[ 姪っ子の赤い傘 ]:(赤い傘)
↑このふたつと関連したお話です。
ショートショートです。お気軽にどうぞ😊
[ 姪っ子の赤い傘 ]
もう、姪っ子ったら傘を忘れて〜
昨日、あたしの家に遊びに来て、傘忘れて行って、言うに事欠いて、バイト先に持ってきて、ってどういうことなのよ。
しかも、よりにもよって真っ赤な傘。
折りたたみじゃないから、バックにしまえないし。
まぁ、可愛い姪っ子の頼みだから仕方ないのだけれども……。
今日は休日。しかもこんないい天気に、なんであたしはこれ見よがしに赤い傘を持って電車に乗って、来たこともない駅に向かってんのよ。
まったく、なんて日だ!
あ、この駅ね、バイト先の最寄り駅は。
早く渡して、さっさと帰ろー。
せっかくの休日を取り戻さなくちゃ。
さーぁて、改札はどっちかなぁ〜、
「あの、りんごさんですか?」
ん? あたしに、だよね?
男性が声をかけてきた。
「りんごさんですよねぇ、まさか女性だとは思わなかった」
念押ししてくる。
つか、生まれた時からあたしゃ女性だ。
と、何も言わずに、男性を眺めていると、
「ほら、コレ、メロンです」
と、赤い折りたたみの傘を差し出してきた。
「赤い傘なのに、メロン?」
と、思わず口にしてしまった。
なんなんだろ、新手のナンパなのかしら?
って、あたしはナンパなんてされるような品質の生き物では無い。
なら、勧誘か何か? 傘販売とか?
「ほら、あなたも」
と、男性は指をさした。
どうやら姪っ子の傘をさしているようだ。
うーん、と………。
もう、よく分からないので、とりあえず逃げよう。
「あの、結構です、または人違いです」
「えっ、」
と驚いた表情の男性。
「あたし、急ぎますんで、では」
と、男性の横を通り抜け、ツカツカツカ、と歩く。
追いかけてこないかと、ちょっと怖かったけど、階段を早足で昇り、しばらく歩いたところで振り返ると、男性の姿は見えなかった。
ホッ、と肩を落とす。
あー、とんだ休日だ。
と、項垂れていると、間近で人の声がした。
「叔母さん、ありがとー」
「うわぁ、びっくりした〜」
いつの間にか姪っ子が直ぐそばにいる。
「赤い傘持ってきてくれて、助かったよ」
「まったく、届けてもらうくらい大切なものなら、ひとんちに忘れんな」
「エへへへ、」
笑って誤魔化すな。
「まったく、こっちは変な男の人に絡まれたり、散々だよ」
「あ、見てたよソレ」
「えっ!」
なに言ってんのあんた。
「実は……、赤い傘が目印だったんだよ〜」
「ハ〜ぁ?」
姪っ子の言うことにゃ、文通していた人から、急に会わないかって言われて約束したんだけど、やっぱり怖くなって、だからあたしに赤い傘を持たせて、待ち合わせの場所に来てもらった。そして、あたしに声をかけた人を、遠くから品定めしていた、って、そんなことらしい。
「じゃぁ、あんたあたしを騙したのかー!」
「ごめんなさい! 今からアイス奢ります」
「今からって、バイトは? ──それもウソか」
「エヘヘヘヘ」
もう、この悪気のない姪っ子の笑顔を見ちゃうと、調子狂う。
まぁ、あたしもこれからやることもないし、
「よし、じゃぁ、アイス食べながら、あたしをだました顛末を、根掘り葉掘り吐いてもらおうか」
「あー、お手柔らかに……」
そう言う姪っ子の手首を掴んで、改札に向かう。
まぁ、アイスを奢ってもらえるなら、悪くない休日だね。
と、思いながらも、ホームで赤い傘を探している男性を思うと、少し不憫に思えた。
まぁ、あたしには関係ないけれど。
おしまい