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目指せ!人工!モテる女!

 最初に言っておく。大勢の人から恋愛的な意味で好かれたいという話ではない。私の友達に天性のモテる女がいる。その子の人間性に衝撃を受けた日の話だ。

 その友達は、確かに可愛い。それはそうなのだが、それよりも性格が超絶良い。

 彼女とは大学で同じ学科だった。4年間大学で過ごす中で、彼女のことを悪く言う人を見た事がない。そして彼女もまた、人の悪口を決して言わない人だ。人を不快な気持ちにさせることを絶対にしない。かといって、そこにわざとらしさや計算を全く感じない。フレンドリーだし、面白い話も沢山してくれる。出会った人を男女問わず虜にする、漫画の主人公のような人だ。私も例に漏れず、彼女に出会って以来魅了されているし、人間性を心から尊敬している。

 そんな彼女を含めた大学の友人3人で先週飲みに行った。お酒も進んで近況や恋愛についての話が一巡したところで、話題は「結婚前に同棲をしたいか」という話になった。

 彼女は、”しなくていい派”。私は、”したい派”だった。

 かなりびっくりした。なぜなら彼女が現在進行形で同棲していることを知っているから。

 彼女は吞気に、「えー、みっこちゃんは先に同棲したい派なんだね。どうして?」と理由を尋ねてくる。

「前、半同棲になったときに相手が使用する前のこれから体を拭くバスタオルを床に置くとか、洗った洗濯物も床に置くとか、結構きついなと思ったんだよね」

 そう答えると、「あ、分かる!」と彼女が相槌を打つから私は更に仰天した。

 え、分かるの?じゃあ、どうやったの?と本気で教えを乞いたくなった。私は元彼と、お互いの当たり前が異なることを発端とする喧嘩を何回もしてきた。お互いの違いを受け入れ合うことが大事と分かっていても、そう上手くはいかなかった。そこから違うの???と言いたくなるほど初歩の初歩と思うようなレベルの当たり前から違っていると、もどかしさが勝る。相手とすり合わせる必要がある互いの”当たり前”の量に疲弊した。同棲無しで上手くやって行ける方法があるなら、なんでも良いから教えてほしいと思った。

「○○くん(彼氏)のお家の床は毎日掃除されてて綺麗かもしれないけど、私の家は毎日ちゃんとお掃除できてないから、置かない方がいいよ~」

 彼女は、そう彼氏に伝えたらしい。開いた口が塞がらなかった。

 ”相手の家の床は、綺麗だったかも?”なんて今まで1ミリも考えたことがない。そんな風に相手を”間違い”としない言い回しについても考えが至らなかった。頭を思いっきり、フライパンで殴られたような衝撃だった。

 彼女の言葉を聞いて、私は、「自分の当たり前が正しい。相手のやり方は間違っているから教えてあげる必要があるんだ!」と、自分を正当化して相手を正してやろうとしていた自分の傲慢さを知った。穴があったら入りたい。

 そりゃ、同棲しなくても上手くいくな!と彼女に対して納得した。それと同時に、そんな伝え方が出来ていたら、自分たちにも何か違う未来もあったのかもしれないと思ってしまった。

 今更後悔しても遅いけれど、今からでも彼女のようになりたいと思った。相手を正解として受け止める、優しい世界を作れる人に。

 そんなことを思いながら、2軒目の居酒屋に入った。3人お揃いで注文した紅茶ハイが運ばれて来る。

「うわ、お酒濃い」
「え、あまーい」

 と同時に、二人が言う。私は濃さも感じなければ、甘さもなく、普通の紅茶ハイだと思った。「甘い」にも「お酒が濃い」にもそれぞれ共感する者は現れず互いに顔を見合わせたが、私は彼女を見習って、「○○の紅茶ハイは、作る時濃くなったのかもね」と言ってみた。

 そこからお互いの紅茶ハイを飲み比べが始まる。確かにひとりの紅茶ハイは濃かったし、もう一人の紅茶ハイも甘かった。私の紅茶ハイを飲んだ二人も「一番普通」と言っていた。

 同じ紅茶ハイを頼んでこんなに味が違うことあるの?と笑いが合込み上げてきて、それだけのことなのに結構笑えた。

 笑いながら、私も彼女のように、だけど天然ではできないから、人工のモテ女になろうと決めた。

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