ユーリィ編始まったら『ウソツキ!ゴクオーくん』がさらに面白くなってるとかウソでしょ(〜30話)
※注意!今回は14〜30話(通称ユーリィ編)のネタバレしかありません!
週刊コロコロコミックにて過去作シリーズとして配信されてる『ウソツキ!ゴクオーくん』をみんな読んでるだろうか?自分も以前からフォロワーさんがめちゃくちゃ面白いと言ってて興味を持っていたが、このweb配信を機に読んでみたら自分の中のコロコロの固定観念を打ち砕くほどの衝撃を覚え単行本を買ってしまうほどにハマってしまった。どのくらいすごかったのかというのは前回(〜13話まで)書いたので見てない人はこちらもよろしく。
そして今回は前回の続きである14〜30話、いわばユーリィ編についての感想を記していこうと思う。当初は週刊コロコロ配信に合わせ30話が公開されるだろう9月末くらいまで待とうかなと考えていたのだが、早く先を読みたいと単行本を購入したのと同じように早く感想を世に放ちたいと沸き起こる執筆欲が止まらず熱い内に書ききれということで早い内に書いちゃうことにする。既読勢は大丈夫だろうが当然執筆現在まだ配信でやってない話のネタバレが大量にあるし、推理やウソによるハッタリを重視するこの漫画で先を知りすぎるのは致命的な問題になりうるので週刊で追いかけてる人は30話が配信されるまで読むのは控えることをオススメする。そりゃ21話がすごいとかちょいとばかしの情報ならともかく(この話はいくら事前情報を小耳に挟み身構えても無駄だから)詳細という全ては自身の目で確かめてほしい所存なのでご注意させていただく。
それでは始めましょう、性悪天使が引き起こすウソと人の物語についてを……
・いつもの日常回も相変わらず面白すぎる〜コロコロだろうと容赦なく描く自己満足に過ぎない愚かなウソ〜
……とユーリィについて語ると思ったろ?ウソだよ〜!いや後でちゃんと話すとはいえまずはユーリィが介入してない話も語っていきたい。だって日常回も相変わらず面白いし、なんなら前回1〜13話までの積み重ねを活かしさらに面白くなっているから。ただでさえ面白いものがさらに面白くなるとかこの漫画まだ伸び代あんのかよ!?と正直思いましたねハイ……
ユーリィ編における15話から27話の間にも様々なウソツキが出てくる。自身が担任する規律と統制の取れた生徒を誇りに持ちすぎて生徒の失態を他クラスの生徒になすりつけようとした険市先生、自身がそれぞれ築いた天子ちゃんとの親友の立場が揺るがされると怖くなり犯行に及んだリヨちゃん&みぃちゃん、時間かけて真面目に作った記事より即興で作った悪意あるゴシップの方がウケると知ってしまい捏造に手を出した矢木増くん、ゲーム得意の見栄っ張りでついたウソがあれよあれよと雪だるま式に膨れ上がった梶野くん、片想いを寄せる北星くんが調理実習で別の娘(盛杉さん)と仲良くしてるのに嫉妬しマズいカレーとすり替えた三白さん、バカな自分が優等生の江里戸に庇われてたのが却ってプライド傷つけられ彼を憎んでいた田丿上くん…みんなウソをつき過ちを犯した理由は前回語ったようにそれぞれ多種多様で思い当たるフシを感じるほどに共感性を生じるものばかり。そんな彼らもゴクオーくんにウソを暴かれ舌を抜かれすべてを白状し、そして過ちを謝罪し許され再び前を向き生きる……
新章開幕して縦軸の話が発生しても一話完結のクオリティは決して下がらない、それどころかウソのレパートリーはさらに増え続ける……作者の引き出しの多さに驚くばかり。そして今回の中で最も衝撃を受けた単発回は……前回のやつで「ここまでやるのかこの漫画…」と震え上がったとちょっと漏らした16話「勇気でウソを飛び越えろ!」だ。
クラス対抗長なわとび月間においてゴクオーくんの所属する5年2組は最下位だった…クラスメイトの一人、雨地堅太郎が常につまずき記録が止まるからだ。運動神経は平凡だけど団体競技になると緊張で失敗してしまう彼は体育授業での最後の挑戦を前に「給食で食あたりしたのか腹が痛い」と仮病した…いつも失敗する自分さえいなければ2組は好記録を出せるとウソをついた。まぁそんなウソをゴクオーくんは見逃す筈もなく……
