半人前でもいきなり一人でやれ
研修医の時の先輩に会いました。
研修医が一般的にやれる範囲を超えて、一人でやらないといけないことが多く、ある意味危険でしたが、先輩は、その後の仕事で役に立ったとのこと。
無茶振りのメリットについて簡単に語ります。
一昔前の研修医は、医学部を卒業すると同時に、医業をやっていたので、いきなり不慣れな外科的な処置をやったりしていました。
昨今は、(事故とかが問題視されたのか)研修医でやれる手技や医療行為は決まっていたりして、何でもできるわけではなくなっています。
特に外来の業務では、患者さんの状態がひどければ入院させたり、他の病院に送ったり、軽症であればそのまま帰宅する判断をしたりします。
現状では、研修医がまず患者を診察・検査をして、帰す判断であれば上司に聞いて承認を得てから帰すという流れがほとんどだと思います。
このように教育体制がしっかりしていて、安全体制がしっかりしているのは、システムとしてはとてもいいことです。
僕の研修病院は、違いました。数年前新しくできた病院で、上司もどこまで研修医がやってよくて、どこまではやっていけないかあんまり把握していないようでした。
外来の場でも、帰す判断は研修医でやっていて、上司に報告しなくて良い体制でした。(形式的にはカルテをみて承認することになっていた)救急外来だと、夜にも診療をやっているので、上司は報告を受けないでいると、ずっと休めるのでそれもあったのかもしれません。
ただ、その地域では医者が少なく、研修医も動員しないと、ベテランの医師が休めなかった事情も背景にあると思います。
看護師にはできないけど、研修医にはできて、ベテラン医師にもできる仕事は、研修医がやらないと、ベテラン医師しかできない仕事ができなくなります。
また、手術などでも、経験が浅いから見学だろうと思っていると「君が次執刀するんだよ」と言われて心の準備ができていないといったケースもありました。
僕は、見学している時から、次は自分がやる番だと思っていました。
実際そう思っていないでいきなり振られて、手順などがわかっていなかったりすると、もうやらせてもらえなかったりするので、大きなマイナスになってしまいます。
次は自分がやると思って見ているのと、他人事として見ているのとでは全く吸収量が違います。
注視して見学していても、いざやるとなると、注意が狭まってしまい、必要な手順を忘れたりします。
これは、僕の研修病院に特殊な事情ではありません。
話を戻して、何でもすぐに一人前としてやらされることが安全面として、いいのか悪いのかは一旦別にして話を進めると、
ある優秀な先輩と久々にお会いしたところ、その時の経験はかなり役立ったと言っていました。
ほとんど頼る人が誰もいないので(もちろんわからなければ上司に相談しても良い体制でした)、勉強のプレッシャーは強かったです。
僕の印象では、1年目の救急外来は毎回怖かったです。
何がくるわからず、重症者に対処できないからですね。
漏れや見逃しなく診療できているかも怪しかったですし、帰した患者が家で倒れて死んでいたらどうしようと思いました。
かなりの怖がりでしたね。
でも、先輩は、危険だったと前置きしつつも、自分で責任を持たなきゃいけない状況が良かったとのことでした。
確かに、修羅場にいないとわからない判断の迷いが体験できますし、その緊張感だと、驚くほど記憶力が上がります。病気の名前を間違えている余裕ないですからね。
ある程度の極限状況になると、学習が一気に進むのかもしれません。
特に危なかった、助けられなかった患者さんは強烈に記憶に残っています。
1歳の乳児の心肺停止が来た時、当直の医師は心臓の専門でしたが子供はやったことがなく、僕は一人で小児科医が来るまで、気道確保と点滴の確保をやりました。(心臓マッサージは看護師にやってもらいました)点滴は、腕に針を刺すのではなく、骨に直接針を刺す骨髄輸液という方法を使いますが、個人的に取った小児心肺停止時の資格の講習で習ったっきりでした。誰もいないのでいきなり本番でやりました。
ドリルで脛骨に穴を開け(整形外科の手術で感覚は覚えていました)、問題なく留置できましたが、小児科医でも挿管がうまくできず、マスクで換気しましたが、結局死亡しました。スタッフがみんな泣いていましたね。
これは、極めて個人的な感想です。
元々かなりの怖がりだったのですが、
頭が真っ白になるくらいの、怖い体験をできて良かったと思った時がありました。
他の職業では、ここまでやばいと思える体験をすることはできなかったなと考えました。おかげで救急外来は2年間で半年ほど研修していました。救急外来は、1年目の時怖くて大嫌いでしたが、気持ちが変わりました。怖いと思う自分を受け入れるような感覚です。ちょっと理解し難い感覚かもしれません。
システムとしては危うく、患者にとっては危険でも、不思議なことに個人の経験としては、メリットもあるようです。
研修先の病院を決めるのに、ある同級生は教育体制の充実さで病院を選んでいました。僕は全く違いましたが。
民間企業もそうだと思いますが、教育や研修体制が整っているのにこだわっても、本人としては結果としていいかどうか、はっきり言えないかもしれません。