旅行客中のテロリストはわからない
病気が見つかった際、特に目で見て判定する場合は、病変の個数、形、症状から決めています。
大体感覚的なものなのです。良性の病気に非典型的な病気(癌)がオーバーラップしていると、わからない場合もあります。今日は実際経験した例を挙げて、考察していきます。
レントゲンで癌のような影があると言われた時、
更なる精密検査の結果が出てくるまで緊張するでしょう。
レントゲンで影があると言われたら、次はCTになりますが、
どのように、判断しているかというと、病変の場所、個数、形、症状から、大体80%くらいはこれにだろうというものと判断しています。
組織をとってくる病理検査でも同様です。
一部特異的(その病気だと確定できる)な検査もあります。
中年女性に多い病気として、非結核性好酸菌症というものがあります。
庭での土いじりが好きな方によくなります。
これにも、肺癌のようなできもの(結節)ができることがありますが、周りにも複数個できるので、肺癌ではないと判定します。
https://inzai-cl.com/非結核性抗酸菌症
ただ、本当にありふれた病気で、症状がなくても存在することがあります。
肺の中程のところに、慢性的に感染しており、肺が潰れたようになったり、気管支が大きくなったり、塊(結節)を作ったりします。
こういった特徴が出揃っていたら、診断しています。
僕が経験したケースは、70代の女性で、明らかに典型的な像でしたが、
紛らわしいのは、塊を作るという性質です。
病変より少し離れたところに塊(結節)がありました。
いつものように経過観察していると、それが少し大きくなっていました。その他の特徴は同じでした。
非結核性抗酸菌症でも、たまに大きくなる場合があるので、ここでは同じ判定になります。
ただ、次回も大きくなってきました。
こうなると判断が変わるように思えますが、やはり変わらなかったです。
「肺癌」と悪い方にとっておき、
肺癌になっていて、手術して肺癌でなければよかったと思えるかもしれませんが、
肺癌の手術は、基本肺葉切除術と言って、少なくとも肺を1/5はとってしまうので、手術した後の呼吸機能が低下してしまいますし、手術も絶対安全というものではありません。
なので、ここは正確に診断することが大事になってくるのです。
でも、その後さらに増大してきて、肺癌の特徴が出てきたので、診断しました。
もし、非結核性抗酸菌症がなければ、少し増大したところで肺癌と判定していたでしょう。
実は病気がオーバーラップしていたせいで、もう一つの病気の存在に気づけなかったパターンは少なからずあります。報告には出ていないと思いますが、経験します。
運が悪かったということになりますが、
自分に降りかかるとたまったものじゃないですよね。
非結核性抗酸菌症は、予防が難しいですが、
予防が可能な病気に関してはなるべくならないほうがいいということになりますね。
あと、僕たち医療者は、一つの病気が起こるケース(若い人に多い)は、対応が簡単です。
逆によくわからないものが2重、3重と起こると、途端に予測計算が複雑になり、判定が難しくなるんですね。これは歯痒いですが不思議です。
もちろん、病気Aが起こると、病気Bも起こりやすくなるという知識を持っている場合は、身構えていますが、
知識がない場合、偶然合併した場合は、かなり難しいです。
全く想定外の現象の重なりで、どういう1通りの現象になるのか、という想像がつかないんですね。
僕が日常医者をやっていて限界を感じる時です。