ネクスト編へ到達した『ウソツキ!ゴクオーくん』はついに究極の〇〇を出してきた……ウソやろこれコロコロやぞ!?(〜100話まで)
※注意!今回はネクスト編とその周りの77〜100話までのネタバレしかありません。
神回。我々の間ですっかり浸透してしまった単語であり、人によっては陳腐と感じることもあるだろう。しかしそういう無粋な気持ちは置いといて、長く続いた作品だとファン間の会話で「あの〇〇話は神回だ!」と出てくるのはよくあることだ。この『ウソツキ!ゴクオーくん』においてもファン周りから非常に人気の高い“神回”なるものがあると個人的には感じている。
ひとつ、4話「地獄に落とされた天子…!」
ふたつ、21話「地獄が危機!?天子の波乱のバースデー」
みっつ、56話「犯人は天子!?緊迫の学級会!!」
そしてよっつ……今回話すネクスト編において収録されている99話だ。「すごすぎて脳の処理が追いつかない」「これ公式で出してええんか?」「狂う」「99話を読まず人生を終えなくてよかった………」と途轍もないワードがじゃんじゃか飛び交うので自分も「そんなに“スゴい”んスか〜??」なノリで読んだ。ヤバかった。最初から最後まで全てヤバすぎる。ヤバいヤバいの集大成。コロコロコミックでとてつもねぇ〇〇を出してきやがった!(〇〇の中身は後で明かします)そして次の決着が付く100話でボロ泣きした。こっち(100話)もヤベえじゃねぇか先に言えや!!
てなワケで今回は前回の続き77話からネクスト編が完結する100話までの感想になっております。もちろん未見の方々はサムネの背景に映る変な奴や『究極の嘘』ってなんなんだよで認識を留めておきなさい。それでは奇跡の物語を始めよう……START!
・ある時はウソをつき、またある時はウソへ立ち向かう人間の物語〜正しさに、自分の存在意義に縛られてしまった者〜
ハイハイどうせすぐネクストの話しないんだろって?AH〜♡モチロン ウソだ!ウ、ソ♡
今回のネクスト編も長かったサタン編に匹敵する話数を誇るので日常回においてもいろんなウソがいっぱい出てくる。今回もピックアップしていこう。
とまぁ見どころ沢山だが今回特に衝撃を感じたのはやはり91話「正義が人を傷つける」である。この話が週刊コロコロで配信された周囲に知れ渡った暁には人々の価値観の刷新が発生するのではと憶測するほどの衝撃的な話だ。それは……
6年2組の尾局静(そういうキャラとはいえ小学生の苗字にしてはあんまりだ!)はいわば…学年に一人いた気がする正義感強すぎる女の子というか最近なにかと良い意味悪い意味の双方で目立つ人権や自由のために立ち上がり戦う女性そのものだ。あれ小学生で培われる個性の延長に存在するんだなと妙に高い解像度で出してくる流石の漫画よ。そんな正義を振りかざしせっかくの和気藹々で楽しい空気をあー言えばこー言う理論武装でぶち壊した人間ってたいてい憎まれ、こういうフィクションだと相応の某スカッと番組みたいな結末を迎えてざまーかんかんめでたしめでたしになるのだが……この漫画がそんなシンプルに終わるワケがないのは皆さん周知の通りで。
そもそもこの尾局さん、間違ったことは言ってないのは勿論のことその正義感に相応しき高潔な内面を併せ持った尊敬に値する人物なのである。勉強熱心で面倒事を引き受けリーダーシップもあり、困ってる人には手を差し伸べる優しさも備わってる。前述した89話においてワッピーちゃんのパチもん鉛筆掴まされた天子ちゃんを気の毒に思うも、彼女がそれすらも受け入れる優しさに純粋に感動したりと彼女は本当にいい人なのだ。そしてそれは「正義」から、正しい行いをするべきという己の信念から成り立っている……あの時“ウソ”をついたのもそうだった……
困ってる人を我が身を乗り出して果敢に助けた正義。まさしく称賛に値する素晴らしき正義だ。しかし何故か彼女はウソをついてる……理由は簡単だ、少年を助けるためにフェンスに登った…そして助けた後に「フェンスに登ってはいけません」という決まりに気付き、守らねばならぬ「正義」を自身が破ってしまっていたのに気付いてそれを隠したかったからだ。まぁそりゃやっちゃいけないもんをやっちまったのはイカンだろうが、その決まりを破った理由として彼女は少年を助けたのだ。それならばその一件はちゃんと謝れば皆も納得し許してくれるだろう。彼女は悪い人間ではないという確固たる信頼はあるから……