「だからもう…、みんなをがっかりさせたり…、期待をうらぎるようなことはしたくないんだよ!」
うーむ、てんけー的な……、にげるためのウソだなっ。
小学生向きの児童誌だろうと、むしろだからこそ「逃げる為にウソを吐き続ける人生がどういうものか」をド正直に描く。SNSで見たけたり、身近に実際いたり、もしかしたら自分自身がそうだったり…そうウソついてすぐ逃げる人物に思い当たるフシがあるのではないか?そりゃ生きていれば逃げたくなる時は確かにある、しかしそれにウソをつくなりで逃げていたら逃げグセがつき、困難を前に逃げることでしか対処できなくなる……もちろん困難という現状はそのまんま立ち塞がったまま。そんなので生き続ける人生がどうなるかは………ゴクオーくんの言葉そのまんま借りるなら「生き地獄」であろう。
まぁしかしその生き地獄を進む逃げグセ、所詮は本人が無様に生き続けるだけで他人に迷惑はかけてないようにも見える。そもそもこんなウソついた理由は2組のみんなに好記録を出してもらいたいから、それなら前回の記事で上げた11話においてノンコがヒッチーを傷つけたくない故に決して笑わなかったな「他人を気遣う、優しいウソ」と同じようなものじゃないか。10話で天子ちゃんが番崎くんの弟のためにと母親の誕生日プレゼント買う金を消費した際の「自己犠牲の優しいウソ」と同じようなものじゃないか。ぼくがひどい目にあって、みんなが喜ぶならそれでいいじゃないか!
「ぼくはいつもそうだった……!大事なときにいつもいつも…失敗して!最初笑ってゆるしてくれた友だちもそんなぼくを見て…、どんどんこわい顔になっていくんだ…!」
なるほどなるほど。
「だから、きっと今ごろみんなほっとしてるよ…。ぼくなんかいないほうがよかったって!」
こんな相手のためだと装った自虐的なウソをただの自己満足と断言し、その相手に発生する被害までもありありと見せつけ読者の心グサグサ刺しまくるとか普通やる?コロコロコミックやぞこの漫画!?この雨地くんの自虐的な考えは己の未熟さから、「本当はみんなと一緒に長なわとび飛んで1位をとりたい」という本音だってあるけど、自分には無理だという諦めから………それだけなら勇気をもって乗り越える美談として描けるだろし結末はまさにそうだった。しかし…この漫画はウソを扱いそれを裁く作品、ならばその前に描かねばならない。卑屈な臆病さから発するウソがどれだけ自分を、それだけでなく大切な人すらも苦しめるのかを。ウソの先にある紡がれ生まれる絆も描くならば、紡いだ絆を引きちぎってしまう過ちだって描けるのだ……そう、絆。雨地くんはすでに5年2組のみんなという絆を紡いでいたのだ。
前回も言ったように『ウソツキ!ゴクオーくん』は描写の積み重ねによって発生するドラマも作品の魅力のひとつだ。2話でクラス内で唯一天子ちゃん(そして戸屋くん)が跳び箱を飛べなかった際に、既に跳べている雨地くんは応援してくれた……一コマに挟まれた些細な描写かもしれない、けれど、天子ちゃんがその後に跳べたのは事実。その天子ちゃん達が雨地くんが跳べるというのを信じてくれてる。それならば打ち明けた本当の気持ちと共に困難を飛び越えれる。自分を信じてくれるみんながいたから。さりげない描写からこう説得力あるシーンに昇華できる見事っぷりよ。16話だけでない、12話で壱兆くんは過ちも金で解決すればいいと軽く考えてたが皆見先生に頬を叩かれ本気の叱咤を受け真に反省した…そして15話で険市先生がその一件で皆見先生を責めた際に壱兆くんは真っ先に庇った。このようにどれだけ些細であってもこれまでの描いたキャラクターの描写を無駄にせず活かしきる。改めてこの漫画の面白さとしての地盤の強さをひしひしと感じる。
……積み重ねた描写はウソではない、それにおいては20話「掃除委員の説明会大作戦」についても触れたい。ここでは3話でたまたま給食当番だったせいで押結くんの罠にかかりカレー鍋をこぼしてしまったり、12話において壱兆くんに買収されてウソついたりと「間が悪い、流されやすい」な中底正くんが望まなかったとはいえ真面目に活躍してた掃除委員の功績を褒められる話だ。これだけでも中底くんのキャラ造型は突発的ではなくコツコツ積み重ねた描写ありきで注目だが……ここではもうひとり注目すべき人物がいる。中底くんの功績をかっさらおうと企み舌を抜かれた3組の磨巾くんだ。
