
ジェトコースター人生 52-5
帰りは「赤い悪魔」と呼ばれた韓国の熱狂的な応援団の一行と一緒の飛行機でした。機内はワールドカップ観戦帰りの団体客で満席状態。
私たちが一番小さな7人のグループだったので一塊で真ん中のシートが用意されていました。
ベルト着用のボタンが付くといよいよ離陸です。
ジャンボジェットはどっこいしょと言わんばかりに大きな機体を滑走路の端に止めてまっすぐに離陸先を見据えています。。エンジン音が爆音に代わって体が置いて行かれるくらいの速さで滑り出しました。
長い滑走路ですが足りるのかと思うくらいなかなか浮上しません。やっとのことで地面を蹴った時にはもう車輪が収まる音がして窓から見える夕暮れの空港の明かりが小さく輝いていました。
2時間ほどたったころです。大きく上下に浮いたり押し付けられたりとお酒も入って、騒いでいた乗客の悲鳴は最高潮に達しました。つかさずシートベルト着用のボタンの音が鈍く聞こえました。台風の影響で気流が不安定なのでしっかりベルトを締めるようにと告げられました。「かなりの揺れがありそうです!」アナウンスの声も揺れている様子が分かる不鮮明な聞こえ方です。
機体は暴れる魚みたいな動きで雨の中を進みます。最初は笑っていた人もだんだんと不安な様子で子供は泣きだすは女性の悲鳴はキャーキャーと騒然となりました。
「ミラノのマルペンサ空港に緊急着陸します。」とアナウンスがありました。「やったー!」ミラノの空港はお土産のパラダイスです。帰りに「おまけ」をもらったみたいに思えてちょっと喜んだのは私だけでしょうか?
「もう当分ジェットコースターには乗りません。」と思うほどひどい空路でしたが、空港に着くと次の搭乗までは4時間あります。
広くて大きな空港を走って目的の土産店まで一目散です。こんな時はどこから力が湧くのか母親二人が先頭を切っていくのがおかしくてついたころには呼吸を整えるのにしばらくかかりました。
イタリアはカメオのブローチが有名ですが、娘へのお土産はコンク貝のピンクが愛らしいキューピットの彫刻を選びました。
走り回る母親たちを見て息子たちはあきれ顔でしたが、バールで甘いケーキとエスプレッソを注文して、すでに思い出になってしまった試合のあれこれを話していました。あの時交換したピンバッチもいくつかテーブルに乗っています。
その時のことがこんなにも早く思い出になってしまうなんて…。
高校を休んで行ったワールドカップ観戦旅行は息子にとっても貴重な体験になったようです。