その“信頼”の根本たる自身の貫き通す「正義」こそが、彼女をウソで塗り固めてしまっていた要因だった。
助けた筈の寄道くんへ許さんと責め立てる尾局さん……彼女が信じ、遂行し、貫いてた「正義」をお前のせいで破綻させられてしまい、自分が掲げてきた「正義」にこれ以降ずっと矛盾というほころびがつきまとう恐怖からの怒り。これ児童誌で取り扱えるテーマなの?しかし今作がこれまで初志貫徹で描き続けていた「自身のプライドや(学校内で代用される)社会的ポジション、そしてアイデンティティを守るためについてしまうウソ」があるからこそ、こんな大人までも身につまされるようなテーマを描けたであろう。
前回取り上げた一久世くんが他者によって形成されてしまった「素晴らしい人間」というアイデンティティのせいで冗談や悪態すら受け入れてもらえず苦しんでいたように、尾局さんも……元来から備わる正義感の強さによる行動によって「正しい人間」というアイデンティティを形成していった。もちろんそれは寄道くんを助けた優しさのように善き方向に働いてるのも事実だ……しかしその正義による行動で形成したアイデンティティ自体が今度は彼女に「正しくあれ」と他者にも(相互理解で済んだ和やかな雰囲気を粗探しで鎮圧してでも)無理強いするようになり、その無理強いは己にも課せられ終いには正しくないことをしてしまったという矛盾に耐えきれないほどに己の体をガチガチに固めてしまった。それこそが彼女の抱えてしまった“ウソ”…明らかに無理があるのに己のために貫き通さねばならなくなってしまった『自己表明の為だけの正義』である。
尾局さんだけでない、法律・常識・信条・思想・社会的ポジション…人間は誰もが大なり小なり「正義」を持ち合わせており、それは自分を律したり他者を助けたりと善き方向にも働くから基本的に否定してはならぬ存在だ。しかしその存在が側面ならまだしも自分自身を象徴するほどに形成してしまい、他者から崩してはならぬと強要されて自分が分からなくなったり(これが一久世くん)自分も崩したら今まで積み上げてきた自分自身が崩壊するのではと恐れから暴走してしまうのは誰にだってありうる…この漫画はそれをずっと描き示したように。しかしそれによる正義の暴走は……
「正義が人を傷つける」そのタイトルにあるように彼女が己のアイデンティティを崩したくない故に振りかざした偽りの正義が寄道くんを…本当の正義で助けた少年を傷つけてしまった。彼女がただの断罪される偽善者ではないとフォローしつつ、だからこそ誰もがこうなってしまう可能性があると示す恐ろしい描き方だ……上で挙げたなにかと目立つうんたらの方々を含め己の掲げた正義が過激になってしまった人をよく見かけるとは言ったが、そういうのも「自分を支持してくれる皆を裏切ってしまったり自身の生活が危うくなってしまったりで省みることすらできず暴走するだけになってしまったのでは」と自分の頭によぎるようになってしまった。尾局さんがこの「つまんねーウソ」による過ちに気付き後悔したのはマシだっただろう……この漫画が描き続けたもう一つのテーマ「誰もが間違えウソをつき、その過ちを受け入れ反省し、そして皆から許され共に前へ進める」があるのだから。
尾局さんが自分のためしかない偽りの正義なる悪の心で他者を傷つけるまでに暴走していたのは事実、しかし本当の正義で寄道くんを助けたのも同じく事実……その善の心によって生まれた恩は決して無くならないし、彼はその正義を以て彼女を守ろうと勇気を出した。人は誰だって間違いを犯してしまう、しかし生きているならばそれを悔い改め、支えてくれる人々と共に次こそは善き方向へと進めるのだ。彼女もまたそうであるように……正義というフィクションにおいて汚しやすいテーマをそれだけでなく高潔な部分も肯定する作風にするのは今作が積み上げた描写があるからこそ。
そして今回ネクスト編にてテーマになるのがそのアイデンティティ。何者かになりたかったものが何者かになろうと暴走し、その果てに何が待っているのか……見届けていこう。
・マイネームイズ【ネクスト】〜そのキセキは誰がために〜
ということでお待たせしました皆さん。今回にて出てくる……ゴクオーくんがナナシノを現世に逃がしてしまった罪だけでなく地獄の仕事ほったらかしで現世うろついてばかりの罪もろもろで神罰を下すために舞い降りた執行者、神の後継者を名乗る『奇跡のネクスト』だ!
