お勉強261:TNTで半分近く直腸は温存できる?

https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.22.00032

TNTをして、できるだけW&Wに持ち込んでみる、という
主旨の試験。(OPRA試験)

ここに書いてある、下の試験の論文化

CRT→NAC群とNAC→CRT群の比較も行うべく
両群ランダム化

基本的にはCRTは5-FU持続静注かカペシタビン併用で50-56Gy
(45Gy/25Frをリンパ節に、残りを陽性リンパ節・原発にBoost
 腫瘍が肛門にかかっている場合は鼠径リンパ節も含む)
NACはFOLFOXもしくはCAPEOX
DFSがプライマリーエンドポイントで、
過去のCRT→TME→アジュバントケモ(3年約75%)と比べて
DFSが良いか(目標3年85%)どうかをみる、という趣旨の試験。

インダクション後

・直腸診
・内視鏡観察
・MRI
・CT(胸や腹部も取って遠隔もチェック)

をおこない、clinicalに
CR, near CR, incomplete response
に分類(あらかじめ決めてある指針があったよう)
incomplete responseのひとはTME推奨
cCR, near cCRのひとはW&Wを進めてみて、乗ってくれば

・4カ月おきのsigmoidoscopy(2年まで、3年以降は半年置き)
・直腸MRIを半年おき(2年まで、3年以降は1年おき)
・CTは最低1年に一回は行う

もちろん、担当医の判断でもっと詰めることはあり。
cCR持続ならW&W継続推奨、regrowth判断ならTMEを推奨する。
生検は必ずしも必要としなかったと。

DFSイベントは
・局所 failure
 →TNT後uresectableと判断 切除後(R1は許容)再発、R2切除
 ※W&W中の直腸壁再発、領域リンパ節再発は
  R0-R1手術ができればこちらには入れない
・遠隔転移
・新規の大腸癌
・死亡

臓器温存率はITT解析でTMEをしなかったと定義。
(下記参照だが、局所のみの切除、TME拒否、
 遠隔転移でTMEを行ってない人も
 臓器温存率を出す上でイベントとしていると記載あり)

両群はバランスよく
・ケモ完遂率(FOLFOX>CAPEOXだったらしいが割合は同程度)
・放射線の線量
・全前治療の期間
・副作用や、治療や進行でre-Stagingできない患者はほぼ同等
は同程度
当然といえば当然だがCRTから再評価まではCRT→NAC群が長い

対象ステージはほとんどStageIIIで
ほとんどがT3(8割程度) N+(7割程度)
肛門縁から5cm以内という症例が多い

DFSイベントはほぼ同等で、割合としては
NAC→CRTで76% CRT→NACで75%
結果的には以前からのCRT→ope群の
ヒストリカルコントロールに勝らず
試験としての目標はクリアせず。
(ただ、ほぼ同等だったのは事実とdiscussionでは述べている)

全体としてDFSイベントは75例で41例が遠隔、11例が局所再発
10例が遺残(persistent disease events?下記参照)10例が他病死
局所再発無増悪生存は94%(どちらの群も)
遠隔転移無し生存はNAC→CRTで84% CRT→NACで82%
OSはmatureではないが、どちらとも3年9割、5年7割5分程度。

cN+が唯一のDFSを予測する因子であったと。

重要な直腸温存に関しては
TNT終了時点で26%がTME推奨。

残った74%のうちNAC→CRT群の71%、CRT→NAC群の76%の人が
W&Wを選択(!!)

フォローアップ中にNAC→CRT群の40% CRT→NAC群の27%が
局所増悪をきたし、TMEを推奨。
ITT解析上、局所のみの切除、TME拒否、遠隔転移でTMEを行ってない人も
臓器温存率を出す上でイベントとした。
DFSを出す上でもTME拒否例はpersistent disease eventsとした

3年での臓器温存率は
CRT→NAC群で53% 
NAC→CRT群で41%であった
(優位差あり)

T3/T4(T1/2と比べ)やN+、NAC→CRTがTMEまでの因子であった。
T3年のTMEなしの生存率は
CRT→NAC群で60%、
NAC→CRTで47%であった

(こちらも優位差アリ)

matureではないが
だいたい臓器温存率もTMEなしの生存率も3年ぐらいでプラトーになっている。

induction後にすぐTMEを受けた群と、(再評価後7週後がmedian)
局所再増大後TMEを受けた群(再評価後30週がmedian)
でITT解析ではDFSには差が無い

括約筋温存手術は 再評価後即時のTME(55%)>局所再増大後のTME(44%)
であるが、優位差はなし。CRTが先でも後でも括約筋温存術は差が無し

手術を行った全体のypTはほとんどT3/T4
ypN+はNAC→CRT群の方が少なめで15%、CRT→NAC群で27%
R1手術はどちらも10%程度(多いのでは??日本との定義の違い?)

著者らは、今回のTNTでCRT→NAC群ではほぼ半数がcCR
を保ち、直腸温存を3年時点でできていることを強調している。
(むろん、フォローアップが短いことは強調しているが、
 過去の報告と同様、2年以内にほとんど局所再発が
 起こる、ということも確認されている、とも言っている)

一方でDFSが過去のCRT→TME→アジュバントケモ
のヒストリカルコントロールを超える結果とならなかった原因として
1:ステージの不均等性
2:TNT⇒TMEはCRT→TME→アジュバントにかなわない可能性
(ただ、DFSで勝っている大規模試験は2つあるとも考察
 https://note.com/nijuoti/n/n6a8968c27fa4
 しかし、OSで勝っているわけではない
 と筆者たちは言っているが、この試験ではOSも改善している)
3:W&Wを積極的に進めたのが良くなかった可能性
 (かといってcCRをW&Wか、即TMEかのランダム化比較試験は
  実現不可能であろうと考察)

臓器温存率は色々報告されている試験のpCR率より高かった。
(理由ははっきりとは不明とのべている)、

CRT先行群の方が温存率が良いのはCAO/ARO/AIO-12
でTNTでCRT先行群の方がとpCRが高かったことと一致していると述べている。
(これも理由は不明と述べている)

今回の試験の一番のポイントは
「ちゃんと評価して、必要な時にTMEを進めれば予後は変わらない」
(短期間は)というところにある。

今後の課題はより正確にcCRを見つける、という点にあり
放射線診断科的には
治療前後のMRI画像でのラジオミクスなどが
すごくはやっているみたいです。


この論文にも記載されているが、まだまだ残る
W&Wの謎としては
1:なぜypcRの比率よりも直腸温存率がかなり高くなるのか?
2:CRTを先行するとなぜ直腸温存率が高くなるのか?
3:W&Wは「直腸を温存できるが」機能的にはどうなのか
 (手術単独とCRT+手術では後者の方が悪いのはよく知られた事実)
4:W&WかつOSの改善、という欲張りな目標は達成できるのか
などなど、

長期成績は今後見ていく必要性はありますが、K-M曲線では
プラトーに入っている感じはあり、進行期で半分残せる
という結果ならば、初期ならESD±TNT、中期ならTNT⇒W&W
という戦略はかなり視野に入ってくるのでは?と思います。
ICIもこの分野に参入してきていますし、
この分野は(世界的には)かなり厚い分野になりつつあります。
群雄割拠。

日本は完全においてかれています…
手術成績が良いのは間違いないですが、
「手術がうまい=Salvageもうまいはず」
「MRIの台数が豊富」
「内視鏡の技術世界一」
な日本でこれが進まないのは本当にもったいない。


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