健康と病気の間
「背が高いのね」
幼い頃から言われ慣れてきたこの言葉は、病気が発覚した12歳のときから背後にある意味が変わった。
私の身長が高いことは、私の性質であることに違いなく、私の遺伝子が携えている情報を忠実に具現化したものに違いないが、それは病である。
「背が高い」は遺伝ではなく、遺伝「病」によるものなのだ。
私が持って生まれた「マルファン症候群」という病気は、生まれつき体中の組織の結合が弱いために体のさまざまな部位が普通と違う。
高身長の他、細くて長い指、側弯、胸の変形などが典型的な症状だ。
だが、見た目に異常があるといっても、消え入りたいほどひどいわけでもなく、痛いとか苦しいとかさして辛い症状などない身には「病」としての実感がない。
見た目は人より目立って気に食わないが、大した不調なく生きてきた。
私の身体に異常をもたらす遺伝子は、病魔と呼ぶにはあまりになじみすぎ、あまりに悪気がない。
それは生まれた時から私の中で着々と活動し、私を創造している。ただ、働き方をちょっと間違えているだけで、頑張って私を作ってくれている遺伝子の一つに違いなく、実際にそれは私である。
とはいえ、病気は病気。
マルファン症候群が恐れられるゆえんは、発見や処置が遅れると大動脈解離を起こし、死に至る危険性があることだ。
私も病気発覚時に、いつかは予防的手術が必要になると医師から宣告を受けていた。そして昨年、ついにその手術を受けることになった。
経過観察は続けていたものの、ほとんど気にも留めていなかった病が突然目の前に立ちふさがった。
迫る現実を受容するまでに動揺、恐怖、不安、悲しみ、色々な感情を経験した。
そして入院、手術の経験を通して、自分のこれまでの力み過ぎた生き方を手放すこと、今、ここに集中して歩んでいくことが本来すべき生き方であることを知った。
私の病気発覚から手術後までの体験をここにシェアすることで、同じ病気でこれから手術に臨むという人や、この病といっしょに生きる人、他の病気とともに生きる人の何かの役に立てれば本望である。