脳は回復する 鈴木大介著
「脳が壊れた」で感想を書き始めましたが、進化版の「脳は回復する」の方で書き上げたいと思います。
わからなかった違和感
この二冊を読むまで正直「高次脳機能障害」という言葉さえ知りませんでした。
回復期を「後遺症は左下肢の軽い麻痺のみ」と言われて退院した私は、日常生活の中で感じる違和感が一体何なのかさっぱりわかりませんでした。
それがこの二冊を読んだことで「あれ、この違和感は高次脳機能障害なのか?」と思い始めました。
急性期では目が見えなかったせいか高次脳機能障害のテストは行われませんでした。そして「高次脳機能障害はない」とされて回復期に転院したようでこちらでもテストが行われることはありませんでした。
患者本人である私には「高次脳機能障害」という言葉が伝えられることもなく、入院当時から訴えていた違和感も取り上げられることもないままの退院となり、なんの心構えもないままに日常生活に突入しました。
「私の頭は一体どうなってしまったのか?」最初は以前と違う自分を悟られまいと必死でした。
共に暮らす夫に打ち明けてみましたが「元からだよ」「歳のせいじゃない?」と取り合ってもらえませんでした。
二冊の本と巡り会って
そんな中、巡りあったのがこの二冊の本でした。読んで「私の症状と同じだ!」と嬉しくなりました。
本当は喜んでいる場合ではなかったのでしょうが、言語化することが出来ず、家族にさえ上手く伝えられなかったことを初めて説明することができました。
のちに夫に聞いたところ「スローペースになった気がする」と感じてはいたようです。が、私とちがって「高次脳機能障害はない」そう病院で聞いていたがためか「気にしすぎじゃないだろうか」と思ったようです。
バカになったというわけではない
くも膜下出血のフォローアップは回復期でお世話になった病院の脳外科で行われました。
その診察の際に、日常生活で起きている不具合について尋ねてみました。
そしてかえってきたのが「発症時に死亡が3割、重い後遺症が残るのが3割、日常生活に戻れるのが3割の病気ですからね」という言葉です。
同様の言葉を何度投げかけられたことでしょうか。
医療者側にとっては事実であり日常のことなのでしょう。
けれどもこれを言われた私は「また口封じにあった」と思ってしまいました。
そして続けて、今も私を苦しめている言葉「バカになったというわけじゃないですから」の一言が発せられました。
それまで周りに自分の変化を悟られまいと必死だった私はこの言葉を聞いた瞬間「ああ周りからはバカになったと思われているのだ」と思いました。そして未だその恐怖から逃れることが出来ずにいます。
家族には「言葉通りに受け止めたらいいのに」と言われます。脳の後遺症であって「バカになったというわけじゃないのだ」と。
先生は「周りからみたらそう思われるかもしれない」と言ったわけではないのにどうしてそんな風に思うのかと。
けれども自分は嫌というほど「バカになった」と感じています。
相手の言っている言葉が理解できなかったり、上手く自分の思いが伝えられなかったりします。記憶力も低下し集中力も続きません。
こんな以前とは違う自分と対峙させられつつ毎日を過ごしているのです。
誰が知らなくても自分が嫌というほど知っている事実。
これを周囲に知られまいとして必死になっていることは、家族といえども理解してもらえないのだと思いました。
それと同時に「バカになったというわけじゃない」という言葉にどんな意味を込めていたのか。なぜわざわざこの一言を患者に向けて発したのか。ドクターに聞けば良かったと未だに思っています。
フィードバックされない事実
本の感想に入る前段階でここまでの長文になってしまいました。
「脳が壊れた」は書きたいことだらけで収集がつかなくなってしまったので、今度こそ簡潔に書こうと思っていました。
ブログを書くために気になる箇所に付箋を付けつつ読み直したら付箋だらけの本が出来上がりました。
言いたいことが溢れる本ですが、なるべく簡潔にを心がけつつ何度かに分けて書こうと思います。と言いつつ前置き段階でこの長さですが。
とにかく今の段階で思っていること。「得体の知れない不安ほど辛いものはない」
高次脳機能障害と診断されリハビリをしている現段階でも十分に辛い状態ですが、自分が一体どうなってしまったのか分からなかった時はさらに辛かった気がします。誰にも理解されずこれからどうなるのかもわからないことがどんなに不安であるか、医療者側に知ってほしいそう思っています。
そしてテストも行われずに「高次脳機能障害はない」と判断された患者が回復期退院後、医療機関につながることがいかに大変であるかを知ってほしいと思います。
残念ながら回復期に退院後の患者の状態がフィードバックされることはありません。
担当医にも担当療法士にも回復期で高次脳機能障害と診断されなかったためにどんなに辛く苦しい思いをしたか伝わることはないのです。
今、現在もテストが行われることもなく社会に送り出される患者さんがいるかと思うといたたまれません。
一人でも多くの医療従事者にこの本が届くことを願っています。