これだけだとただの他クラスのやらかしモブが一人で片付けられるのだが……どうやらこの磨巾くん、かなり後のほうになるのだが彼もまたこの描写を活かしたメイン回があるそうだ。いったい彼がどんな話を紡ぐのか……執筆時はまだ辿り着いてないが自分も楽しみにしてる。既に知ってるだろう先駆者さまはこんな自分にニヤニヤしつつ待っていてくれ。
という訳で例の性悪眼鏡天使が関与しない話においても面白さ抜群のこの漫画、ではその極悪天使が起こす縦軸の物語はどうかと言われると………今作の新たな側面「人間と神的存在との関係性によるドラマ」が生まれ、それがまたとてつもなく面白い。この漫画まだ面白くなるのかよ……(今さら)
・定命の幸せを願う人ならざるものたち〜なお、その願いは互いに解釈違いの模様〜
さてお待たせしました皆さん方。ついにアイツの話です。八百小学校に突如とした転校してきたユーリィ・L・神城ならぬ……大天使ウリエル。13話でわざわざ天子ちゃんを怪鳥暴れる危険な地獄に連れてかねばならぬと判断するまでに警戒された彼の狙いはもちろん小野天子……奇跡のように清い心を持った彼女を天使にすれば、清い心の持ち主ほど強大になるキセキの力で多くの人間を救える大天使にまでなれる。前回の記事で「小野天子は天使のようだ」と言ったし、実際に天子ちゃんの圧倒的な光属性っぷりにそう思った人は読者の中にもいるだろう。そしたらまさかマジで天使にしようとしてくる奴が出てきたのだ……
天使が仕える神に背く禁忌であろうと人間を天使にせんと目論むウリエル、対してゴクオーくん…初代閻魔大王・地獄王は狂った天使の野望を阻止せんと立ち上がる。小野天子を守るために、人間の住む現世で生きさせ、人間として天寿を全うさせるために。天子ちゃんはただの人間なのだから。
今、戦いの火蓋が切って落とされる……人の枠を超えた人ならざるもの達が、普通の小学生女児の幸せを願うために争い合う。(こう書くと小学生女児相手に大袈裟だとは思うがまぁ天子ちゃんだから仕方ないよな…)
・地獄王が惚れた人間〜瞬きすらもったいない、輝く“光”を見せてくれた人〜
まずはゴクオーくんサイドから。1話で「おもしれーウソ」を見せてくれたのもあって八百小学校の生徒として通いつつウソによって巻き起こる事件を解決している初代閻魔大王。しかし彼は地獄王……王として地獄の住民を導いたり、地獄に堕ちた罪人の魂を裁かねばならぬのが本来いるべき場所である。現世はあくまでその激務を溜めてでもいいから寄っているだけである……
この際にちょっと覗かせた「住む世界が違う」という現実…人と人ならざるもの……それを真っ向から突きつけたのが………そう、21話「地獄が危機!?天子の波乱のバースデー」だ。既読勢が度々「ヤバい」とか「読んだらカラフルに踊り狂うカカポになった」とか「週刊コロコロで配信されたらインターネットに業火が放たれ初見勢も既読勢もまとめて全て焼き尽くされる」と洒落にならない文言を飛び交わせてた21話。そんなにやべぇのかと自分も半信半疑だったのだが……ちょうど読んでいた夜行バスの中で泣いていた。とんでもねぇにも程があるだろ………………こんなでっけぇ“愛”なんてよ………………夜行バスがカーテンつきで良かったわ…………
そんな個人の妄言はさておき、この21話は小野天子の誕生日を祝うためにバースデーパーティを開催するのでゴクオーくんも珍しく必ず行くと指切りげんまんの約束をし、アッと驚くプレゼントを持っていくのだが……よりにもよってのタイミングで地獄が罪人の魂だけでなく魔界物にさらには天国へ行く筈の魂までも溢れかえり大混乱と化した!即座に地獄に帰り仲間たちと共にやるべき仕事を果たすために……目の前の約束を果たす前に……
あの空に、魔界物におびえた魂たちがさまよっている。
地獄に行くにしろ、天国に行くにしろ、一生を終えた魂なんだ。それをほっぽりだして1人の人間の誕生日を優先させられっかよ!