このネクストの最大の特長といえばやはり無限に生み出せる「キセキ」…天使が人々を助けるために用いる力を無尽蔵に使えるとんでもねー奴だ。心眼!物品創造!そしてチート能力のテンプレ・因果律操作(どんな攻撃も当たらない確率が僅かでもあればそれを引いて避けちゃうアレ)もできちまうんだ!コイツさえいればウリエルが嘆いてた心清らかな人間を救うためには天使もキセキも全然足りない問題が一発解決するやん!と自分は思ったが甘い考えだった……ネクストは現世や人間なんかに微塵も興味を示さない。ウリエルを封印する際に落雷クラスのエネルギーを生じるキセキを用いたが現世に与える影響なんかも知らん顔。彼は己の為だけにその最強の力を使うのだ……神の座を引き継ぐに相応しい器となる、その目的に必要な『究極の嘘』を完成させるために。
そんな見下す人間なんぞどころか地獄王へ下す罰にすら興味ない奴がわざわざ現世に降り立った理由こそが『究極の嘘』だ(ウソをテーマにした今作においてずいぶんなモン出してきたな…)その『究極の嘘』を完成されるには人間が持つ四つの強い感情が必要なのだ。だからその為に人間に近づかなきゃならないし目当ての感情を引き出すためにウソを演じなければならないなんて面倒なことだ……その感情とは、
「怒り」と
「苦しみ」と
「喜び」と
そして最後の感情は……まぁそれは後にして。
かれこれ様々な人ならざる存在が出てきた今作だったが、人間に対し全員愚かだと思い込んでたり善意を期待しすぎたり悪意を妄信しすぎたりと様々な思想が出てくる中で無関心を貫くというのがいそうでいなかった。あくまで人間は目標のために感情を採取する素材のようなもんさ。そういうのにこちら側が感情を向ける価値というのが分からない……
さんざん人間を虫ケラだ・愚かだ・興味ないと言っておきながら、今…天子ちゃんを『名』で呼んだろ?その時点でおまえは…。
人に興味あるんだよ。ウソついてんじゃねェぞ?
ブレイモノ
ヨヲ グロウ スルカ
(時系列的にはこれから後の話になるが)上述した尾局さんの一件を思い出してほしい。彼女は少年を助け結果的にルール違反をしでかし、自身にも課してた「正義」が破綻するのを恐れウソで隠したり突き詰められ暴走したりした。それは己が己であること…つまり「アイデンティティ」を守るための防御行動である。ネクストも神に君臨する際に必要な『究極の嘘』を完成させる為だけに渋々と人間に触れ合わねばならなかった……ウソの演技だろうと人と向き合い意識したのだ。その中で自分の想定外の行動してくるオノ・テンコに疑問を、人間に興味を示していた……その事実を認識してしまったら、あれだけ気取っていた「いずれ神になる」という自身を形作るアイデンティティの一部分に“ほころび”があると指摘されたら……否定せねばならぬ。
そんなガチギレしたネクストを前にゴクオーくんは彼らしからぬ“あるウソ”をつきそうになったり、初代の失態を食い止めようとしたサタンのキセキでなんとかネクストだけ孤地獄に封印した……しかし奴のことだ、キセキの力で脱獄を図るだろうと警戒されており、案の定とばかり地獄門にちいとばかしキセキの残滓を付着させてそこから奇跡を起こし現世へ逃亡したのだが……
・オレは【輝石野ネク助】〜かけがえのない、大切で、くだらない想い出〜
92話「敵!?味方!?ネクストの異変!!」にて現世へ戻ってきたネクストだが、なんとキセキを使いすぎて記憶喪失になってしまった。まーた油断させる為のウソ演技か?と思ったがサタンの刃にガチビビリしてるみたいでマジみたいだ。そのまま神の元へ帰してもなんかで記憶が戻ったらまた悪さするだろうし……地獄王は賭けに出た。6年2組の転校生『輝石野ネク助』として迎え、人間の素晴らしさを体感してもらう。人間の感情を侮辱したような悪事ばかりしてきた彼だが潜在的には興味を示してたし今ならばきっと……
