精神科救急(スーパー救急)の行方 時代遅れから再生へ
日本精神科救急学会は、 2023(令和5)年10月16日「~ケア対象に一定の重症であることを求める目的で入院形態を代用する考えは時代遅れである~」とした声明文を出している。
▲補足「重症であることを求める目的で入院形態」とは、きっと非自発的入院(主に医療保護入院)のこと。
◎2023年10月16日 令和6年診療報酬改定に関する声明(2)
日本精神科救急学会HP(https://www.jaep.jp/2023seimei_2.html)
◎十年一昔、一時代前の講演会と印象的だった質疑応答
2013年5月30日、私が長崎市内で行った講演会の演題は「精神保健指定医重視で、疎かになっていた任意契約による(入院)治療について」であった。副演題は「5大疾病の一つとなった精神科疾患と精神科病院のこれからの在り方」としている。
こういった講演会を十数年前から各地で多く行ってきた。しかし当時、こうしたテーマの講演は当時の精神科医諸氏には人気がなかった(今もまだそのようだが・・・)。11年前のこの日(5月30日)にも県下精神科医の参加者は「無し」だったと記憶している。
県外では地元精神科病院協会の主催ということもあり、多くの精神科医の参加をいただいた。だが、彼らの関心と理解は今一つだったような気がしている。
印象的だった質疑応答
質問 『任意入院を優先するとおっしゃっていたことが頭に残っています。任意入院でしたら、今の法的には、おそらく開放処遇ということにつながってくるのですよね?
最近、精神保健福祉法の第33条の、医療保護入院に関する記述に対して議論がなされています。「精神疾患の患者は、精神科病床に入院させなければならない」という意味にとれるため、それは差別ではないかということで、厚生労働省からもその記述を削ろうという意見が半年ぐらい前から出ていますし、一方で、日本精神科病院協会はこの条文が見直されることで精神疾患の患者が一般病院に流れていくんじゃないかということを懸念しています。
精神科病院にかかっている精神疾患の患者は開放的処遇をされ、なおかつ任意入院をメインで診られるということになりますと、今でさえ、一般病院がうつ病の外来をやっていたり、認知症を一般病院で診ていたりしている傾向にますます拍車がかかって、精神科病院のアイデンティティというようなものが失われるのではと思うのです。30万床の病床を占めている患者が、一般病床に今以上に流れていけば、外来患者が減っていって、精神科病院の経営が先細りするのではないかと思うのです。
急性期やスーパー救急などの閉鎖的処遇の患者を、マンパワーを生かすことによって診て、規模を拡大しない中で高い医療費をとるというのが今までの流れだったような気がしますが、先生がおっしゃることは、ちょっとその正反対の方向のように理解しているのですが、どうなのでしょうか』
私 『何をもって開放処遇とするのか、何をもって閉鎖処遇とするのか。法的にも、制度的にも定義は存在しません。一方で、すべての施設で医療安全を配慮したセキュリティー管理が課題となっています。だから、少なくとも夜は病棟の戸締まりはしっかりしないといけません。だから、私たち精神科医(精神保健指定医)は開放、閉鎖には囚われず、精神保健福祉法第20条が定める「精神科病院の管理者は、精神障害者を入院させる場合においては、本人の同意に基づいて入院が行われるように努めなければならない」(「・・・任意入院に努める」)を第一義にすべきだと思います。もう1つの質問は「任意契約の患者は他科でも診られるから、精神病院の受診、入院が減るのでは」でしたね。
精神科疾患は5大疾病の一つとなっています(資料1)。結果、精神科疾患の疾病構造も変化し、多様になっています。そうなると内科、心療内科レベルで治療を求める患者もでてくるでしょう。しかし私は、そういった様々な精神疾患を抱える患者を一般科が多く、かつ十分に治療できるとは思っていません。むしろ、これからそういった患者をしっかり受け入れる体制を準備する必要があると思います』と・・・。
◎経済誌からの二つの警鐘
1)週刊『東洋経済』2014年1月18日 特集「うつ病の正体」より
2)『東洋経済新報社』 2022年3月24日発行 「ルポ・収容所列島」 より
▲補足:日本を代表する経済誌出販社『東洋経済新報社』より発売の1)は週刊『東洋経済』の特集記事の見出し、2)は出版図書「ルポ・収容所列島」の帯に書かれていたもので週刊『東洋経済』で当時連載されていた記事を書籍化したもの。
★双方とも的を得ており、共通項がある。
それは「疎かにされている任意入院(任意契約)」だ。
1)では、児童思春期、依存症疾患のための専門医育成、そのためにはまず任意契約、任意入院のスキルを身に付けることが肝要。
2)に関しては「世界標準からかけ離れた日本特有の精神医療がまかり通っている」、つまり「非自発的入院、そしてそれに伴う隔離、拘束」を最小化とするためには、任意入院に努めることが不可欠。
◎よく分からない行政当局の振る舞いと指導
★以下、資料2より抜粋〈令和2年=2020年〉
『文書指摘事項:一部の任意入院者の診療録について、「入院(任意入院)に際してのお知らせ」により入院時に告知しているが、誰に説明をし、誰が受領したか確認ができない事例が見受けられた。事後のトラブルを招くことがないよう適切に記載すること。(「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」第21条第1項)』
▲広辞苑:『誰』とは「たれ〔誰〕(不定称)はっきりとは知らない人、また名を知らない人をさしたり問うたりするのに使う語」
『精神保健及び精神障害者福祉に関する法律』第21条第1項:「精神障害者が自ら入院する場合においては、精神科病院の管理者は、その入院に際し、当該精神障害者に対して第38条の4の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせ、当該精神障害者から自ら入院する旨を記載した書面を受けなければならない。」と・・・。
◎精神科救急(スーパー救急)の再生への道程(資料3)
*初期、個人内救急、ソフト救急(自発的)とは最近、救急車出動増加の大きな要因となっているリストカット、多量服薬を行う人。それも「生きたくないけど、死にたくない」といった個人に対する任意契約による治療、回復支援の関係構築。それは手間暇かけて取り組むべき課題。
*2次、家庭内救急の多くは「否認」の問題を抱えている。加えてDV、共依存などが絡んでおり任意契約による入院導入はとても厄介。でも医療保護入院はダメなんだよね!
★求められる精神科救急(スーパー救急)
となると、精神科救急(スーパー救急)の再生への道程とは「初期」と「2次」が重要だよね。「着眼大局、着手小局」ってところかな!!