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バイデン勝利でも根強い不透明感――米国覆う4つの「分断」

世界が注目する米大統領選。開票当初はトランプ大統領・共和党の意外なほどの健闘が目を引きました。とはいえ、時間が経つに従って、郵便投票や都市部の開票が進むに従ってバイデン候補の優勢が鮮明に。日本時間8日(日)の未明、米などのメディアは、激戦のペンシルベニア州をバイデン候補が制したことで、「バイデン氏の当選確実」を伝えています。もっとも、トランプ大統領サイドは、かねて主張していた「郵便投票は不正の温床」の声を強め、訴訟や開票の中止を主張するなど、最終的な決着には時間がかかるかもしれません。一体アメリカで何が起きているのでしょうか?日経CNBC朝エクスプレス「マーケット・レーダー」では6日(金)朝に、日本経済新聞上級論説委員の小竹洋之さんを迎え、混迷する米社会の背景をお聞きしました。

今回の米大統領選及び上下院選挙を通じて、事前のメディアの予想以上に共和党、トランプ大統領サイドが岩盤のような得票を得たのは間違いないようです。事前には大統領選のみならず上下院ともに民主党が制する“トリプルブルー”シナリオが有力になっていましたが、上院の決着はもつれそうで、バイデン候補が勝利しても上下院がねじれの状態になる可能性が指摘されています。トランプ大統領を支持する票が議員選挙にも一定の流れを起こしており、この岩盤のような強いトランプ大統領、共和党の支持層には、今の米国を象徴するものがあるように思えます。

小竹さんは2016年の大統領選挙を日本経済新聞のワシントン支局で取材しました。当時現地にいて感じたアメリカ社会の変容を4つの「分断」と表現してきました。

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① 「経済」――貧富の格差拡大。富める者がますます富む構造はコロナ禍で一段と加速しているように見えます。
② 「人種」白人と非白人のあつれき。2045年には全米における白人の比率が50%を切るとの予想があります。“マイノリティ”になる白人の焦りを感じます。
③ 「政治」非エリートに不満。こうした中で政治家はエスタブリッシュメント、エリートが牛耳っているとの不満が蓄積しています。
④ 「世代」高齢者と若者の対立。気候変動、分配政策などを巡る世代間の価値観の違いが着実に広がっているように思われます。

前回、2016年の大統領選挙は、トランプ陣営がこうした不満を着実にすくい上げる形で選挙運動を展開し、分断をあおり勝利したと言えそうです。4年がたち、分断状況は解消するところかますます深刻化しているように思います。仮にバイデン候補が大統領になって民主党政権に代わるとしても、この分断の構図そのものは容易に解消されるとは考えにくい。トランプ大統領がもし去っても、トランプ大統領支持層が感じたような不満、対立の構図は根強く残るのではないでしょうか?バイデン候補は選挙戦を通じて、「分断の解消」「結束」を呼びかけ、それは日本人である僕には“格調高く”“プレジデンシャル(大統領的に)”聞こえるのですが、トランプ支持層には、バイデン候補の声が素直に届くとは思えないところがあります。

さて、こうした混乱を抱えた状態で経済はどのような方向に向かうのでしょうか?小竹さんは、ねじれ的な政治情勢を抱え「バイデン政権は、トランプ政権の発足当初と同様に、DAY1から大統領令を連発することになるのではないか」と予想します。パリ協定への復帰などはすぐにも打ち出すでしょうし、押し通すことも可能かもしれませんが、大規模な財政支出、富裕層増税、インフラ投資の拡大などはそう簡単に進めることができないかもしれません。仮に大統領令を連発するとしても、最高裁判事を保守派が押さえている点も見逃せません。

外交面でも不透明感が根強く続きそうです。中国についてはトランプ政権は良くも悪くも関税や制裁を使って強引に抑え込もうとしてきたわけですが、「バイデン政権に何か有効な手段があるのかは疑問」(小竹さん)です。まあ、中国に関しては欧州各国などともある程度の連携を取りながら対応するのかもしれません。しかし、中東、東アジアなどなど、様々な世界への米国の“関与”は、トランプ大統領以前から次第に減っていく傾向にあります。“国際協調的”にみえるバイデン候補ですが、民主党の本来のカラーは内向きであるとも言えるし、強烈な存在感を示しているトランプ支持層をも意識した政権運営を迫られるのではないでしょうか?世界にとって、もちろん日本にとっても不安な時代が続きそうです。

ところで、こうした状況を横目でにらみながら先週(2日-6日)の株式マーケットは極めて堅調でした。ダウ工業株30種平均はこの週、1821ドル、6.9%上昇しました。週間の上昇率としては4月以来の大きさです。正直言ってなかなか不思議な動きでした。ですが、ある意味で4年前と似ているのかもしれません。2016年、トランプ大統領が勝利したこと自体にもびっくりしましたが、それを受けてトランプラリーの株高が始まったこともびっくりでした。今回はトランプ大統領、共和党の善戦が予想以上であり、政治の混迷が予想されているにも関わらず株高で反応しています。

今のところ、現在のマーケット堅調の理屈は、「何であれ最大のイベントを超えつつある。シナリオが見えてくればそれなりに対応はできる」「そもそもイベントを前に動けなかった投資家は株式などを買う機会を待っていた」――といったことだと思います。それはそれで現時点で納得できる動きではある。金融政策の存在感もあり、株安を予測するわけではありません。しかし、中長期的に不安定で、不確実性が高い時間帯は続くような気はします。

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