そんな彼にさっそく6年最大イベントとも言える修学旅行が発生する。もちろんネク助も一緒だ。そこでの6年2組としての想い出は素晴らしいもので……
最後に記念写真を撮ってもらい、それは彼にとって最高のたからもの…人々のつながりから生まれた“絆”の象徴になっていた。
「この写真を見るたびに思えるんですよ。みんなに会えて、八百小に来てよかったって…!!」
「オレは…、人間のことが…、大好きになりました!」
…97話「神の後継者、復活!?」より
「オマエがいい人そうな、なにも考えてないバカそうなヤツだったから、泥箱事件の罪をなすりつけようと思ったんだよー!!」
「オマエみたく、中味もなく、ただ楽しそうに生きているヤツが、一番ダマしやすいからなァー!!」
既に彼は輝石野ネク助という6年2組としてのアイデンティティを持っている。もう神を目指そうなんかしなくたって君は満たされている。地獄王の賭けは見事に成功した……かに思えた。確かに目覚めそうだった。キセキはヒビの入った思考の隙間から覗き込み、また別のキセキによって完全に……
98話「究極の嘘、ついに発動!!」より
目覚めた彼がやるべきことはひとつ、『究極の嘘』を完成させ神を継ぐに相応しい存在になることだ。記憶を失った際にゴクオーによって人間の営みの中に放り込まれた頃なんか神になる自分にとっては無駄な遠回り……いや、目的のために利用する道具に使わせてもらおう。たとえばこのように動揺させて目当ての感情を引き出しやすくするように。
その欲する感情は「悲しみ」…オノ・テンコも察したのかガードしてるようだがもう遅い、お前にとびきり効くのをこちらは実際に見て知ってるからな。
あの時の再現をすれば、こんなにも大きな悲しみを出してくれるということさ
完成してしまった『究極の嘘』とは……時間を過去に戻し全てを「なかったことに」するキセキだった(それ嘘の範囲内に含まれるの!?と思ったが実際に見てみると理由が分かる)。それでゴクオーと人間どもに絆が生まれる瞬間を妨害し相変わらず人間が愚かだと思いこんでる状態の彼を服従させ、さらにそこから天地創造の時代にまで介入し自分自身が神として君臨する歴史を積み重ねようとする大規模すぎる作戦なのだ!これまでこの漫画がコツコツ丁寧に積み重ねた人々のつながりを破壊しようなんざ絶対させないと手を伸ばすも………
2011.04.30
ビックリ読み切り
衝撃の!!ウソツキヒーローあらわる!
その正体は…?
知ってるか!?
剣より銃より
ウソは強いんだぜ!!
まさか第一話からやりなおし!?(月刊コロコロコミック2020年2月号にて実際につけられた見出しより)
・過去の意思は嘘では欺けない 感じろ そう Nexus Future〜絶対に忘れたくない、闇夜に燦々と輝く星々の光〜
(末吉秀太feat.ISSA『Over Quartzer』歌詞より引用)
噂には聞いてたけどマジでやるかこれ……なんとこの既読勢から神話のように語られる99話「過去で未来をとりもどせ!!」は1話をそのまんま持ってきた。これリアルタイムで見た読者の衝撃すさまじかったでしょ……まだキレやすい番崎くんも生徒を私怨で追い込んだ悪しき前担任もいるし初期だから仕方ないがヒッチーや雨地くんらしきバッタもんもそのまんま。ただし当時には存在していなかった首謀者がいる、ネクストだ。
そんな頃まで時を巻き戻しネクストはゴクオーと人間どもの絆を発生せぬようにする。当然そんな妨害が介入することなんざ知らない過去のゴクオーくんたち!フィクションにおける最強能力によくある技・タイムリープに対抗策も用意できぬまま只々好き勝手めちゃくちゃにされてしまうのか!?
