親が付けた名前っていいもんだ
私たちの名前は両親が将来幸せになってほしいと一生懸命考えてつけてくれました。
漢字にその思いが現れています。優しい女の子に、清らかで美しい子に、また花の名前や自然界の月や風など。
小さい頃は「子」のついていない名前が良かったのにとよく思いましたが、後になって母から父の思いを聞かされて、この名でよかったと思うようになりました。
女の人は結婚すると名字が変わります。最近は別姓で夫婦の方もたくさんおられますが、名前はずーと一緒です。
縁あって両親の元に生まれ祝福されてつけてもらった名前。大事にすることが両親に対する感謝の一つのような気がします。
七歳の誕生日の朝、枕元に置かれていたのは父親からのプレゼントでした。「トロイメライ」という曲のオルゴール。小さな私は変な箱にがっかりしました。トロイメライはドイツ語で「夢」だそうです。
少女の私には地味な黒いオルゴールにさほど喜びもなく、なんでこんなものをくれたのだろうとがっかりしたのを覚えています。
母は「きれいなオルゴールね。」と自分がもらったみたいに蓋を開けてその音色に耳を傾けていました。
父は今どきのマイホームパパではなく、厳格で几帳面な人でした。物静かであまり私を子ども扱いしませんでした。
それにしてもこの黒いオルゴールは大人びています。
あまり開けて音色を聞くこともなく、小物入れになっていました。
おとなになってもそのままでいつしか忘れられた存在でした。父が逝き
母も長寿を全うしいつしか二人を思い出のなかでしか会うことができなくなりました。
最近です。このオルゴールを聞くようになったのは…。
父はどんな気持ちでこれを選んだのだろう。もちろん私を思ってのこの曲だったのでしょう。少し胸が熱くなります。
「トロイメライ」ドイツの作曲家、シューマンのピアノ曲です。
私に「夢を持ちなさい」というメッセージだったのか、父の煙草をくゆらす横顔が浮かびます。不器用な父が生まれた私の名前をあれこれと考えている。そんな姿も…。
今夜は久しぶりに父の思い出と一緒に聞いてみることにします。