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医療DX企業の勘違いと電子化の意外な有用性

https://www.atled.jp/wfl/article/39313/

このスカスカな記事みたいに、医療分野を電子化するメリットは、一般的に効率化だと謳われていますが、実際はむしろ手間が増えている箇所もあります。では、本当のメリットとはなんでしょうか。

多くの医療機関では、電子カルテが導入されています。
カルテというのは、患者さんの情報の記録です。電子カルテは、それを電子化してコンピューターで記録するものと思われがちです。もちろんその側面もありますが、医者が患者の検査を発注したり(「オーダーする」と言います)、検査の結果を参照したり、費用を計算する機能まで実装されています。

従来では、スタッフに口頭で指示を出せばよかったのに(指示とは、こういう処置をしてくださいとか、検査をしてくださいとか、リハビリしてくださいとか頼むこと)、口頭がダメになって、全部コンピュータ上の文書でやりとりすることが原則になります。
つまり病院全体の業務システムみたいなものですね。

電子カルテは、従来の紙のカルテと違って
僕が医師になった時にはまだ導入されていないクリニックもありました。

では、電子カルテが導入されると効率化されるかというと、微妙です。

電子カルテの設計がほとんどお話にならないからです。

電子カルテでは、患者さんの治療計画を入力すると、そのようにスタッフが動いて遂行してくれます。

そのためには医者が治療計画を専用のソフトで入力します。

以前使っていたシステムでは、がんの患者の一連の治療計画をカレンダーに沿ってスケジュールとして入力していましたが、最高2時間とかかかっていました。(入力1時間、修正1時間)治療は毎日同じことをするのですが、一日一日をぽちぽちクリックして入れていくのです。自動コマンドもありましたが、たまに壊れたり、イレギュラーな予定がカレンダーに反映されておらず、主に手作業になっていました。ある時には患者さん一人に350個の入力を手打ちで行ったこともあります。

一方、これを紙でやると、毎日同じなので、カレンダーにペンで治療期間の日付から日付まで、横棒を数本引くだけです。

電子化していなければ数分で終わります。複雑になればなるほど、紙の方が圧倒的に早いです。電子化は融通が効きません。電子カルテを実情に合わせて少しカスタマイズするだけでいきなり100万円単位の工費を請求されるので、全然現実的ではないです。

で、実情に合わないところは、結局手作業でやらざるを得ず、そのためのマニュアルが必要になってきたりして、もし引き継ぎが適切に行われないと、エラーが出てトラブルが起こったりします。(こんな例は枚挙にいとまがありません、数えきれないほど経験しました)

あるクリニックでは、複雑なシステムを導入せず、Windowsのデフォルトでついているメモ帳で、記録しているものもありました。

さまざまな部署が集まる病院では、部署ごとに使いやすいインターフェイスや、使うソフトが異なり、全部の人が満足に運用できるシステムを設計するのは事実上無理ですが、
それの皺寄せが運用している人にかかってくるのです。

少し話はそれますが、医療の電子化という点で、
専門医が、家にいながら画像検査などを参照でき、病院に行かなくても、患者の診断や治療方針を助言できるチャットアプリを作った会社がありました。今まででは、わざわざ出勤しないといけませんでした。
ところが、このシステムを運用するには、アプリの前で張り付かないといけないという義務が発生するので、結局勤務体系を変更しないといけなくなったりするのは容易に想像できます。実際このアプリを運用している医者に会ったことがないです。(開発会社と知り合いで説明は聞きました)

病院間の連携ネットワークで、患者の情報を共有するものもありましたが、地域だけで、他府県になると使えません。そもそもOSがWindowsXpの専用端末だったので、大丈夫かと思いました。(2022年の話)

つまり必ずしも全てが効率化になるとは限りません。効率化を逆行する箇所も出てきます。

でも、電子化でないと絶対できないメリットがあります。その一つは、
記録が誰でも読めるようになる、です。

は?というリアクションも多いでしょう。
記録は読めて当たり前だと思われる方が多いでしょうが、医療現場では異なります。

ベテランの医療従事者の方は、よくご経験されていると思いますが、
医療機関の中で飛び交う手書きの文書は、読めないのがかなり多いです。
ちなみに、患者にとって重要な情報が読めないことも結構あります。

昔は、医者の汚い字を解読できるベテランのスタッフがいるところも多かったです。

ちょっと恐ろしいことですが、僕が経験した職場で、年老いた医者による病気の診断の文書が、汚くて読めずに、「脳腫瘍がある」という記載なのに、誰も気に留めず、そのまま1年ほど放置されている事例がありました。大きな脳腫瘍があったので、記録をひっぺ替えしてみると、昔に記録があったという経緯です。(手書き文書で、読めない字を書く人間は、ペナルティを与えてもいいかもしれません。この一点においたは、手書き履歴書で人事を選考する意味はあると思います。)

こういうバカみたいなことが、電子化によって一掃されます。文字としての判読性の話です。
もちろん、書いてある内容が了解不能で意味不明なケースは依然治りませんし、よくあります。

また、文字を入力する速さが速くなりましたから、記録が詳細に書けるというメリットがあります。紙では、時間がかかりすぎてどうしても簡略化してしまいます。また、修正が難しいです。(文書として記録・登録・保存した後の修正ではなく、入力中の簡単な誤字、脱字です)ここはメリットがあると思います。

つまり、情報の伝達が細かくなり、標準化されるところが大きいです。

もっと昔は判読できない字で書いた、情報の少ない記録で、誤解や見落としが起こり、人が死んでいたでしょう。当時は医療訴訟も少なかったでしょうから、ほとんどのケースは隠されていたか、有耶無耶になっていたでしょう。僕の少ない経験でも、情報が読み取れないケースはかなり経験しましたから、まず間違い無いと想像します。

もう売るプロダクトがない医療DX推進企業の思惑とは全然違うところで、電子化は医療現場に蔓延る無能をある意味一掃するという有用な側面があります。