……さて、この勝利確定に近い所まで状況をセットアップしたネクストだったが、彼は3つのMISSをやらかし『究極の嘘』をゴクオーに破られてしまったと個人的には考えている。
まず第一のMISSは「妨害するタイミングを見誤った」ネクストはゴクオーと人間との間に絆が生まれるのは「ウソ事件を解決した結果」と考察し、それをキセキで妨害してやればOKだと踏んでいた。しかし……実際に1話を見た皆さまなら読みを誤ったと察するだろう。だって彼の運命のターニングポイントはもうちょい前なのだから!
全然そろそろじゃなくて完全に出遅れてるネクスト。地獄の罪人の愚かなウソとは違う、理不尽なる逆境に決して負けないとつく気高く強くおもしれーウソ。それを地獄王に見せてしまった。これこそが第一の敗因。そしてここからまさかの展開、そんでもって第二のMISS…「『究極の嘘』は所詮『ウソ』である」だ……
そうだ!こんなオモシレーウソ……、
オレっちが忘れるハズがない!!!
オレっちの性根が…、うったえてる!
オレっちに!!
このウソは…、決して忘れてはならないと!!!
『究極の嘘』なる時間を巻き戻すキセキ、これは某猫型ロボットの漫画や某デロリアンな映画に出てくる搭乗型タイムマシンの「個人が過去の世界に行く」タイプではなくて、某奇妙な冒険に出てきそうな「自分以外の世界全体の時空を歪め過去に巻き戻す」というとんでもない規模なのだが…もう一度名前を見てみよう。『究極の“嘘”』。これはつまり「ウソ」。時空を歪めるという形で世界全体に「時間が巻き戻っている」とウソをついていると考えるべきである。この1話という過去の世界も1話での行動している地獄王も、実際はみんなその時空の歪みというウソに騙されてるだけなので実際は98話から地続きの状況つまりネクストと同じように99話の一部という未来として時間は進んでいる。
どうしてそんなの断言できるのかというとこのゴクオーくんの感じた違和感が証拠……何千何万と生きた神に等しき存在の自分が人間に対する価値観を見直した“瞬間”に既視感を憶えていた…その“おもしれーウソ”は時空が歪み記憶ごと過去の世界に飛ばされようが決して無くならないレベルに自身の心の中に刻み込まれていたのだ。そんなバカな!?と思いがちだが石豆くんがナナシノとの記憶が消えた筈なのに転生先の喜生を見て自然と涙がこぼれた前例があるではないか。それのさらにとんでもないバージョンである。そしてこの初代閻魔大王・地獄王、なによりウソを暴くことにおいて右に出るものはいない。ウソから生じた違和感や矛盾を感じたら原因を探らずにはいられない、つまり……
時空を歪ませ世界全体にウソをつく『究極の“嘘”』に対して「過去の世界で今を思い出す」というウソ暴きを始めてきた。これがネクスト第二の失態…ウソバカにウソで勝負を挑んでしまったことである。仮にマジで過去に飛んで歴史改変するタイプだったらこの攻略法は不可能なので危なかった……さすが今作はウソを扱う漫画、時間干渉技の突破口もこうするとはである。
そして地獄王は必死に思い出す。なぜ憶えているのか、なぜ忘れてはならぬと体が心が叫ぶのか、そして……辿り着いた。
ウソで構築された世界に、ありえぬはずの言葉が……未だ知らぬ筈の「小野天子」という名前を、どれだけのことがあろうとも決して忘れてはならぬ「ツヨク、ヨワク、ケダカイ ウソヲツク 人間」の名前を言葉に出した。ウソで構築された世界に矛盾が、破綻が生じ、ヒビが入り、崩れ落ちようとしていた。やべぇもん見ちゃってるよ俺たち……こんな突破方法アリかよ…?「過去に巻き戻されたけど未来で培われる記憶を思い出して現代に戻る」とか伝説だよこんなん後世の漫画界に語り継がれるだろ……
『究極の嘘』破れたり。そしてネクスト第三のMISS…時空の歪みというウソだと気付いても、その時空を元に戻すなんて膨大な体力と精神力を使いただでは済まないのに、何故そこまでしてでも……「人間と紡いだ“絆”を失いたくないとする可能性を考慮できなかった」だ。何故あんなモノのために!?WHY!?
