極論で放射線治療医が語る進行期肺がん治療
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/search/cancer/report/202012/568059.html
をみて、考えたことを放射線治療医の極論としてつらつらと。
※CRTの併用薬剤について
結局、CRTの併用薬は『増感剤』と
個人的には割り切ってる。
組織型によって変える、という余地は
残っているが、結局何を組み合わせても
最終的に「治る」人は
臨床試験で2割、
実臨床で10-15%と変わりなしだからだ。
こんな事言い出すと、ケモラジの
局所→放射線 遠隔→ケモ
という(教科書的な)併用式は
壊れてしまうが、なおしているのは
「ケモによって増感された放射線治療」
であって、ケモのあれこれは
OSには響いてくるが、
(実際コテコテまで治療をしまくる
日本の臨床試験の方が
大規模な世界的な臨床試験より
OSはいい印象がある)
最終的に患者が求める「治癒」には
繋がってなかった、というのが
20年の停滞の一因だろう。
※肺臓炎の中でもG5について
個人的に食道癌や肺癌の症例をあちこちで
レトロで合計250例以上解析したり、
日常臨床でガンガン攻めた印象としては
G5は『ある一定以上照射する場合』
起こってしまうことのある「不幸な有害事象」
であって、正直V〇〇とかと関係ない
1〜2%の肺の過剰反応なのかもしれん、
と思っている。
(乳腺の放射線肺臓炎とかも同じ頻度なのは
偶然か、必然かは分からない)
食道癌で40Gy、肺の緩和照射で45Gyで
起こった経験もある。
起こってしまった症例だけ集めて解析する、
ってのを多くの人でやるべし、とは思う。
ただ、文献的にも個人的経験でも
『間質性肺炎』は間違いなくやばい因子。
※放射線肺臓炎、主にG3について
G1と2の違いは正直主治医によって
ステロイドの閾値が違うので、あまり
比較する意義を感じない。
放射線肺臓炎は肺癌根治CRTには
必発なので、大事なのは患者のQOLに関係する
酸素の必要性、つまりG3の頻度。
G3は多くで言われている通りV20が
かなり関係している、というか20-30Gyの
中線量がかなり関係してると思う。
(背景肺というか、間質影はより重要)
low dose bathについては意見分かれると
思うが、定位照射や、VMATの自己経験から
しても、あんまり重要ではない気がする
治療上、根治線量体積が増えると
中線量は増えるので、大きい腫瘍や
下葉の腫瘍(どしても周りの肺の体積
が多い)は原発だけの定位照射や、
手術の組み合わせがいいと思う
※手術との併用について
いわゆる、「切除可能III期」はなかなか難しい。
免疫療法導入前だと、先述の通り
大きい腫瘍・下葉の腫瘍は手術併用が良いと思う。
その際に「手術で安全にとり切れる」と思われる
原発ならばわざわざRTの照射範囲に入れなくても
いいのでは、と個人的には感じている。
一方で縦隔は照射をすべきと思う。
N2肺がんで手術単独<術前ケモ・ケモラジなのは
縦隔に対する効果だと個人的には思っている。
縦隔リンパ節郭清は予後改善のデータに乏しく
(ちゃんと肺がんガイドラインでもそう書いてある)
乳腺でいうところの「センチネルリンパ節生検」
と同じで、術後療法を規定するための
予後予測因子を得るための手技、と考えている。
確かに術前ケモラジ後、縦隔リンパ節のみ陽性
という群は存在するし、そういう症例では
郭清の意味もあるのかもしれないが、
「リンパ節をとったら陽性だった」と
「リンパ節の郭清をしたら予後が良くなる」
は必ずしも一緒ではないという気がする。
※PACIFIC試験のインパクト
20年来高い壁としてそびえたっていたIII期肺がんで
ランダム化比較で優位性を示した!!
