学費を稼ぐ女
大学時代、一番仲が良かった友人は学費を自分で払っていた。
彼女は家に金銭的な余裕がないわけではない。
ただ、両親から「大学の学費は自分で払え」と言われてそれに従っていた。
義務教育後の進学は親の教育方針によるとわたしは考えている。親の教育方針によっては高校進学も当たり前ではないし、ましてや大学進学なんて贅沢品とも言える。
だから彼女のような教育方針の家庭もあるのかくらいに思っていた。
ただ、わたしと彼女が通っていたのは私大。
年間の学費は普通のアルバイトでまかなえるような金額ではなかった。
もちろん彼女は奨学金も借りていた。
しかし、社会人2年目くらいで早々に返済を終えている。
彼女は一体どんなバイトをしていたのか。
彼女はとても顔が可愛く、華奢だった。
大学の新入生オリエンテーションで初めて話した。
わたしは田舎から上京してきたこともあり、都会の18歳の女の子の垢抜け具合に衝撃を受けた。
田舎者のわたしは「そんなに可愛いのに芸能事務所に入らないの?」と質問した。
すると彼女は「もう入ってるよ。全然仕事してないけど」と少し恥ずかしそうに答えた。
わたしはなぜか事務所に入ってない前提で質問した自分が恥ずかしくなった。
わたしの住む田舎は可愛い子が多かった。
でも田舎ゆえにスカウトされたり、芸能に興味がある子は皆無だったので、どんなに可愛くても芸能には興味がないのが普通だと思っていた。
都会の洗礼を受けつつ、わたしと彼女は仲良くなった。
ある日、彼女が親に学費の支払いを命じられていることを知った。
彼女は「手っ取り早く稼ぐならキャバだよね」と言って体験入店できる店を探し始めた。
20歳に満たない少女がそういう稼ぎ方を知っていることが衝撃だった。
わたしは心のどこかで水商売は自分から遠い世界の話で、悪い事のように思っていた。
彼女は芸能事務所に所属するくらい顔もいいが、要領も良かったので港区の高級キャバクラの体験入店を繰り返し、一番時給の良い店で勤め出した。
昼間は大学生、夜はキャバ嬢とほぼ寝ずに過ごしていた。
1年生は一限からの授業が多いのでかなり大変だったと思う。
しばらくすると彼女はフィールドをキャバクラからラウンジに移した。
わたしもそれが良いと思った。
彼女は可愛いけど清楚寄りなので、キャバクラ特有の華美な感じは少し違うと思っていたからだ。
彼女を見て、やはりラウンジは芸能人の卵で溢れかえっているというのは本当なのだと思った。
ここで彼女の人脈が一気に広がり、しばらく港区女子になる。
タワマンで毎晩開かれるパーティー、クラブのVIP貸切のバースデーイベント、ギャラ飲み、芸能人飲みと派手に遊んだ。
彼女が港区女子だった頃はわたしもおこぼれをいただき、楽しませてもらった。あれは良い人生経験だった。
しかし彼女は1年ほどで港区女子を辞める。
容姿を活かしてラウンジでお金を稼ぎつつ、第一線で活躍する芸能人と出会うことが彼女の生活の中心になっていた。
彼女には憧れている若手俳優がいた。
その俳優が来る飲み会に初めて参加できた。
相当嬉しかったらしく、飲み会の途中に電話が来たほどだった。
しかしその俳優は別の女の子を持ち帰ってしまった。
次の日、彼女は号泣しながら授業を受けていた。
夢のような世界で夢を見失った彼女は毎年きちんと学費を納め、無事に進級していった。
そしてイケメンよりもお金持ちを選ぶようになった。
彼女はまたフィールドを変え、最終的に銀座の高級クラブに勤めるようになった。
この頃わたしたちは大学3年も後半になっていた。
就活やらインターンやら将来と向き合わなくてはいけない時期が差し迫っていた。
彼女が銀座の高級クラブにフィールドを移したのには明確な理由があった。
就活に強いコネを得るためだ。
大企業ほどコネ入社、顔採用はいまだに根強く、大企業の役員に気に入られて秘書になるとか嘘みたいなケースは本当にある。
彼女は銀座でもよく稼ぎ、コネも手に入れた。
不思議と彼女に対して「ずるい」と感じることは無かった。良い思いもしているが、圧倒的に大変な思いをしているのを知っていたからだ。
ちなみに彼女のご両親は固い職業に就いているが、彼女が水商売で稼いでいることを知っているし、認めている。
どうやらお母様も同じ手法でのし上がったタイプらしい。
彼女は現在某有名企業で総務をしている。
そして花形部署のハイスペックな彼氏と婚約中。
学生時代から稼ぎ、現在も収入が良いので前述の通り奨学金は早々に返済済みだ。
4年分の授業料はしっかり納めて無事卒業した。
芸能事務所はいつ辞めたのかわからないが、所属タレントとしてサイトに掲載されていた彼女の画像はいつのまにか無くなっていた。
定期試験や卒論、サークル、ゼミ、恋愛、旅行と大学生らしい生活も頑張ったし楽しんだけど、彼女が教えてくれたキラキラした夜の都会も思い出深くて面白かった。
彼女はこれからも要領よく生きていくに違いない。
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