いまこそ、当事者の声を聴こう
"いまこそ、当事者の声を聴こう"
そんなテーマで開催された日本神経理学療法士学会のサテライトカンファレンス。
当事者セラピストである小林純也さんが関わっているイベントで、脳フェスでもお馴染みの佐川陸さんやYouTuberの坂大樹さんも登壇されるとのことで、ちょっとワクワクしながら参加してきました。
情報の体系化
京都大学の宮本先生の講演の途中から参加しました。難しいことはわからないながらも"京都って何て進んでいるのかしら"そう思いました。
回復期病院を退院後、患者がどこで通院リハビリが受けられるのか等々、府内の各病院の担当者たちが脳卒中患者のために情報を共有し体系化したシステム。ぜひ日本全国で取り入れてもらいたいと思いました。
それと同時に患者が回復期病院を選ぶための情報、例えばMaxではなく一日平均何時間のリハビリが受けられるのか、どんなリハビリ機器があって専門性を持ったセラピストが各々何名いるのか、などが一目でわかるシステムも作って欲しいと思いました。
当事者の講演
当事者の講演では発症時やリハビリの様子などのVTRを交えつつ熱い思いが語られました。
VTRの中では当事者と変わらぬ熱量でリハビリを行うセラピストたちが映し出されており、"羨ましい"正直そう思いました。
脳フェスの代表の小林さんが以前「良いセラピストとは本人よりも可能性を信じている人」と言われていましたがまさにそんなセラピストばかりで、陸さんのお父様に"我が子と思って接する"とセラピストが言った話にはじんと来ました。
そして、くも膜下出血となり「なぜ自分が‥」と嘆きつつも「家族の誰かがなるのではなく自分で良かった」と思ったことがふと蘇り、陸さんをサポートするお父様の姿にご両親がどのような想いでここまで来られたのだろうかと熱い物が込み上げました。
映像として残すこと
もう一つ羨ましいと感じたことは急性期や回復期でのリハビリの映像が残っていることです。
コロナ禍の発症であったため家族も入院中の私の様子は知りません。また、後遺症で目が見えなかったため、自分がどんな状態でどんなリハビリをしていたのか、急性期の状態をよく覚えていません。
もしも映像で残っていたならば、自分なりに"こんな状態から歩けるまでに頑張ったんだな"と実感出来たかもしれないのに‥と残念に思いました。
個人の好き嫌いはあるとは思いますが、のちにリハビリの様子を見返せることには良い面もあるのではないかと思いました。
集まったセラピストの方々
会場には脳疾患患者のために少しでも良いリハビリをというセラピストが集まっていました。実は当事者が参加してのイベントはこれが初めてとのこと。神経理学療法士学会が自ら"当事者の声を聴こう"と銘打ったイベントを開催してくださったことを嬉しく思いました。
"当事者にとって良いセラピストとは?"という質問がセラピスト側から飛んだり、逆に"どういう情報が当事者から欲しいですか?"と患者側から問いがあったりと、互いにこの機会に情報を得ようという姿にリハビリの未来を見たような気がしました。
参加していないセラピストたち
私が疑問に感じたのは理学療法士学会を取り仕切る方々がリハビリ現場の実態をどのくらいご存知なのだろう?ということです。
この学会に参加したセラピストは、すでに患者さんの声を聴いて少しでも良いリハビリを提供し少しでも良い状態で病院から送り出すには?と考えている方ばかりだと思います。
けれども、自分たちは患者の声を聴けているだろうか?なんて疑問どころか、聴く必要性に気付いてもいないセラピストが一定数いると思っています。
実際、私が回復期で出会ったセラピストはそうだったと思います。
急性期から転院した私の希望は残存する足の麻痺の回復であり、戻りたかった生活は家事とボランティア活動と趣味の手芸の毎日でした。私の生活にスポーツという文字はありませんでした。
けれども、回復期では麻痺に対するリハビリも歩行の指導もなく、ひたすら筋力と体力をつけるための筋トレの日々でした。
高次脳機能障害と左手の巧緻運動障害には気がつかれないまま"日常生活に支障はない、退院後はジムに行け"そう言われて病院を後にしました。
セラピストとの出会いで変わる世界
退院後しばらくして自費のリハビリに行き、今回の学会にも参加された現在の担当セラピストに出会いました。
ジムには通えたけれど私の望んだ日常生活には一向に戻れない日々。趣味もボランティアも出来ない現実と戦う歳月を何とか乗り越えられたのはこの方がいてくれたからだと感じています。
登壇された当事者の方々の現在の姿は勿論ご本人の大変な努力があってのことだと思いますが、未来を信じさせ心身共に支えたセラピストとの出会いも大きいように思います。
病によって一瞬にして変わってしまった世界で再び患者が立ち上がるには、患者の声を聴き患者の望みを叶えたいという熱い想いを持ったセラピストが必要なのではないでしょうか。
そういう意味では、私はいつも真摯に寄り添ってくれるセラピストに出会えて本当に良かったと思っています。
私一人ではない
その一方であの回復期の日々は一体何だったのだろうかと悔やまずにはおられませんでした。
"麻痺は左下肢のみ、高次脳機能障害はなし"と急性期から申し送られたとはいえ、その麻痺に対するリハビリもなく他の障害にも気付いてもらえなかったことは残念でなりません。
回復期でトレッドミルを希望した時に"麻痺があって危険だから"と却下されたのですが、実は足に麻痺がある人にはトレッドミルが有効だと後に知った時は愕然としました。
急性期病院からそのまま退院して自宅に帰り自費リハビリに通えば良かった、と何度も思いました。
そんな思いが私をブログや Xへと向かわせました。そしてXを通して私と同じような思いを抱いている人がいることを知りました。
もちろん登壇した当事者の方々のように入院中に素晴らしいセラピストに出会った方もたくさんいらっしゃいます。けれども、そうではない方も少なからずいて私一人ではなかったのだと複雑な気持ちになりました。
回復期退院後、通院でリハビリを受けられる人は多くないです。そして自費でリハビリを受けられる人はごくわずかです。だからこそ、どこの回復期に行ってもある一定水準以上のリハビリが受けられるようになって欲しいと思います。
一当事者として願うこと
今後リハビリってどうなっていくのだろう?そう思うことがあります。先に書きましたが、今回のサテライトカンファレンスに参加されたセラピストはより良いリハビリのために"当事者の声を聴こう"という方々だと思います。
この私の想いを綴ったささやかなブログにさえ、当事者の声を聴くことが出来たらと目を通してくださる方がいらっしゃいます。
でも、そういう"患者の声を聴こう"と思う方は、実はもうすでに"聴かなければ"と気付き実践している方々だと感じています。
私がブログを読んで欲しいのは本当は、今回のカンファレンスに来なかった(来れなかったではなく)方々なのですが、どうしたらその人たちにもっと当事者の声に関心を持ってもらえるのでしょうか?
今回「神経理学療法士学会」が"今こそ患者の声を聴こう"というテーマを掲げて下さったことは素晴らしく大きな一歩なのだと思います。
けれどもその一方で向上心のあるセラピストとそうでないセラピスト。情熱のあるセラピストとそうでないセラピストの格差が開いていくばかりのような気もしています。
素晴らしいセラピストが増えてくれることはもちろん喜ばしいことではありますが、一当事者としてはセラピストの底上げを、一定水準以上のセラピストが増えてくれることを望みたいと思います。