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癌よりやばい病気を見逃したおごり


当時、毎日大量の癌の患者を診ていました。
僕が一番熱を入れていたのは、喉の癌の患者さんでした。

職場では日本でも有数の患者を治療している専門施設でした。
でも、中身は主に二人の医師で行っていました。

喉の癌は、外からは見えないので、内視鏡というカメラのついたチューブを飲み込んでもらい、それを動かすことで病気があるかどうかや範囲を観察していきます。

癌を初めて見つけることはなくて、癌だとされた人たちが来て、治療を始めて縮小していくかどうか、効果を判定するというのが僕の仕事でした。30日以上かけて癌に放射線を当てて治療していくので、その間に変化があるんですね。

もちろん副作用の程度もチェックしていきます。

内視鏡で観察する日は15-20人くらいの患者を診ました。(耳鼻科の開業医だともっと大量の患者を診ると思います。)

ある日喉が痛いという患者が来たので見てみると、喉にたくさんの白苔(白い痰みたいなモノ)がついていて、赤くただれていました。治療で喉がただれる人はおおいですが、この人は治療が始まったばかりで、「おやおや」と思ったものの、熱があり白苔があったので、「咽頭炎」(つまり風邪)と判定しました。

しかし、たまたまそばにいた皮膚科の医師が皮膚を見て、「天疱瘡という病気だよ」といってくれて、事なきを得ました。
そのあと、この患者は癌の治療は中止になり(専門家の人へ 初期の声門癌でした)、天疱瘡という病気の治療を優先することになりました。

完全な誤診ですね。

天疱瘡とは、自分の身体に備わる外的防衛システムがなぜか、自分の皮膚に攻撃してしまう病気です。本来は皮膚の病気ですが、
口の中や喉などの粘膜も壊れていきます。僕はこの粘膜の病変を見ていました。

なぜ、癌の治療をすておいて、こちらの治療を優先したのかというと、ほっておくと5年後生きている人の割合は半分です。しかも、この人の病状は活動的であり、一言で言ってしまうと重症でした。
早く治療しないと、癌より危険という判断がなされました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/27/1/27_87/_pdf

喉の癌は悲惨な人が多いです。
手術や抗がん剤、放射線治療を含めあらゆる治療をやりまくっても、それでも再発して死ぬ方が多いです。

僕は「危険な癌を扱っている」と思い込んでいて、流れ作業的に治療の仕事をこなしていました。

それじゃあだめですね。

流れ作業的はできて当たり前です。数種類の選択肢から一つ選ぶみたいな仕事ばかりしていると、それでやった気になってしまいます。

でも、大事だったのは、未知のパターンが出てきたとき立ち止まって、熟考できるかどうかでした。風邪としたのは何も考えていない証拠です。
内視鏡を扱うんだったら、そこに写る可能性のあるパターンを網羅しておくべきでした。

危険な癌をたくさん治していて、ひたすら手順通りこなせばいいという思い込みが時に変則的なパターンを出されたとき手も足も出なくなります。

この辺から、医療の方向が間違えていると感じて、進む方向性を変え始めるきっかけとなりました。