というのは本当に肺がんの歴史の金字塔的試験である。
PFSのHRが0.55(ESMO2020)で、
4年のPFSが35%ぐらい、ということで
20%⇒35%と上昇、端的に言うと
化学放射線療法の4年PFS
+(all comerでの)免疫療法の4年PFS
という印象である。
相乗効果、なのか加算効果なのかはわからないが、
これまでの化学療法を軸に回す戦略が
ことごとく失敗に終わってきたことを思うと
今後のCRTは免疫療法を主軸に回っていくのは間違いない
PACIFICでの免疫チェクポイントの期間は
1年だが、IV期では一年よりも休まず
継続がいい(ニボのデータだが)
https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.20.00131?af=R
というデータもあるが、
費用のことも 考えるとむしろいい落とし所と思う。
後の免疫療法でPFSのプラトー以上に『治った』患者は
いるのかもしれない。
ESMOのデータで
2年⇒4年のPFSが
イミフィンジ群 44.8%⇒35.3%
コントロール群 24.8%⇒19.5%
で、イミフィンジ下がりすぎ?
と思ったが減少率は21%程度で変わらず、
進行というよりは
今までの治療の患者解析経験からは
他病死なのかな、と思う。
※免疫療法を軸として考えると…
NLR(リンパ球高値)、所属リンパ節の
プライミング効果を落とさない
(予防照射しない、郭清すると効果落ちる)
などが報告としてはある
☆化学療法
前述の通り、放射線治療の増感剤
としてはなんでもいい、と思っている
特定の化学療法が、リンパ球減少に影響
するかは知らないが、そういうレジメンは
回避したい。
☆手術
基本的には免疫療法より後に持っていきたい
サルベージ手術としてとっておく、
という戦略もありと思っている
もし免疫療法を後治療として
考えるのであれば、リンパ節郭清はしない方が
いいかもしれない
☆放射線治療
本題。 まずは、一般のX線の話。
前述のとおり、IFRTがますます主流になると思われる。
縦隔の線量は免疫療法の効き目を上げるためと、
今まで縦隔リンパ節再発だけの患者は個人的経験として
少ないので、線量は抑える方が良いと思う。
原発に関しては線量増加をするのは一手と思う
(特に局所再発が多いといわれるSq)
肺線量を押さえて、原発の線量を上げるため、
定位的に照射する、というのが流行るかもしれない
https://www.ofunachuohp.net/rt/treatment/lung-tumor2.html
こんな感じ。
一度やってみるとVMATの分布はかなり魅力的。
肺臓炎もRTOGのtrialでも少ないというデータがあるし
積極的に行っていく(上記のようなSIBも含め)
というのが時代の流れであろうと思う。
OARとしては肺だけでなく、椎体や胸骨、
心臓などいろいろバランスをとって考えていかねば
ならなそう。
陽子線に関しては、縦隔リンパ節、
浸潤して固定している腫瘍に関しては
かなり優位と思うが、
原発が動く場合、縮小してくる場合は
かなりロバストネスに不安を感じてしまう。
ネットで教えてもらった
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33227444/https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33227444/
この論文の成績はかなり良い。アジュバントの
イミフィンジはない時代で、臨床試験とはいえ
PFSが30-40%というのはかなりスゴイ。
縦隔リンパ節やや少なめ、動きが大きければ
スキャンニングにこだわらず、パッシブ照射
マーカー入れて、息止め。中央値で2.5回の再計画
ここまでやれば、という感じ。
個人的結論としては
・照射はVMAT、もしくは上記のようにかなり気を使った陽子線照射
・原発はD95などの処方で線量増加をこころみるのも
対象を絞って行うのは〇とおもう
・縦隔は線量増加は色々危険なので従来通りを踏襲しD50処方
線量はやや少なめでもいいかもしれない
・肺野に関しては照射されない部分を作るのか、
むしろ心臓や椎体などの「あらたなOAR」を守るため
VMATで回らない角度をつくるか、全周回すかは個人的に興味がある。
FLASHに関しては未知数。
☆4者併用?
やはり免疫機能を考えると、ラストは手術だろう。
今までの色々なphaseIIなども見ると、免疫療法は
CRTと併用、もしくはCRT後がよさそう
RTを抜く、というのは免疫療法に肩入れすぎな気もするし
大きい腫瘍は免疫療法効きにくい、という
イメージもあるので、腫瘍のデバルキング、
ネオアンチゲンの放出など考えて
CRT⇒ICI⇒opeを勧めたい。
※ つきまとう肺臓炎の問題
いわれているより、個人的にはイミフィンジで肺臓炎
増えている感じがある。やはり肺線量と
間質影やKL-6も考慮して、イミフィンジにこだわらず
あえて、CRT→opeを選択する、というのもありな気がする