自殺未遂者支援体制強化事業について!決して過去の記事ではない!!
2009年(平成21年)12月27日 長崎新聞
自殺対策「寄稿」=心の病 治療・回復に力を=
西脇病院理事長 西脇健三郎
『日本ではここ10年、自殺者の数が年間3万人を超えている。自殺の原因はさまざまで複雑な要因が絡み合っており、心の病はその大きな一因だ。心の病も、うつ病、統合失調症、アルコール依存症とさまざまで、最近では強迫的ギャンブル(ギャンブル依存症)の多重債務よる自殺、と多岐にわたっている。
こうした状況を受けて長崎県も12月に入り、テレビで活躍している本県出身のキャスター、草野仁氏を起用し、自殺予防のコマーシャルを民放で盛んに流している。県は第1次予防活動(啓発)として、知名度の高い草野仁氏に相当な予算をつぎ込んだに違いない。しかし、「それでどうなんだ」と言いたい。
当院では30年以上前からアルコール依存症の自助グループと、最近では薬物依存症の回復施設「ダルク」とも連携して、独自の依存症の治療・回復プログラムを構築。またうつ病や依存症の患者を同一空間で入院治療するといった全国で唯一のストレスケア病棟を10年前に設け、運営している。しかし、県内の公的病院・機関の精神医療従事者の関心は薄く、こうした第2次予防(早期発見・再発予防)、第3次予防(リハビリテーション、再発予防)は民間任せである。
一方で、地域の当院利用者の関心は高まっている。そこでスタッフのスキルを高めるのと同時に、より機能的な施設整備が必要になる。その資金として、国の2009年度補正予算に盛り込まれた「医療施設耐震化臨時特例交付金」の活用を考え、県の指示通りに申請書類をそろえて提出した。09年9月には国から都道府県に内示額が伝えられたが、申請した県内の医療機関にはいまだに県から連絡がない。補助を受けようとする医療機関は急いで「事業計画」を作成、提出しなければならないのにである。
県はやはり、啓発活動には潤沢な予算を使うが、その後の治療・回復への関心は薄いように思える。啓発はもちろん必要だが、もっと医療機関や自助グループと連携を深め、効果的な治療・回復に予算を使ってほしい。
さらに県が力を入れる啓発方法にも疑問を感じる。つい先日、外来のうつ病患者に「12月は自殺が多いのですか」と尋ねられた。理由を問うと「最近、さだまさしさんが出演した自殺防止対策のCMが盛んに流れています。なんだか自分も自殺に引きずり込まれそうで怖くなって・・・」と言う。
私は12月に自殺者が急に増えることはないと説明した。だが、ふと、随分前に米国の新聞が自殺予防キャンペーンを行ったところ、逆に自殺者が増えたということを何かで読んだのを思い出した。県の自殺予防のコマーシャルは、単に情報を伝えているに違いない。真の対策とは、「死を志向する人」の脳に向かって「もっと生きたい」「もっと生きる価値を知りたい」「もっと多くの人と仲間になりたい」といった思いをトータル的に蘇生(そせい)させることではないだろうか。私たちの税金から捻出(ねんしゅつ)された対策費なのだから、より有効な活用法を考え出してほしい。予算消化のための安易なコマーシャル制作でないことを願うばかりだ。』
幸い何時のころからか、何故か投稿記事で紹介のコマーシャルは流されなくなった。
2013年(平成25年7月)
「第6回救急医療体制等のあり方に関する検討会」(厚生労働省)
6. 緊急性の高い身体合併症があり、精神疾患を持つ患者の受入制の構築について(抜粋)
いまの精神科救急医療体制はハード救急への対応が中心で、救急病院の負担要因であるソフト救急へ対応は手つかずの状態。
関係機関の連携と納得できる相応の負担について、ハード救急とソフト救急両面を含めた協議を行うべきではないか。
