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Jun

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#純白パリジェンヌ

「人見知りの青年」

「人見知りの青年」

「とりあえず…そうじゃな。住人らに挨拶でもしに行こうかの。これから君もこの島で暮らす事になる。必要な事じゃ。」

僕は神様に言われるがまま、白い髪の老人の後ろをただ着いて歩く。

「おったおった。見えるか?目の前におる男の子。宮城くんじゃ。」

神様の視線の先に、あぐらをかいて砂を木の枝で漁っている男性が居る。

「宮城くん。ちょいと宜しいかな?この島の新しい住人じゃ。ご挨拶をしておくれ。」

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「四月の夜の潮風」

「四月の夜の潮風」

僕は工場に七年間勤めていた。

海を横に置いた工場地帯の一つで、壁紙を作る工場。

築三十年、従業員は約二百人の少し大きな工場だった。

その工場は一年に平均二回、火災が起きる。

だから僕はおよそ十四回、火災に巻き込まれた事になる。

搬送先の病院の先生はまたこいつらか、と思っていただろう。

シンナーを扱う工場での火災の煙は、人体に有毒な影響をもたらす。

声を失う人も居れば、脳がいかれる人も

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「群青色」

「群青色」

沢山の一万円札を浮かべた湯船に浸りながら、八十年物の白ワインを口に含む。

そして、僕の脳はアルコールの気持ち良さに負け、のぼせ、狭い湯船に沈んで行く。

目を開けるとそこには、絵でしか見た事がない伝説の海中都市アトランティスが広がっていた。

綺麗と不思議が僕の目に焼き付かれた瞬間、急に息が苦しくなり、そのままゆっくりと気が遠のいて行く。

今までの僕の人生の全てが早送りされている。

そんなに

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