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医師としてあまり口にしない技術的な悩み⑧
医療現場では常に十分な経験や知識で取り組めるわけではなく、うろ覚えの最低限の知識でなんとかしなくてはならないケースがあります。それを防ぐための僕の取り組みを紹介しますが、なかなか限界はあります。
不十分な知識と経験でやりつづけるわけにはいかないので、勉強をするわけですが、現場で使う知識や経験をそのまままとめてしまうと、参照するにも時間が足りなかったりします。
覚えられる量にも限りがありますし、しっかり記憶してあっても、コンディションによっては出てこない時があります。
患者さんによってはたまったもんじゃないと感じられると思いますが、人間が手作業でやっているのでどうしてもさけられないです。
では、仕事上の知識はどこまで覚えて、どこまで覚えて、どこまでわすれていいのでしょうか。駆け出しの頃かなり疑問でした。
ある優秀な小児科医は、僕に教えてくれました。
「薬の量やいつまで投与するかなどの細かい数字は覚えなくていい。よく使うならわすれないし、わすれそうなものは紙に記録してあるのでそれを見ながら投与した方が、うろおぼえでつかうより正確だし安全」とのことでした。
これはわかりやすかったです。
一方で、別の僕の上司は、
「記憶は大事だ。目の前に記憶していたケースに反応できるかどうかにかかわってくる」
つまり概念や特徴など知っていないと反応できない種類の知識については、覚えておかねばなりません。
例えば、肝臓に腫瘍があったら、まず大腸をみないといけない、などといったことですね。(肝臓の腫瘍は、大腸癌の転移であることが多い)
ただ、これも無限と言っていいほど大量にありますので、なかなか難しいです。
実用上は、直ちに想起できるように、情報や知識をインデックスにして簡略化し、すぐに取り出す仕組みにしておく必要があります。
さらに、丁寧にまとめる時間をとりまくっているとかなり時間がかかります。僕の経験では仕事の時間10に対して2、3くらいかかります。これでは効率が悪いですよね。どんどんたまっていったりします。
なので、できるだけ記録も簡単にする必要があります。
たとえば、僕はネット上で検索した文献は、すべてメールは履歴として保存されており、メールに検索ワードを入れてヒットした文献を追うだけで、すぐ以前の知識や経験の状態に復帰できるようにしています。
あと、医学書はほぼすべてPDF化して、うまくまとめられている本のページはスクリーンショットでカテゴライズしています。
そのなかでも大事だと思うのは、ちょっとでも最近経験していなかったら、必ずなんらかの書物を参照する習慣かなと思っています。
うろ覚えだけど自分で詳しいという自信があると、
その自信があるが故に、理解が歪んでいることがあり、
後からなぜこんなことを思いつかなかったのだろう、
変な考え方をしてしまったといったことをよく経験しました。
最近は遠のいているのに、自分の中ではあまりうたがっていない場合、
修正が効きにくく、重大な間違えになることがあります。
例えば、
消化器内科の先生が、肝臓にできた腫瘍を良性腫瘍(頻度が多く見慣れている)ときめつけてしまい、特殊な検査をしたのですが、くわしくていねいにみていませんでした。結局悪性腫瘍で次に検査した時には大きすぎて助からないといったことがありました。
書物を少し参照し、目の前の患者にあてはまるかどうか、チェックするだけで、だいぶ自分の考えの矛盾にきづくことができ、思い込みから一旦距離を置いて、より客観的に判断することがある程度できるようになります。
例えば、骨にできる腫瘍はたくさんありますが、年齢によってできやすい腫瘍とできにくい腫瘍があったり、形や分布など複数の項目を満たしたら、●●腫瘍の可能性が高くなるなど、複数の情報を合わせ技で判断していかないといけない場合があります。いくつかの要素をぼんやりピックアップすると矛盾があってもスルーして間違って判断してしまう可能性が高くなりますが、一つ一つ検討していけば、当てはまらない場合は、可能性を除外することができます。
とはいえ、全てに書物の確認をすることもできませんし、
ある程度経験が多いものは、自分は正確に仕事を遂行できる、と認識していないと、何もかも疑うことになり、まえにすすみません。
したがって、限界はあります。
全てのケースで、十分な知識や経験であたるのはまず無理ではないでしょうか。僕は今後もできる自信がありません。
つづく