医師としてあまり口にしない技術的な悩み②
医者の仕事でやはり技術的に限界を感じることがかなりあります。
医療業界以外の方も共通の限界を感じている方もいるかもしれません。
専門外の方でもわかりやすいように心がけながら、その理由や原因について考察します。
認知症と脳の形の変化を例に、知識と実際が全然噛み合わないケースばっかりで、はっきり判断できないことが多いという悩みの背景について、現実ベースでいくつか考えつく限り挙げます。
まず原因として、もともと加齢による脳の形の変化があります。認知症を疑われた人は、高齢者が多いですが、年齢を重ねると、大体小さくなってきます(萎縮と言います)萎縮が進んでいると、機能の低下をきたす部位の形の変化が微妙で、判定が難しいです。年齢によるものなのか、それともその部位の異常が起こっているのかの判断に苦しみます。
また、他の原因で脳の形が変わっていると、それに押されて機能の低下をきたす部位の形も変わってきますので、ますますわかりにくくなります。
さらに、検査が多すぎて変化に気づけないというパターンです。認知症を疑われた方は、高齢者が多く、頭の病気や怪我があっても、症状をはっきり訴えられない方が多いので、何か異常があったら念の為とすぐ検査に来るため、一人当たり多くの検査がある一定期間に何回も行われます。
脳の形の変化は数年単位で起こるものがほとんどなので、1ヶ月ごとの検査では微妙な違いに気づきにくいです。それでも数年前の検査が存在するものについては、比較を行って微妙な変化に気づくように努めていますが、ない場合は難しいです。
というのも、脳の形の異常があって、症状が出てきて困って受診するケースもありますが、症状が出てきてから、遅れて脳の形の異常をきたすケースがあるからです。
僕にはいくら経験を重ねて勉強しても、この両者の違いが区別できません。
最後に、数による判断の劣化があるのではないか、と思っています。
大量に同じようなもので、かつ緊張感のないもの(認知症の検査はすぐなくなるような病気が見つかることは稀です)ばかり見ていると、微妙な差がわかりにくくなってくるという、僕自身の判断性能の問題があるかも、と感じています。
というのは、ベテランの医師で多いのですが、明らかなに風邪ではないのに、風邪と判断してしまって重症化する、みたいなケースがあったりします。
どういうことかというと、ちょっとずれていても、頻度が多くてよく見るものとして判別してしまうという間違いです。
これの原因として僕が思うのは、頻度の多い病気があり、ベテランになると、頻度の多い病気の経験数は多くなりますよね。そうなると、自分が今パッと思い出せる経験が、よくあるケースばかりになります。そうなると、自分の中で、頻度の多いケースが、”ほぼこればっかり”に変化していくのではないか、と思うのです。例えば、ある病気の患者全体としては70%で起こる現象が、何回も見すぎて経験がありすぎるが故に、「90%くらいは起こる」みたいな間違えた感覚が生まれてしまって、目の前の微妙な違いに気づきにくくなるのでは、と思ったりします。僕にもこれが起こっているかもしれません。
もちろん、微妙な差をうまく判別するための計測法も開発されていますが、認知症の方は、指示しても守れなかったり忘れてしまったりするので、検査が理想的にできません。なので、現実としては計測法を用いても、単なる体のずれによるものの可能性が残ってきてしまいます。
https://遠隔画像診断.jp/archives/10306
アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドベータという物質が溜まることが原因とされてきましたが、そもそもアミロイドベータに対する治療薬がそこまでうまくいっておらず、(根治治療ではない)どうやらもっと複雑なメカニズムがあるようです。
我々は、病気がなんなのかという線引きができていないにも関わらず、雑多な症状の患者を集めてきて、検査をしてもどれがどれかわからないという、初歩的な段階で留まっている可能性もあります。
また、想像したくないことですが、そのような段階で、脳の形をいろいろ分類して調査した結果(医学研究)がほとんど、デタラメである可能性も出てきます。
現時点では、自分の能力が至らないのか、それとも勉強したことがそもそも間違えているのか、それとも第三の原因があるのか、そもそもうまく判断するのが人間として不可能な種類のタスクなのかも僕にはわかりません。
かなり嫌な予感を感じています。
続く