……結局彼は誕生日パーティーに間に合わなかった。あまりにも地獄でやるべき仕事が多すぎた、いや……増やされてしまったからだ。その元凶は勿論ユーリィ、彼はゴクオーに天子くんとの約束を破らせ2人の絆を徹底的に壊す……そうして彼女が地獄王を拒めば天使化なぞ容易い。裏ではそんな企みがあるとも知らずゴクオーくんは必ず来ると未だ信じてる彼女……思い上がるな人間。彼はトドメの一撃を、自分たち“人ならざるもの”と人間の決定的な違いという残酷な事実を突きつけた。
そこで鳴いているセミは、あと3日の命だ!メダカはほぼ4年しか生きられない。スズメにいたっては1年3ヶ月ほどの命だ。
━━今、キミはおそらく…、「短い…、」「あっという間だ…。」そう思っただろ?
何千何万年と生きるゴクオーにとって『人間』もそれと同じなのさ!
キミのたった1日の誕生日なんて、あっという間のできごとだ。どうでもいいと思ってる!
地獄の閻魔大王、ゴクオー。そりゃ彼は見た目は小学生の男の子を装っているが実際は数万年以上生きている神に等しい存在……人間の想像を遥かに超えるほど生きる彼からしてみれば、長くても100年生きれるかどうかの人間なんざあっという間に産まれ死ぬくらいの存在といっても過言ではない。そんな目を離した隙に散りゆく命の、瞬きする間に過ぎ去ってしまう1日の何を祝うというのかね?そのちっぽけな存在との約束が超越者にとって何の価値があるのかね?
彼女はただの人間であると誇ってたな、地獄王?ならば“ただの人間”であることを責めればよいだけのこと。大天使は去る…そして小野天子の心に残る疑念……自分が人ならざるものと交わした約束なぞ取るに足らないものなのか………ゴクオーくんはきっと私のことなんか…………
……大天使ウリエルは知らないだろう、地獄王が初めて天子ちゃんを地獄へ連れていった際に何があったかを。その儚き命から自分達の記憶を消そうとしたことを。その時にただの人間は何と言ったかを。「記憶を消さないで」「せっかく友達になれたのに」どうして彼からしてみれば一瞬で消え逝く命の「一緒にいたい」という願いを聞き入れたのかを。なぜ地獄の仕事を溜め込んででも“ただの人間”の彼女の隣にいつもいるのかを!
━━答えは、もう出ていた。
「わたしの誕生日なんてたった1日で……。何万年も生きてるゴクオーくんにとっては一瞬で……、どうでもいいものかって思っちゃって…。」
はぁ?だから大事なんじゃねーかよ!
いいか!?人間はせーぜー百年生きれっか生きれねーか!
だけどその間にスゲーオモシレーウソをつく!!
