【シロクマ文芸部(消えた鍵)】『ただ、━━それだけ』
↑↑コチラのお題【「消えた鍵」から始まる】に参加してみました。
なんだか、文学的なお話に仕上がりました〜
『ただ、━━それだけ』
消えた鍵は敢えて見つけないことにした。
見つからなければ、この扉が開くことはない。
この扉が開かなかったら、もう、あの人たちと関わらなくてすむ。
愛想笑いもしなくていい、話を合わせなくてもいい、自分を偽らなくてもいい。
消えた鍵が見つからなければ、この部屋にずっといられる。
ずっと、ひとりでいられる。
なぜ鍵が消えたのかは分からない。
もしかすると、願いが叶ったのかもしれない。
誰にも会いたくないという願い。
イヤな人ばっかり。
特に「世の中、そんなにイヤな人ばかりじゃないよ」とかいう人。
あなたがそのイヤな人なのにね。
鍵をいつかけたのか分からない。
自分でかけたのかも覚えていない。
でも、よかった。
やっと、ひとりになれる空間を、私は手に入れたから。
こんな私の姿を見て「人間はひとりでは生きていけないよ」とかいう人がいる。
いいよ別に、生きていけないなら、それでも。
この前までは、その扉に鍵が付いていた。
でも、もうその鍵は消えてしまった。
私が自分で消したんだっけ?
自分の行動がよく分からない。
何がしたいのかも。
「難しく考えないで、自分らしく生きればいいのよ」とかいう人がいる。
難しいもなにも自分らしく生きられるのは、ひとりでいられる、この空間だけだよ。
人間は、ぼっちじゃ生きられないこと、その人は知らないのかな……
━━━あ、あれ?
あそこにあるのは、消えたはずの鍵じゃない?
チッ、そんなところにあったのか。
ずっと、消えてくれればよかったのに……。
見つかっちゃったらしょうがない、扉を開けよう。
お腹も空いたしね。
扉の向こうへ行けば、いつもの生活が始まる。
いつもの愛想笑いをうかべ、
意味の分からない話に合わせて、
偽りの自分を演じる。
ただ、━━それだけ。
いつもの自分……
あ、それが、自分らしく生きてる、ってこと?
違うか……、たぶん、違うなー。
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