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『金融教育。誰が、何を、どのように?』製作note

11月30日(木)15時45分から初回放送の金融市場ドキュメント④「金融教育。誰が、何を、どのように?」。先週までに様々なチェック、社内のもろもろの手続きやナレーション収録なども概ね終えた。ホっと一息ついた感じがある。

国家戦略になった金融教育


この金融市場ドキュメントのシリーズでは、③として「お金の話。誰かに相談できますか?」という番組を作って7月下旬に放送している。③と④はいわば一対、車の両輪のような関係にある。11月20日に臨時国会で金融経済教育推進機構の設立に関する改正金融商品取引法が成立。来年からは国が(正確には推進機構が)、お金のアドバイスをできる人を認定、金融教育を国家戦略の一つの柱として推し進めていく。来年初からはNISA(少額投資非課税制度)の制度恒久化、非課税期間無期限化、非課税枠の抜本拡充がスタートする。アドバイザー、金融教育の充実が、こうした動きをソフト面、金融リテラシーの観点から支えなければ、“絵にかいた餅“、“笛吹けども踊らず“、もっと悪くすればブームに便乗した“金融詐欺の横行“が本格化しかねない懸念さえある。すでにその兆候もある。

さて、今回の番組「金融教育」は、自分で言うのも何だがなかなかに苦労した。前回③のテーマ「アドバイザー」については、取材先に関してある程度は自分自身で“目鼻がついている”という感覚があった。それに比べると金融教育は、少なくても取材分野としては自分で触った経験が豊富ではない。「どこからどのように手を付ければいいのか?」――。悩ましい状況だった。そのことがわかっていたが故に、11月中の放送を目指すと決めてから、割と早くに準備を進めてきた、つもりだった。

ブレまくった準備段階の日々……


しかし、どうしても土地勘の薄い分野は、効率が悪いところがある。「こうかな?ああかな?」「取材先はこの辺りかな?」「そもそも今回の番組で問うテーマは何だっけ?」――といった基本的な軸がブレるのだ!

「間違いなくここへカメラを入れたら面白いだろう(おまけに出張に乗じて食べる料理も美味しそうだ)」と確信した先が、テーマ展開から考えて難しそうだったり、そもそも金融教育の現場にTVカメラを入れるという行為が想像以上に難しかったり……。
 
スタッフや取材先といろいろ話し合ったり、情報を収集したりしながら試行錯誤が続いた。この夏から秋にかけては、率直に言って重苦しかった。自分の気分としては、本当に……。「でもなぁ、時々必要なんだよ。こういう試行錯誤みたいなことが」と自分を慰める日々……。

社会人の金融教育、職域がキーワードに


今回の番組では、金融教育といっても、高校や大学ではなく、最初から社会人にフォーカスしようと決めていた。高校や大学、あるいは小中学校も大事だし、“絵的”にも面白そうな感じはあるのだが、あまりに広すぎてちょっと扱いにくい。我々の放送の視聴者層や、NISA大拡充のような制度の変化を意識したためでもある。2014年にスタートしたNISAに手をあげる人は、せいぜい全体の2割止まり。日本では“意識の高い人たち”だ。職域であれば広く網をかけて、多くの人に金融教育を届けられるに違いない――。「職域」は初めから今回の一つのキーワードだった。

確定拠出年金を軸に、地道に社員向け教育を実践しているTISやハウスギャバンといった企業の取材では本当に現場の熱意に感銘を受けた。キーパースンが静かな中にも並々ならぬ情熱を持って地道な仕事を続けている。人事・総務といった広い仕事の中で、金融教育は、ほんの一分野でしかないはずーー。だが、これらの企業では、金融教育が人的資本経営、ファイナンシャルウェルビーイングといった、より広い、高次元の経営概念の中で位置付けられていると感じた。少し別の表現をすれば、人手不足や社員の流動化が進む現実に備えて、金融教育は不可欠な施策のひとつなのだ。いい会社であることを実感してもらうために――。

TIS人事部の工(たくみ・かつゆき)さん、経営にどう“埋め込む”か、工夫を重ねる
ハウスギャバン人事グループの新家潤太(あらや・じゅんた)さん(左)、気軽に相談できる雰囲気作りを心掛ける

 これらの企業のリサーチについては、NPO法人DC・iDeCo協会の大江加代理事にひと方ならぬご協力をいただいた。ぜひ、番組中の大江さんインタビュー部分もご覧いただきたい。

大江加代さん「地道な努力をしている人たちがもっと評価されるように…」

取材期間中にNECが、IFA(金融商品仲介業者)、Japan Asett Management(JAM)を買収するというニュースが飛び込んできたことはとても興味深かった。NECとしては多様化する社員への金融教育を充実させるとともに、先々は自らが金融事業に乗り出すという意味合いもある。

NECはもともと金融教育に熱心、IFA法人との資本業務提携に

一方、JAMの堀江智生社長は、大手証券のトップエリートの道を走った後、若くして独立、起業。スケールの大きな構想を持つ人物だ。堀江さんが、どのように考えて、今回の資本業務提携に至ったかも、ぜひ見ていただきたいポイントだ。

JAM堀江智生社長「これまでアプローチできなかった層に、フィンテック技術を用いて…」

職域の金融教育には、自社の給料や退職金・年金制度をよく知った上で、教育を進められるという大きなメリットがある。一方で、取材を進めるに従って、職域といっても圧倒的多数を占める“岩盤”のような無関心層にどうアプローチするのか、大変に苦労している様子も分かってきた。さらに、さまざまなリソースに限りのある中小・零細企業の社員や、あるいはパートで働く人たち、シニア、自営業者……。簡単には金融教育に手が届きにくそうな先を数えればキリがない。課題は山積だ。
 
さて、冷や水を浴びせるわけではないが、国がこれほどまでに旗を降り、企業が確定給付年金から確定拠出年金にシフトしてきたことには、今さらながら、背に腹は変えられない事情、思惑もある。超少子高齢化が進行する中で、「国が面倒を見られるのはこの辺りまで」「企業が責任を持てるのはここまで」――といったある種の“線引き”をしなければ、国の財政が、あるいは企業財務が、いつまでもは“もたない”ということかと思う。
 
ただ、一生活者としての個人に立ち返って改めて思う。そうした大きな流れや事情、思惑、それらを一通り、ざっくりとでも理解した上で、個人としてそれらの制度を賢く、したたかに利用するという捉え方が必要なのではないか――。結局、大切なのは「自分で考える」「自分で判断する」「自分の足で歩く」という感覚を持つことだ。金融教育は、そのための大切なツールになる。


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