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Vol.14|盲目になった愛犬の介護——自宅の壁にタオルを貼り、事故を防ぐという機転

天国の少し手前には「虹の橋」があると言われています。そこは、亡くなったペットたちが自分の飼い主と待ち合わせるための場所。

飼い主が自分のところに来るまで、ペットたちは楽しく遊びながら待っているそうです。

ここ「虹の橋こうさてん」は、そんな虹の橋をイメージし、お別れを経験した人、これからその時を迎える人のための情報交換の場です。

大切な家族とのお別れを経験した方へのインタビューをとおして、お別れまでの過ごし方や、お別れの仕方についてのさまざまな選択を発信していきます。

vol.14は、鼻を土で真っ黒にして遊んでいた、ミックス犬のナナちゃんのお話をお届けします。

犬種:ミックス犬/女の子
享年:17歳
語り手:E.Mさん


花壇のお花を掘り返しちゃう おてんば娘

最初に出会った時の印象を教えてください。

私は幼いころから犬を飼いたかったので、ペットショップのチラシを切り抜いて「こういうワンちゃんが良い」と親に見せていました。9歳のある日、親戚の方が「ワンちゃんがいるんだけど、どう?」と連れてきたのが、ナナだったんです。その親戚の取引先で子犬のもらい手を探していたとのことでした。

出会った時はまだ2ヶ月で、すごくちっちゃくて。やんちゃで、とっても元気な子だという印象でした。私が触りに行くと早速、噛まれてしまいましたね。でも、私は「飼いたい!」と即答しました。

どんな性格でしたか?

初対面の印象から変わらず、元気でおてんばで、家の庭をいつも走り回っていました。食べ物は、とにかくチーズが好きでしたね。焼き鳥など人が食べるものをなんでも食べていました。食事の時は、いつも隣にピタっとついてましたよ。

外でしか排泄ができない子だったので、雨や雪の日でも散歩に連れていかなければならないことが、けっこう大変でした。台風の時は近所にちょっと連れて行って、用を足して帰っていましたね。

基本的に家の中で飼っていたのですが、庭にいることも多かったです。自由に出入りさせていたんです。洗濯を干せるくらいの広さがある庭で、母がお花を育てているんですけど、ナナは全部、掘り返していました。自分のおやつを埋めたりして、鼻を真っ黒にして遊んでいましたね。

家族のケンカは仲裁し、一人で泣いているとなぐさめてくれた

ナナちゃんを飼っていたことが影響して、トリマーの資格を取られたそうですね。

そうなんです。専門学校で資格を取って、卒業後はトリマーとしても働きました。技能を身に付けたので、ナナの耳掃除や爪切りが全部、自分でできるようになったんです。

耳を痒がったり、悪くしちゃう子だったんですが、私が体のメンテナンスをできるようになってからは清潔を保てたので、そういった疾患もなく過ごせました。以前は病院で爪切りなどをしてもらっていましたが、自分でできるようになったことがナナのためになったと思います。

体が大きくなると1人でお風呂に入れるのが大変だったので、家族で協力していました。父が休みの日に、洗う人、拭く人、乾かす人という感じで。

「ここが可愛いんです!」という推しエピソードがありましたら教えてください。

家族でケンカが始まると必ず仲裁に入ってきていました。話し合いが続行できないくらい、本気で仲裁してくるんですよね。顔をなめたり、前脚でガリガリガリってしてきたり。それで家族が笑っちゃって、場が和むことがけっこうありました。

あとは私が泣いていると、絶対になぐさめに来てくれていましたね。最初は、背中を前脚でカリカリ、トントンってして、私の反応がないと前に回ってきて、肩にポンって顔を置いてくれました。毎回です。すごくうれしくて癒されましたし、「なぐさめに来てくれてるんだな。優しいな」って思いました。

最期の瞬間を見せたくなくて、お別れの時を選んだのかもしれない

亡くなった原因は老衰だったそうですね。亡くなるまでは、どのように過ごしていましたか?

亡くなる1年くらい前に、片目が緑内障になりました。それまでは元気に散歩も行っていたんですけど、見えないから徐々に行けなくなってしまって。緑内障になると、眼圧で目を圧迫されて頭痛が激しくなるので、眼圧を抑えるために病院に通っていましたね。だんだん見えなくなっている感じだったんですが、ついには両目とも見えなくなりました。寝たきりの期間はほとんどなく、だんだん動けなくなったという感じです。

目が見えなくなっても家の中をうろうろと移動していたので、ナナが行く範囲にある壁や角をタオルでガードして、ぶつかっても痛くないようにしていました。誰にアドバイスされたわけでもなく、その時の思いつきだったので、ガムテープでタオルを貼って、クッション代わりにしていました。ぶつかっても特に怪我がなかったので、効果があったみたいです。

最期はどのように迎えたのでしょうか?