自殺企図(多量服薬・リストカットなど)による一般救急対応後の精神科診療への誘導
アルコール酩酊者の救急診療
夜間休日対応しない精神科診療所・精神科病院と自院診療中患者の救急診療(ソフト救急)
この間、何時のころからか自殺で死に至った著名人等の死亡報道では「自殺」とは報ぜず、記事・報道の最後に『不安や悩みの主な相談窓口』として命の電話等、幾つかの相談先の電話番号を紹介(図表1)のみ。
2024年末、『自殺未遂者支援体制強化事業』とやらを耳にするようになった。
『自殺未遂者支援体制強化事業』についての詳細は知らない。
ただ、第一次予防の一つとして『不安や悩みの主な相談窓口』の活用ということだろう。
私見としての『自殺未遂者支援体制強化事業』
まず、『「第6回救急医療体制等のあり方に関する検討会」の6』の提言は、我々精神医療に関わる全ての関係者は重く受け止めるべきである。
その上で『自殺未遂者支援体制強化事業』を実効あるものにするためには、任意契約、任意入院が原則であることを理解し、その上で、この20年間精神科医、精神医療従事者は任意契約、任意入院での治療関係を築く術を身に付けてこなかったことを深く反省すべきだ。それなくしてことは先に進まない。
それを踏まえて、
第1次予防(啓発)
色々あっていい。
ただ、戦に例えれば最前線の斥侯は志願兵(ボランティア)任せ、新兵(リクルート)すら見当たらず、正規軍は何処?連絡も取れず・・・。
第2次予防(早期発見・再発予防)
24時間365日、非自発的入院ではことは収まらない。手間暇掛けた対策、対応が肝要。
第3次予防(リハビリテーション、再発予防)
居場所の確保、そのため関係団体等との有機的な連携が必須。
当院は投稿記事からして2009年当時には、すでに「~~救急病院の負担要因であるソフト救急へ対応は手つかずの状態」に手を突っ込んでいたようだ。
病院経営
だが、こうした取り組みでは、多くの自治体病院の黒字化に貢献し、かつ一部民間病院が高規格病棟と自認する「精神科救急急性期医療入院料」の取得要件はとても満たせない。
2011年「医療施設耐震化臨時特例交付金」の目的は、もちろん施設の耐震化だが、投稿記事にふれている「機能的な施設整備」がもう一つの大事な目的。つまり、「生きたくないが、死にたくない」といった自殺未遂者等が納得して入院、あるいは療養できる空間の整備が必須と思ったからである。
『標準型電子カルテ、本格版を2027年度に提供開始 財政政策諮問会議』
CBニュース2024年12月26日
当院では2012年に「地域診療情報連携推進費助成金」を活用し、地域の情報共有化はまだまだ先であることは承知の上で、すでに標準型電子カルテの導入を行っている。ただ、それには独自に自殺未遂者等の相談記録が病院内で共有できる仕組みを構築。当事者が受診に至る前から、各職種が情報を共有した上で、適切なソフト救急対応ができるようにと工夫を施している。
また、私が長年関心を持ち、取り組んでいる依存症は古くから間接自殺と言われている。なら、当院が長年取り組んできた依存症の臨床活動は『自殺未遂者支援体制強化事業』のど真ん中のはずだ。しかし行政当局は、当院のこういった取り組みに関心を寄せることなく、補助金等は一切頂けていない(苦笑)。
一方で国、自治体からの助成金とは必要資金の半額だ。残りは自らが用立てねばならない(銀行融資)。加えて先に紹介したように高額入院料等は全く期待できない。
よって、常に病院経営は四苦八苦、悪戦苦闘の日々である。
当時、長崎新聞はこの投稿をよくぞ掲載してくれたものだ、と! 感謝!!
【参考】
長崎県医療施設耐震化臨時特例基金事業助成金 2011(平成23)年6月1日交付
地域診療情報連携推進費助成金 2012(平成24)年1月4日交付