公務員が地元の旅館を1年間応援したら、経営も人生もかなり上向いた話
朋友の夢を叶える実力を身に付けるため、「マーケティング」を学ぼうと旅館の門を叩き、丸一年が経った。
毎週日曜日におじゃまをして、おいしい珈琲をいただきながらしゃべる。ただただ、しゃべるのを聞く。女将さんのトークは軽妙で心地よく、弾が自動補填される機関銃のように途切れることがない。お茶目な81歳が、さんまさんみたいにキャッキャしながらずっと喋っている。
丸1年通い続け、かれこれ100時間以上は女将さんの話を聞いてきたことになる。最近は、女将さんの話相手はもっぱら妻になっていて、私はスマホを片手に旅館内を好き勝手動き回っている。今日のお菓子は何だろうと、ニヤニヤとよだれがとまらない3歳児も一緒だ。
今回は、公務員である私が地元の旅館を1年間手伝った成果をまとめていく。成果は主に5つあった。尚、公務員である私は1円もいただいていないことをここに誓っておく。
▼成果① 行政手続きに強くなった
1つ目は、270万円分の助成金を申請したこと。国の持続化給付金が100万円。県や市の宿泊キャンペーンや助成金は諸々合わせて約170万円。正しいお金はいくらあっても良い。新むつ旅館は、このコロナ禍においても昨年度並の売上を出した。地方の高齢経営者にとって面倒な手続きは天敵で、しっかりとした税理士さんを付けていないと、せっかくの制度も水の泡となってしまう。経産省の持続化給付金はWebフォームからのデジタル申請だったため、制度は知っていても申請はあきらめてしまう高齢の事業者は多くいたと思われる。
▼成果② SNSは伸びるしくみに尽きる
2つ目は、インスタグラムのフォロワー250人(2021.3.28現在)だ。はじめは伸びずに苦戦したが、100人を超えたあたりから軌道にのった。今では、月に1度くらいの更新頻度でも、自動的にフォロワー数が増えていく。SNSマーケは伸びるしくみをつくるまでが大変だ。やっていることはシンプルなので、どの宿泊施設でも活用できる。宿泊後もお客さまとつながりを持ち続けることで、ビジネスチャンスは広がっていく。がんばっているのに伸び悩んでいる施設があったら、微力ながら力になりたい。
▼成果③ Googleレビュー上昇!
3つ目は、Googleレビューが0.3ポイント上がったこと。1年前は4.3だったが、直近では4.6になった。4.6と言えば、超優良宿泊施設である。実際、レビューの評価は集客に直結する。旅館の建築美はすばらしく、女将さんの接客はチャーミングで最高だ。とはいえ、0.3ポイント上がった理由は何だったのか。もう一度いうが、私が来てからの1年間で0.3ポイントも上がっている。
▼成果④ ポストカード広告が好評
4つ目は、ポストカード広告だ。完成し、1枚100円で販売している。当初は無料で配ろうと思っていたが、女将さんの経営判断で売り物にした。これが当たって、売れ行きは好調。4000枚を売り切ると28万円が女将さんに入る。自分のつくった商品が世間で評価され、お金になる。こんなに嬉しいことがあるだろうか。
学びもあった。私のような者はSNSやネットで全てを解決しようとするが、玄人層には地上戦が絶大な効果を発揮する。自分の親世代を思い浮かべてもらえれば分かると思うが、年配になればなるほどネットやSNSを使わない。若い時につくりあげた生活スタイルは多くの人が崩さない(※大賀さんは例外)。大切なのは、戦う領域に合わせた戦略だ。一見時代遅れ感のあるポストカードも、創業124年の旅館を愛する玄人層には刺さるのだ。
▼成果⑤ 家族の週末レジャーに
5つ目は、私たち星野家だ。旅館にいくことが週末の楽しみになった。さばの捌き方やローストビーフのつくりかたを教えてもらう妻。新むつ旅館を通してスキルを磨き、さまざまな業界人と出会える私。いい音できしむ床を走り回り、庭の柿取りを手伝い、ぼうや賢いのねぇと、女将さんにほめられて得意顔な息子。週末に持て余していた時間がなくなり、日曜日が楽しみになっている。
継続は力なりで、丸1年で旅館の経営は上向いた。私の人生も変わった。鴻池学校をつくる上で必要な「行政手続き」や「広告マーケ」「集客デザイン」のスキルが身に付き、強化された。本を読み漁り、居酒屋で知った風な口を聞くことしかできなかった1年前。今は、現場で経験を積み、信頼や人を集めるしくみについて「現実で戦う術」を学ばせてもらっている。
毎週必ず、旅館にいくこと
やったことは、これだけ
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