亡くなる前も動いていて、食欲もあって、いつも通りに見えたんですけど、私が旅行に出かけていた時に亡くなりました。亡くなる二日前の夜は、特段、変わった様子もなく、唐揚げなどを元気に食べていたんですね。翌朝、私は「行ってきます」と旅行に出かけました。一泊二日だったのですが、私が帰る日の夕方に亡くなったので、最期、息を引き取る瞬間には立ち会えませんでした。

父と母が言うには、水がまず飲めなくなって、そのうち息がハアハアと荒くなり、急に息が止まったそうです。父が一生懸命、心臓マッサージしたんですけど、母が「頑張ったからいいよ」って言って。そんな感じで息を引き取ったと聞きました。

私はあまり感情を表に出さないタイプなのですが、ナナが亡くなった時だけは「声に出して号泣するってこういうことなんだ」っていうくらい大泣きしました。「いつも一緒だったのに……間に合わなかったな」と思いました。

ナナは年も取っていたし、いなくなった時のことをある程度、覚悟していたんですけど、その時とは思ってなくて。「もう危ないかも」という状態であれば、旅行には行かなかったでしょうね。子供の時から一緒にいたので、ナナは私に最後の姿を見せたくなかったのかなと思うこともあります。

親戚や親しいご近所さんにも最期の姿を見てもらった

亡くなってからは、どのような行動を取りましたか?

以前、ワンちゃんを亡くしたご近所の方から「近くの霊園に火葬場があって、そこがいいよ」と聞いていたので、すぐそこに連絡し、火葬の予約をしました。火葬は二日後だったので、大きめの保冷剤を敷いた上にナナの体を寝かせて、周りも冷やしてあげました。親戚やご近所の数名の方にも最期の姿を見に来てもらいました。ナナが横になっている姿を見て「寝てるだけみたいだね」「綺麗だね」と言ってくれました。

火葬の前は、棺や箱みたいなものに入ってなかったと思うんですよ。布団のようなものに寝かされていて、お花をそこに敷き詰めて、「本当にありがとう」と書いた手紙も置きました。スタッフの方から「好きだったおやつを一緒に入れていいですよ」と言われたので、おやつが入っていたプラ袋から出して、直接、体の周りに置きました。紙コップを用意しておけば、その中に入れて一緒に焼くことができるみたいですね。

自宅で供養するために用意したものはありますか?

写真は写真立てに入れて飾っています。納骨をしていないので、骨壺が入っている箱も一緒に。日常的に声をかけたりすることはないんですけど、時々、骨壷に触れることもあるし、命日などには好きだった唐揚げをお供えしていますよ。

ペット・ロスで落ち込む気持ちを、夢中になれることが支えてくれた

亡くなってから15年経ちますが、現在まで悲しい気持ちとどのように向き合ってきましたか?

ナナを亡くしたことは、私の人生の中で間違いなく一番悲しい出来事でした。今でも、まだ悲しいので解決したわけではないんです。

亡くなった直後は、意識して気を紛らわすようにしていました。仕事や何かをしている方がナナのことを考えないで済むので、自分的にはすごく楽で。ただ、ふとした時に思い出したり、他のワンちゃんが散歩しているのを見たりすると、すぐにポロポロと涙が出てくるような状態が3ヶ月くらい続きました。

その後もテレビに出演しているワンちゃんを見て、思い出して泣くこともありましたけど、他に好きなことを見つけて夢中になれたので、そこで乗り越えられたと思います。今で言う「推し活」ですね。好きなアーティストが出ているテレビを見たり、音楽を聞いたりすることですごく気が紛れました。

今、ペットと一緒に過ごしている人にかけたい言葉がありましたら、お伝えいただけますでしょうか?

ペットは人間よりも寿命が短いので、どうしても別れが来てしまいますよね。一緒にいる時間は、すごく幸せだと思うので大切にしてほしいです。

うちでは犬が年を取って介護が必要だったのですが、今まで楽しく過ごさせてもらったお礼だと思って介護をしていました。介護ができる分、長生きしてくれてると思えば辛くなかったので、プラスに考えて過ごしていってほしいと思います。

亡くなった当時は知らなかったサービスで今、利用したいと思うサービスがありましたら教えてください。

ペットの骨をネックレスに入れて持ち歩けることを当時、知らなかったので、やってみたかったです。今は子供がいるので、アクセサリーが付けられないんですよ。1人で行動してる時に身につけられたらよかったな、と思います。

〈おわりに〉

目が見えなくなったナナちゃんのことを気遣い、もし壁などにぶつかっても痛くないようにタオルをクッション代わりにしていたE.Mさんご一家。日々ナナちゃんの様子をよく見ていたからこそ、家の中の危険な所を把握して、不要な事故が起きないように防ぐことができたのだな、と感心しました。
ご家族の皆さんで行っていたナナちゃんのお世話の楽しさが、きっとトリマーの資格をとることにつながり、ご自宅でもナナちゃんを心地よい状態に保ってあげられたのでしょうね。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。

(聞き手:イチノセイモコ /ライター)


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