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突然欲望が抑えられない
人によって、性欲が強かったり、弱かったり、目先の利益にすぐ飛びついたり、飛びつかなかったりといった、衝動性の違いってありますよね。
学生時代でも、一緒に遊んでいて、絶対怒られる行為をする友達もいたと思います。
衝動性の強さは、大人になって、変化が起こることがあります。
特にわかりやすいのは、パーキンソン病という病気の薬の副作用です。
パーキンソン病はドーパミンと呼ばれる脳の神経の情報を、神経の細胞から細胞に伝達する物質が、少なくなっていく(ドーパミンを作る神経の細胞が死んでいく)事によっておこります。
治療薬は、ドーパミンを増やす作用があります。
ところが、効きすぎると、欲しいものにすぐに大金をつかってしまったりと、後先考えない行動が増えます。
生活が困ってしまうので、過量投与しないことが大切になってきます。
でも、今まで大人しかった人(パーキンソン病の人はなぜかおとなしい人が多い)が、突然ギャンブルに金を使い始めたらびっくりしますよね。ドーパミンの作用は人生の方向性を一変させるくらい強力なものなのです。
一方、僕が経験した例では、両方の脳の前の部分(前頭葉といいます)が脳梗塞(血管が詰まって脳が機能しなくなること)を起こしたケースがありました。
脳を輪切りにした図(上が前、左側が体での右)でいうと赤い場所が機能しなくなりました。
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あるときから突然欲望が抑えられなくなったといいます。
一度に両方の大脳が脳梗塞になるのは稀です。
また、脳の前方(前頭葉)が梗塞になるのも頻度が少ないです。
なぜこんな事が起こるかというと、
血管が一本だったと考えられます。
通常、脳の動脈は左右1対ずつあります。
しかし、前頭葉につながる血管は、左右近いためか、1本になっていることが多いのです。
一本になっていると、一本だけ詰まると、分岐した二本にも血流がいかなくなるので、結局両方の大脳が梗塞になってしまいます。同時に二本詰まるのはほぼありえない確率です。
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上:普通の人
下:一本になっている人も多いですし、通常はなんの問題もありません。
何が言いたいかというと、欲望が抑えられなくなった原因は、稀な病気ではあるものの、偶然ではなく起こるべくして起こっていると考えられるのです。
このように、「ほとんど起きないが、起きたらはっきりとした理由がある」例は、医学の研究の主流である大量の患者を集計して調査する手法は、あぶり出されてきません。
一例一例分析していけば、数を集めなくても、メカニズムが特定できることも多いです。僕にとって、一筋縄ではいかない病気を解明するおもしろさの一つです。