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どうする精神保健指定医 ②

★精神保健指定医の役割

精神保健福祉法第20条「精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない」(以下「・・・任意入院に努める」)と。
この条文は1987年に精神衛生法改正(精神保健法)で新たに定められたものである。それと同時に精神保健指定医が制度化されている。そしてこの制度は有資格者のみ一定の医療行為を業務独占的に行い得る権限を与える専門医制度(例えば、技術的高度性に着目して設けられる制度とは異なる特別の法的資格制度)となっている。
一定の法的な判断を要する医療行為とは、入院に関する判断である。それはもちろん、第20条の「・・・任意入院に努める」ことを前提としている。そして、その上で患者が幻覚、妄想等に支配される等、判断能力に欠けた状態(病識欠如)にあることを見極め、非自発的入院(医療保護入院、措置入院等)を要すると判断するのが精神保健指定医の業務である。となると、精神保健指定医とは、この資格を有する前に医師として、当たり前のことだが患者と任意契約下における治療関係の構築(インフォームド・コンセント)が必須であることを理解しているかの確認が必要だ。

★精神保健指定医の役割、その検証

では何故、当たり前のはずの(インフォームド・コンセント)についてふれたか、だが・・・。

これまでも、何度もブログで取り上げてきたことだが、いつの間にか、ここ20年余りの時の流れの中で、「・・・任意入院に努める」が「・・・非自発的入院(医療保護入院等)にしなければ・・・」になってしまった(資料1)。

【資料1】

その一番の要因は2002年に精神科で最も高い医療費を請求できる精神科救急入院料病棟の設定にある(資料2)。その取得要件は「年間の入院患者の6割以上が非自発的入院(任意入院でない入院)であること」等である。もちろん、精神保健指定医の判定が必須だ。それを「世界に冠たる精神科救急医療制度」と自画自賛、加えて高額医療費が請求できることで精神保健指定医はあたかも高度な専門技術を有するかのように評価がなされ優遇されるに至っている。だが、精神保健指定医である前に医師であることを忘れてはならない。それで「インフォームド・コンセント」=「任意契約」、「説得より納得」を忘れてはいけない、と・・・。

【資料2】

★高規格病棟と称する精神科医療分野における評価と課題

日本の精神科救急医療制度が「世界に冠たる精神科救急医療制度」と言われ続けて久しい。
2023年10月16日に日本精神科救急学会が提出した声明文でも、それを高規格病棟と称している。
しかし、その現状については声明文の中で、「~人権擁護を基調としており、一定割合の非自発的入院を要件とするケアシステムは許容されない。」
「~ケア対象に一定の重症(略)を求める(略)入院形態を代用する考えは時代遅れ~」と提言している。確かに、かなり「時代遅れ」だ!まったく同感!!でもそういった要件を受け入れてきた病棟が「高規格病棟」だよね?

★今一つの「時代遅れ」・・・の報告書

地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書』厚生労働省:2022年6月9日。その総論では「誰もが経験しうる身近な疾患」として、「精神障害を有する方」と精神保健(メンタルヘルス)上の課題を抱えた方」(以下「・・・抱えた方」)とに分けている。しかし、報告書の各論においては「・・・抱えた方」に関する記載は皆無と言っていい。
私見ではあるが、高規格病棟、即ち精神科救急入院料病棟の下では、この「・・・抱えた方」に対する適切な治療的介入と回復支援は困難である、と・・・。また、精神科救急入院料病棟において欠くことのできないとされる精神保健指定医もやはり「・・・抱えた方」に対して、人権擁護の観点からの処遇判定を行う術は持ち合わせていない、と言っていい。「・・・抱えた方」の多くは「否認」の課題を抱えている。一部地域、いや多くの自治体が、この「否認」を非自発的入院の判定基準の精神症状だと容認していると聞く。それこそ人権擁護上、重大な問題ではないか。しかし、それが問題になることはほとんどない。それは何故? つまり、この「・・・抱えた方」を非自発的入院、3ヶ月の縛りにすることで、精神科救急入院料病棟の要件維持に都合がいいからだ。そんな現実の中、日本精神科救急学会からの声明文、どう受け止めていいのか?

