、きっと、ずっと、どうしようもないもの。蛹にもなれないで、壊れないために自分でこの胸を突き刺して、そういうことばかりしていた貴方を見ていた。一緒に落ちていければよかったのに、なんて。言ったらきっと貴方は怒っただろうけれど。空はずっと、遠いまま。花は、まぼろし。僕らの声はやっぱり何の意味もない羅列のまま、風に吸い込まれて。明日のことなんて考えなくて良いよ、どうせ今日、死んでしまうんだから。落ちていって消えて、最初からなかったみたいに。選ばなかったって、そういうことだよ、翅、を。出せなかったってことだよ。正しい遣り方なんて何処にもないから、本当は赤ペンなんて要らなくて、でも大人のような顔をしたひとびとが、一生懸命、道筋を引いて。
貴方が、選ばなかった方の、道筋を、引いて。
やわらかい、僕たちは。一瞬あとには死んでいく世界で、それでもまだ、夢を見ている。
貴方と化石になる、夢を見ている。
お題「殻」
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