あんなモノだからだよ。
オレっちは現世に来て知ったんだよ。
人間は弱くて…、未熟で…、ことあるごとにウソをつく。
コイツらは自分で悩み、考え、助けられ、ウソをつき、失敗と成功をくり返すコトができる!
人間にゃ、未来っつーやり直せる場所があるんだよ!テメェのかってで過去にもどってやり直すだァ?そんなコト…、
オレっちが絶対させねェ!
「人間讃歌」じゃん…………究極の人間讃歌をド直球ストレートで投げ込んでるやん………………………………地獄王にとって現世の人間と共に歩んで側で見てきた彼ら彼女らの人生は……………決して忘れぬことない、今を生きる人間を心から尊敬する自分自身を形成する最高の“想い出”じゃん……………ネクスト、これがお前が負けた真の理由だよ。人の側に近づき内心で興味を持ってなおそれを無視し虫ケラと見下し蔑み感情を搾取するだけしていたお前が勝てるワケねぇだろ……………
………いや、ネクストもそれを知っている。第三の敗因になった「人間と紡いだ“絆”を失いたくないとする可能性を考慮できなかった」その“絆”は彼にもあった。ウリエル・サタン・ゴクオーと交えた最終決戦を迎える100話「キセキの終焉!ゴクオーvs.ネクスト!!」において相変わらずのキセキ無双ぶりを見せつけるネクスト、さらに容赦せぬと彼が刃を向ける先はまさかのオノ・テンコ!絶体絶命!と思われていたが………
輝石野ネク助として過ごした大切な日々を、6年2組と紡いできた“絆”を失いたくないと立ち止まってしまう自分を考慮できなかった。
・自分が自分でありたかったものが掴めた自分自身〜きっと君にも【NEXT】はあるさ〜
無敵のキセキを破るには隙を突くしかない……その一瞬の戸惑いで十分だった。回避する間もなく天地融合技・天国地獄大地獄を受け封印結界により体内のキセキを全て放出されてしまったネクスト………それこそが彼の抱える“ウソ”の先に待つ真の正体だった……
言霊地獄長コトワリのように、神の放ったキセキがあまりに強大すぎて意思を持ってしまった奇跡そのもの……『奇跡のネクスト』というのは「初代閻魔大王・地獄王」みたいなかっちょいい役職名や二つ名ではなく『イエイヌ・しばお』に近い種族名とセットくらいの意味だった(突如出てくる晴山家の飼い犬しばお)これなら神の後継者と本来なら相当な地位にいる筈なのに階級社会厳しいウリエルに敬意払われてなかったのも納得がいく。そもそもこの奇跡は神の後継者でもない、「神から生まれたオレは実質神の子なので神の後継者を名乗るに相応しい」と拡大解釈による自己暗示で、神のように無限にキセキを出せるまでに成長しただけである。ナナシノの一件であった言霊の強さを自分自身で名付け力を得てしまう恐ろしさよ……
さらに真実という追い打ちは続く。そもそもコイツは自分がいつどうやって生まれたか、現世に来るまでだれとどうやって暮らしてたかの記憶が無い。明確に言及されてないが推測としてこのキセキは「ナナシノの一件や現世ほっつき歩くゴクオーに神罰を下すために神が放ったキセキ」ではないかと思う。それならばあんな神に君臨しようと自分勝手だったのに神罰を下す役割は所持していたし、現世に来るまでの記憶がないのも納得がいく……本来は神罰というキセキで消費させるエネルギーに過ぎないからだ。それが彼……消費されて消えるだけの役割、そんな存在が意思を持とうが己のアイデンティティなんざ持ち合わせてるワケない。
