多少損傷しても問題ない臓器のタフさ

重要と思われている臓器でも、多少損傷しても、機能に支障ないケースはかなりあります。
代表例が脳です。
おそらく損傷を前提としたシステムに進化していると思われます。
損傷しても、別のところで機能を代償したりしているようです。
このことを冗長性と呼びます。僕が経験した事例を紹介しましょう。

僕と同じ専門分野では常識ですが、
80代くらいになると、症状に現れない脳梗塞が多くなってきます。

梗塞とは、血管が詰まって組織が機能しなくなることです。

若い人でもなることがあります。
M r.childrenのボーカリスト、桜井和寿さんが小脳梗塞なったことがありました。

基底核、小脳というところの脳梗塞が多いです。

基底核は、運動をスムーズに行う箇所、
小脳は、平衡感覚などを制御する場所です。(ざっくりしすぎています)

ここに微小な脳梗塞が起きまくります。
特に前者は細い血管が多く、詰まると小さな梗塞が起きます。
後者はもう少し大きい梗塞が起きます。

たくさん起きると、脳血管性パーキンソニズムと言って、パーキンソン病のような症状(手が震えたり、手足に勝手に力が入ってしまったりする)になってしまいますが、1、2個くらいだと大丈夫なようです。

小脳は眩暈などで発症しますが、桜井さんは、その後のテレビ番組で、今は何ともないとおっしゃっていたのを記憶しています。

脳は重要な回路が大量に入っているので、少しの病変で、機能不全になることもありますが、逆に頻度の高いこのような脳梗塞だと、それに耐えられるってことなのでしょうか。

かなり大きな損傷があっても、全然普通に生活できる時もあります。
僕の知っている例では、
まだ、40代で前頭葉(脳の前方部分)を脳腫瘍で半分とったのにも関わらず、普通に生活・仕事している医師もいました。

これはびっくりしました!

前頭葉を損傷すると、衝動的な行動が増えたりするのは報告されていますが、仕事も今までと変わらないとのことでした。

我々は、病院にいると、臓器のダメージをよく目にするので、人間の体は脆いんだと思いがちですが(選択バイアス)、病院の外では、損傷や障害は当たり前で、修復したり代償したりしながら、みんな頑張って生きているというのが真の姿かもしれません。