◎2023年10月16日 令和6年診療報酬改定に関する声明(2) 日本精神科救急学会HP(https://www.jaep.jp/) ◎『地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書』 厚生労働省HP(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_322988_00011.html

★北新地ビル放火殺人事件と精神保健指定医

2021年12月17日、大阪市のビル内精神科クリニックが放火され、死者27名(犯人の男も含む)、負傷者1名を出している。

被害にあった精神科クリニックではリワークプログラムが行われていた。対象患者は高機能精神疾患(「・・・抱えた方」)だ。犯人もマスコミ報道で知る限り、通院患者で、彼の経歴から腕のいい職人だったらしいが、ここ10数年は不遇であったようだ。リワークの対象としてつなげるのは難しかったに違いない。だが、執着性気質でプライドは高い、そして、気分障害圏の問題を抱え、アルコール使用障害も併せ持っている。つまり彼も「・・・抱えた方」。日本の公的保険制度で利便性がいい立地にあり、かつ、うつ病圏の復職、就労支援を掲げた精神科クリニックに彼のような患者が受診、通院するのは容易なことだ。全国の精神科医療機関で彼のような患者との小さな諍いが日常的に生じているはずだ。しかし、精神保健指定医の診断、処遇判断を良しとする現行の精神科医療制度では、そんな諍いをそれこそ任意契約下で扱う術は身につかない。~(中略)~こうした見直しを行うことなく、「地域包括医療における精神医療」の枠組み作りにおいて、精神科クリニックにも夜間精神科救急の一翼を担わせようとの検討が進められていると聞く。とんでもないことだ。第二、第三の精神科クリニック放火事件につながりかねない。
(『依存症について』~精神科疾病構造の変化を踏まえて~ 
そして、大阪の精神科クリニック放火事件 
西脇病院 西脇健三郎 熊本県精神科病院協会誌2022年4月号より)

長崎新聞(共同通信)2022年12月17日付に以下のような記事が・・・。

『院内「暴力行為」被害85% 大阪・ビル放火殺人1年「うつ病リワーク協会」調査
「日本うつ病リワーク協会」などが医療施設に行ったアンケートで、暴力や暴言などの暴力行為の被害が過去にあったと回答した施設が85.0%に上ることが16日分かった。9.7%が「放火(未遂を含む)」があったと答えた。~~』

長崎新聞(共同通信)2022年12月17日付

と。

以後、「精神科クリニックにおける夜間精神科救急要請」といった情報はない。

★「おひとり様」対策と「・・・抱えた方」

日本經濟新聞2024年1月13日付、『昭和99年ニッポン反転 ⑨「総おひとり様」の足音~』によると、この40数年間で「おひとり様」生活は20%から38%とほぼ倍増している(資料3)。北新地ビル放火殺人事件の犯人も「おひとり様」で、かつ「・・・抱えた方」であった。

【資料3】


今後の対策とは、2024年4月より施行される「孤独・孤立対策推進法」だ、と・・・。
そして、地方自治体にこの対策を検討する官民協議会を設ける努力義務を課すらしい。

さて、どうする精神保健指定医

追)『第6回 精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針案等に関する検討会』・2013年を記憶されておられるかな? 
冒頭、次のように記載されている「機能分化は機能的に行い、人材・財源を効果的に配分する~~~」と。これは「・・・抱えた方」を視野に入れての記述だろうか?
2013年厚生労働省HP (https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000026682.html

今、総合病院等の医療機関を悩ませているのはペイシェントハラスメントらしい。
(長崎新聞2023年12月4日付、毎日新聞2024年2月6日付)
これは加害者、被害者ともにそのほとんどが「・・・抱えた方」と言っていい。
精神保健指定医はそんな問題に対応するスキルはもちろん持ち合わせてない。
しかし、それはある意味、精神科救急(ソフト救急)の対応を要する案件だ。よって、精神保健指定医の資格取得には、そういった問題に悩まされている総合病院精神科での一定期間の勤務を義務化すべきである。

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