『究極の嘘』による時間巻き戻しも自分の過去を探すため若しくは自分の過去を埋めたかった……神として君臨することによって何者でもないただのエネルギーである自分に『神』という決して揺るがぬアイデンティティがつくよう欲していた。当然そんな生まれたてなエネルギーが社会性など持ち合わせてないし、そこで培われる感情なんてのも理解できない……表面上は模倣しようとも真には。だから感情豊かな人間に興味を示したし、それを指摘されたら神になりたい自分の存在意義が崩れ何も持たない自分になってしまうのでキレた。地獄王の「オマエは人間のなにを知っている?」はまさにその通りだったのだ……
そんな自分を神の後継者と思い込んでるエネルギー体だろうと神に匹敵する無限のキセキという世界を滅茶苦茶にしうるスペックを備えてる(実際しようとした)ので正体明かしも慎重に行わねばならない……そしてようやく元の姿に戻すという無力化に成功した。キセキも身分相応のちっぽけな程度しか持ってない、哀れな残り香、絞りカス……確かにネクストは人の心を踏み躙りすぎた、あまりにも最悪の存在だった。しかし、そんな自分が何者かを欲してた相手へ告げられた真実は……あまりにもあんまりなものだった…………
「輝石野ネク助」として6年2組と共に積み重ねてきた時間が、想い出が、絆がある。何も無いワケない。奇跡の塊ネクストは、みんなの大切な友達・ネク助くんなんだ。
小野天子………………………小野天子はどれだけ酷い仕打ちを受けようとも、受けた恩を決して忘れない人間だ。目の前で想い出を否定されようとも、最悪のウソによって永遠に残り続ける傷をつけられようとも、彼女はそれを行ったネクストであることを否定せずネク助くんでもあると言ってくれた。わざわざ過去に戻って自分自身を満たそうなんざしなくても、君は既に持っていたんだ……
……それだ。
その…せいだ。
オマエが…、オレにやさしくしたから…!!
みんなからもらった「友達」としてのアイデンティティに救われたけれどそれを認めてしまっては自分自身が欲してた神になる為に積み重ねてきたアイデンティティを否定しなければならないので感情ぐしゃぐしゃになりつつお前のせいだと叫ぶ人外〜!!!!!(ボロ泣き)ネクスト編はまさしく今作が描き続けてきた誰もが持つ「アイデンティティ」についての話だった。何者かになりたかった存在は時間の積み重ねによって既に確固たる個人を所持していた。それを表向きは非道ぶったり時を戻してやり直したりでいくら否定しようとも決して拭えず残り続けていた……そして彼は僅かに残ったキセキを、初めて誰かの為に用いて……
奇跡の塊ネクストにして八百小学校6年2組・輝石野ネク助。彼は決してカラッポの存在なんかじゃない。こんなにも愛され、満たされてるではないか。だから彼にも前を向けるような明日が、未来がきっと待っている……
See you NEXT time.
奇跡のような、輝くNEXTをありがとう。
・今回はここまで〜そして近づいてゆく“別れ”の時〜
まさしく神回と呼ぶに相応しい話だった。いずれこの話を週刊勢も味わうのかと思うとワクワクしてくる……楽しみじゃあ(ここまで辿り着くの順調に進んでも2024年になるけど)
さて、そんな『ウソツキ!ゴクオーくん』だが全119話、つまり残るはあと少しになってしまった。最初この感想書いた際はまだまだいっぱいあるぜと呑気してたがここまで辿り着いてしまったものだ……そして近づいてくるものだ。終わりが。“別れ”が。
だいじょうぶだよ。
オレっちはアンタが悲しむような別れ方はもう絶対にしない…‼
かつてユーリィが彼女に言ったように彼ら人ならざる存在と現世の人間たちとは住む世界や流れる時間が違うのは事実、いくらずっと一緒にいたいと互いにそう思っても時間には限りがある……そのいつか来るだろう別れそのものは否定しないゴクオーくん、そしてそれを受け入れてる天子ちゃん。近付くは新たなる展開、そして待ち受ける最後の戦いはもうすぐ側に……………
それでは次回は最終章一歩手前の116話まででございます!こちらからどうぞ!