この人ならざるもの、人間への、特に小野天子への“愛”がすごい。しかもなんの恥じらいも惜しげもなく真正面から全力投球で“愛”をぶちこんできやがる。お前こういう時だけこれっぽっちもウソつかねぇな!!?コロコロコミックは(『ぷにる』が初となるほど)恋愛ものを扱わなかったとは言われてたが“愛”を扱わないとは一言も言ってないんだよな……さんざんヤバいヤバい言われたら読む前にハードル上がっちゃうな〜とか思ってたけど軽く飛び越えるどころかハードルごと薙ぎ倒してこちら側を完全に破壊してきやがった……もうちょい加減というものを知れよ読者の体がもたねぇだろ………
“ただの人間”であることを、人間というのは我々人ならざるものにとってはいかにちっぽけな存在だと責めたようだが残念だったな大天使よ。この地獄王、“ただの人間”だからこそ、短い命を全力で生きてるからこそ見せてくれる……それこそ前回の記事で語ったように「生きているからこそついてしまう等身大のウソ、そしてそこから紡がれ生まれる“つながり”」が好きなのだ。この地獄王の叫ぶ人間への愛は、これまで積み重ねた描写が、ウソをつきつつも非を認め謝罪し許され共に前へ進む“ただの人間”の描写あるからこそ深く強い説得力が生まれる。この命短くても力強く輝き見逃すには勿体ないほどの“光”を「どうでもいい」とは決して言わせない。
そしてその“光”に気付かせてくれたのは……それ以上にすげぇ「おもしれーウソ」をついてくれる“ただの人間”な小野天子なのだ。天子ちゃんがあのとき見せてくれた困難に負けないためのウソをついたから、地獄の恐怖を前にしても失いたくない“つながり”…ゴクオーくんとの仲を守るためにウソをついたから。何万年以上も生きていて初めてこんなに心躍るものを見せてくれた現世の人間の大切な1日を、一年に一度しかない記念日を、自分にとっちゃ一瞬で過ぎ去るからとかのしょーもない理由で忘れたりほっぽったりなんか絶対するわけない。小野天子……本当にとんでもない存在にとてつもないほどに巨大なる愛を向けられてしまったな。ごく普通の小学生の女の子ですよ?(まぁ天子ちゃんだし仕方ないか…)前回の記事でゴク天要素がどうしても足りなくなってしまったのはこの21話が必要だったから。ホビーや爆笑ギャグに夢中な男児がメイン読者の児童誌にてなんちゅうもんを見せてくれるんや…………こんなん…………
………普通の女の子に愛を向ける人ならざるものはもう一人いる。ユーリィくんこと大天使ウリエル。彼もまた一人の人間を愛し……愛してるからこそ……
・大天使が護りたかった人間〜その“白”が穢されるのが、赦せなかった。耐えられなかった。〜
小野天子を天使にせんと狙うユーリィ・L・神城。そもそもファーストコンタクト事態が「彼女ががんばって描いた絵を汚し、それでも辛い気持ちを表向きには決して見せぬ清らかな心を見たかった」とこれまで現世の人間が生きていく上でついてしまったウソとは一線を画する、対象への実験及び観測のためのウソという人の営みから外する理由と上位存在っぷりをこれでもかと見せてきた。彼は天使。天使の仕事は人々にキセキの力を用いて時に助け時に幸せにすること……そもそも彼は現世の人間を善き方向へと導く観測者であり、人類の守護者なのだ。……
……この世には善人ばかりではない。18話にて地獄に堕ちても尚まだウソついて減刑を目論む土壺浜流や26話でサンタの衣装を着てクリスマスキャンペーンに便乗し窃盗を繰り返した置き引き犯といった明らかな悪人はもちろんのこと、この酉馬のように普通の人間ですら時に他者を傷つける悪意をも備えてる。それは今作においては「ウソという形で、生きるために誰もがついやってしまう過ち」として描かれる…だが同時に小さな罪であっても結末として地獄に堕ちる可能性があるというのも描いているのを忘れてはならない……
「ウソだらけの世の中で天子ちゃんは生きていく」確かに汚れまみれのまま死んだ悪人ばかり見てきた地獄王にとって現世に生きる人々は清も濁も併せ呑めるほどに素晴らしいものとして見えるだろう。だがな、天使はお前が見てきた時間以上に現世というものをずっと見てきた。人類を善き方向へと導いてきた。人を救ってきた……なのに…………
