真摯な大阪大学,懐の広い学習院大学,「絶対詫びない」東大
❖大学が公表する「出題ミスお詫び文」の考察
入試問題にミスが発覚した場合,最近ではかなり早い段階で大学側がホームページで公表し謝罪するようになりました。これは,2017年入試における大阪大学と京都大学の出題ミスを「他山の石」としたのでしょう。
両大学とも正式に出題ミスを認めたのが,試験実施から1年近く経ってからというのが騒ぎを大きくしました。事態を重く見た文部科学省は,全国の大学に「入試問題と解答は原則公開」との通達を出します(2018年度大学入学者選抜実施要項)。しかし皮肉なことに,情報公開によって問題と解答がより多くの人の目に触れるところとなり,出題ミス(正確に言うと「ミスの発覚」)は減るどころか,むしろ増える傾向にあります。
ミスの内容は様々で,いくつかのパターンに分類できます。ただ,今回はそこには踏み込みません。大学側が出題ミスを認め,それをホームページなどで公表・謝罪する際の「お詫び文」に焦点を当てたいと思います。
出題ミスの「お詫び文」から,大学側の姿勢というか体質というか,品格のようものが垣間見られ,なかなか興味深いのです。
❖遅れたとはいえ,誠実な対応をした大阪大学
まずは,前述した大阪大学の出題ミス(2017年入試)にかかわる対応を見てみます。大阪大学が記者会見を行って出題ミスを謝罪したのは,2018年1月6日のことです。以下がその謝罪文冒頭となります。
上記の謝罪文とは別に、出題ミスの内容や発覚の経緯や対応を詳細に記した「公開資料」や 「総長コメント」,「新たに合格となった方(30名)の受験番号」も同日に併せて公表しています。
1年近く遅れたとはいえ,内容的にかなり踏み込んだ誠実な対応だった思います。ただ,これで「幕引き」をしないところに,大阪大学の良心あるいは矜持のようなものを感じます。
❖自罰的に繰り出す「追記」の数々
1月6日の謝罪のあと,大阪大学は当該ミスに関連するさまざまな「追記」の文書を矢継ぎ早に公表していきます。以下がその標題です。
1月6日以降,「追記」は全部で10文書に達しています。
内容的には,①ミスの詳細と原因究明,②責任の所在(役員報酬の自主返納など),③当該学生へのフォロー(補償含む),④出題ミス再発防止策の具体的施策,の4つの柱からなっています。
改めて「合格通知」を手にした30名の学生さんには,入学料,授業料免除,住居費,住居移転費用,予備校代まで補償しています。
「この程度のことは当たり前」と思うかもしれませんが,ここまで誠意ある対応をしたうえで堂々と情報公開に踏み切る大阪大学は立派です。正直,読んでいて感心しました(一方の京都大学がそれほど積極的に情報発信をしていないために,余計目立つのかもしれませんが)。
しかし,大阪大学もちょっと気が緩んだのか,令和3年度一般入試(化学)で「当該問題の正解が、理科(生物)の問題文に記載されていた」との出題誤りのお詫びが公表されました。あー,残念です(ドンマイ!)。
もっとも,このときの試験実施日が令和3年2月25日(木),お詫び文の公開が2日後の2月27日(土)。きわめて迅速な対応でした。ミスの根絶は難しいことですが,大切なのは早期発見、早期フォローです。
大阪大学のミス防止への真摯な取り組みは,確実に効果を上げています。
❖学習院大の日本史,寺名を「常用漢字」で記載
次に見るのは2022年度入試,学習院大学の【日本史B】での出題ミスに対する学習院大学のお詫びです。
正式名称「清凉寺(せいりょうじ)」を「清涼寺」と記載したことをお詫びし,当該問題では受験者全員に2点を与えています。
「え?どっちでも同じやん」と思うかもしれませんが、「凉」(「涼」の異字体-にすい)を使った「清凉寺」が正式名称で,教科書にもこの字で記載されています(「凉」は常用漢字表外,「涼」は常用漢字)。
では,どういう試験問題なのか,ちょっと見ておきましょう。
中国が宋の時代,日本は宋と正式の国交を結びませんでしたが,商船による往来はありました。宋に仏教を学びに行きたい僧侶は,その商船に乗せてもらって渡航をしていました。以下は,それに続くリード文です。
奝然は「ちょうねん」,成尋は「じょうじん」と読みます。さすがは学習院大学,キビシイところを突いてきますね~。教科書で掲載されているのは,やはり日本史のバイブル,山川出版社の『詳説日本史B』です。
❖威風堂々,懐の深い学習院大学の「お詫び」
イ~ホの5つの選択肢の中で,「奝然が宋から持ち帰った釈迦如来像が安置されている」のは,京都嵯峨野にある「清凉寺」だけです。ところが、その寺を「清涼寺」と記載したことで,「『正解なし』という判断を抱かせた可能性」があると言い切りました。
「えー、そんなこともないでしょ?」 と,私なんか思ってしまいます。実際に,各種辞典や京都観光オフィシャルサイトなどでは,堂々と「清涼寺」と記載しています。「涼」は常用漢字,「凉」は「涼」の異字体で常用漢字表外であり,「清涼寺」と「清凉寺」を同一の寺と認識することに不合理はない,などと,いろいろ御託を並べることもできそうです。
実際,この手の出題ミスでは,「不適切」であったことを(しぶしぶ)認めながらも「正解を導く上で支障はないと判断し得点調整は行いません」などとホームページに記載する大学も少なくありません。
しかし,学習院大学はそうした小賢しいことを一切せず,堂々と誤りを認めました。我が国の歴史に誇りを持ち,「些細なことでも間違いは間違い」と潔く認める姿勢に、威風堂々とした学習院大学の品格を感じました。
❖東大にも「出題ミス疑惑」,しかし・・・
京大や阪大がやらかしたので,次はいよいよ東大か!?
手ぐすねを引いて「期待」している人たちもいるでしょう。実際、文部科学省を通して東大の問題に「疑義」を突きつけた外部の先生方が何人もいらっしゃいます。
ところがそこは天下の東大,そうやすやすと陥落しません。
ある先生は,東大の入試問題(2021年化学)について「問題文に不備があるため問題不成立」との疑義をメールで提出し,「あと一歩」のところまで東大を追い詰めました。しかし,最終的に東大から戻ってきたメールにはこう書いてあったそうです。
私もちょっと覗いてみました。さすがに高度な議論にはついていけず,早々に脱落しましたが,「打倒東大」に向けて引き続き頑張ってください!
❖「絶対にお詫びしてはいけない」東京大学
東大が出題ミスをしない、あるいはミスが疑われても容易にはね除けられるのはなぜでしょうか。答えは簡単です。解答を公表していないからです。
もちろん,「解が一つに定まる」記号問題の正解は公表していますが,記述式解答については一切公表せず,科目ごとに「問題意図」を説明するのみ。
その理由について,東大側はこう述べています。
やっぱり頭が良いですよね~。
そっか~,「知能発達によくない」のか~。
「だから私の知能はアレなんだ」と思わせる程度の説得力があります。
いやはや参りました。「絶対にお詫びしない大学」として,これからも日本の大学の頂点に君臨し続けてください。品格なんてどうでも良いです。
ということで,本日、私は早々に退散いたします。
【お詫び】
今回の記事の冒頭,不用意に「他山の石」という言葉を使用してしまいました。原義にあたったところ「自分より劣っている人の言行も自分の知徳を磨く助けとすることができる」の意があり,不快な思いをさせてしまった可能性がある大阪大学ならびに京都大学の関係者の皆様には,ここに謹んでお詫び申し上げます。