大天使ウリエルとの決戦は28〜30話の3ヶ月連続の長編として描かれる。ユーリィが忍ばせる非道なる作戦、罠に嵌ってしまうゴクオー、天子ちゃんの怒りそして天使化、天国へカチコミかける地獄長たち!立ち塞がる大天使!(ガブリエルの落とし込みあれでいいの!?)ウソと絆の大作戦!閻魔大王と大天使の策謀巡るバトル!ウソに引っかかるユリ太郎!因果王砲!そして……彼がなぜ人間を天使にするという神にも背く暴挙を行ったのか……舌を抜かれ、告白する。
大天使を育てるとか…、世の中を救うとか…、ホントは…どうでもよかったんだ…。
ボクはやさしい人間を、やさしいままでいさせてあげたかったんだ。
天使とは思えないくらいのドス黒い手法を用いた大天使は、天使としての使命にあまりにも真摯であり、それ故に人々を傷つける現世や救いたかった人々を救いきれなかった事実に絶望し続け、己の手を黒く染めようとも穢れなき白き心を持つやさしい人間を護りたかった。
現世に何度も絶望した彼なりに心清き人間を…その第一号として天子くんを護りたかった。酉馬のように、彼が直接関与する前からいた前担任を始めとした数々の人間が振りかざす悪意から。いくら地獄王が捨てたモンじゃないみたいに嘯こうが現世というのは人間たちの悪意渦巻く万魔殿だ。それもかつて善人だった筈の者達がその悪意を生み出す……それならば善人がそいつらみたいに悪に染まる前に、天使という人の理を超越した存在にし、現世から隔絶させるしか確実に助ける方法はない。観測者であり守護者である彼は人の弱さをよく知ってるから……
…外道に手を出しても護りたかった小野天子は護るべき価値ある美しい心も優しい心も持っている。だが、もうひとつ忘れてはならない心も備えている……酉馬から悪意を向けられた際にゴクオーくんを護るために泣くのを耐えたように、前の担任が発した悪意により仕組まれたウソで煽られたリンチに対し平気だとウソをついたように……大好きだったおばあちゃんが亡くなるという受け止めねばならない悲しみを前にしても感謝の言葉を発したように……小野天子は、悪意や悲しみに決して負けない強い心も持っている。
そして他者を慈しむ優しき心も、真っ直ぐに感謝する美しい心も……
キセキで番崎くんを助けてくれてありがとう。
おばあちゃんに会わせてくれてありがとう。
ユーリィくんに会わせてくれてありがとう。
ゴクオーくんたちに、
みんなに会わせてくれてありがとう。
小野……………天子ッッッッ!!!(ボロ泣き)
たしかに小野天子は天使ではなく“ただの人間”だ。けれど……「天使のようだ」と形容されるような美しく、優しく、強い心を備えている……これからも現世で何度も困難に立ち向かう事になるだろう。それでも……紡ぎ生まれた絆があればきっと乗り越えられる………そして別の誰かも助けることができる。彼女からはそのような希望あふれる確信を抱けるから。
ある定命の幸せを願う2人の人ならざるものがいた。一人は穢れなき“白”を見た。一人は闇の中で輝く“光”を見た。互いに見て感じたものは違うかもしれない……けれど、幸せでいてほしいという気持ちは同じである。その定命はこれからも人ならざるものの“つながり”と共に生きていく…小野天子は、本当に皆から愛されている。
・今回はここまで〜こんな満足度高いのにさらに引き出しがあるんだぜこの漫画〜
ということで今回はユーリィ編の30話までの感想を語ってみた。この漫画ほんとすごい。既読勢が「7巻まで読んだら完全に後戻りできなくなる」とはよく言ってたがまさにそれ。今作は長編が絡んでも面白い…というかコロコロコミックという読者の移り変わり激しい雑誌でこういう縦軸の話ようガッツリ描くのようできたなと再確認する。作者だけでなく編集といった方々もすごい決断と運営力を感じる。
さて、ユーリィ編が終わり次はしばらく日常話が続いてから(この間に挟まる話もおもしれーのなんのって)39話より新章…地獄の釜の蓋が開かれ“奴”が帰ってくるのだが、最初ユーリィ編終わってからこの漫画他にやることあんのかと正直疑ってた。杞憂だった。お前そんな…………ということで感想これから書くのでお楽しみに!(間違いなくこれより長くなるだろうけど)
それでは!ということで続きの“奴”の話の感想を書きました。