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【第604回】フリーランス法施行!どう変わる?クリエイターは守られるのか?著作権は?生成AIとの関係は!?(2024/11/20) #山田太郎のさんちゃんねる #表現の自由 【文字起こし】

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発言者:
(山田さん) 山田太郎 参議院議員
(小山さん) 小山紘一 政策秘書・弁護士


今日の内容

(山田さん)
はい、始まりました「山田太郎のさんちゃんねる」です。今日はフリーランス新法が施行されたということで、実際に法律がどのように変わるのか、それがしっかりクリエイターを守れるのかについてお話ししたいと思います。

また、多くの方が気にされている「AIと著作権」の問題。フリーランスの方々の著作権がAIによって侵害されているのではないか、という声も上がっています。このあたりも含めて、今日はしっかり掘り下げていきたいと思っています。

さて、まずはお知らせです。本日からインスタグラムを始めました!「今更かよ」と言われるかもしれませんが、ぜひチェックしてみてください。

(山田さん)
これまで「さんちゃんねる」だけでは、私の事務所の活動が十分に伝わりにくいという声もいただいていました。そこで、政策や活動の裏話など、別の角度からわかりやすく情報を発信していこうと思います。まだ始めたばかりですが、これからどんどん投稿していきますので、ぜひフォローして応援よろしくお願いします!

今週の山田太郎

(山田さん)
今週は半導体議連の「ラピダス議連」がありました。この半導体関連の議連は、自民党の甘利さんが長年引っ張ってきましたが、今回残念ながら落選されました。

そのため、新たな会長を立て、体制を再編し、私自身もラピダス議連の役員に就任しましたが、現状のラピダスの仕組みが必ずしも最良とは思っていません。この点についてもしっかり対応していきたいと思っています。

また、女子差別撤廃条約の最終見解についても取りまとめがありました。この件に関してレクチャーを受けましたので、今後どこかで詳しく皆さんに説明したいと思っています。現時点では、大きな問題は起きていませんが、油断は禁物、このまましっかり取り組んでいきます。

さらに、インボイス制度について。この制度にはさまざまな弊害があり、きちんと対応しなければ課題が山積みです。そのため、しっかりと準備を進める必要があります。

また、フリーランスリーグという団体の会合にも参加しました。この団体はフリーランスを代表して活動しており、私も発言の機会をいただきました。今日取り上げているフリーランス新法に関しても、フリーランスリーグの要望や質問を受け、それを基に構成しています。この新法のポイントを皆さんにお伝えし、課題解決に向けて取り組んでいきたいと思っています。

日本フリーランスリーグによる意識調査

(山田さん)
日本フリーランスリーグさんによる意識調査の結果見ていきたいと思います。フリーランスリーグではさまざまな質問を行っていますが、今回の調査の特徴としては、イラストレーターや漫画家だけでなく、俳優、声優、ダンサーといった「実演者」と呼ばれる方々の回答も含まれている点です。

(山田さん)
調査では、契約書に含めるべき条件として「キャンセルフィーの設定」が最も多く挙げられています。次に多かったのが、著作権や著作隣接権に関する問題です。これらの権利に関して、もっとしっかり対応してほしいという声が非常に多くありました。

また、著作権、著作隣接権、さらには著作者人格権について問題視している人が非常に多いことも明らかになりました。本日は、これらの課題について深掘りしてお話ししたいと思います。

(山田さん)
次に、1日あたりの労働時間についてですが、8時間以下に制限してほしいという要望が多く寄せられています。また、1本の仕事に対する報酬についても、超過分の支払いがないというケースが多く報告されており、こうした問題の解決が必要です。

(山田さん)
さらに、契約条件として「超過した場合の割増率」に関して、25%程度が妥当だという回答が多いことが分かりました。また、完全休日の基準値については、1カ月あたり8日程度を認めるべきだという意見が目立っています。

(山田さん)
次に、キャンセルフィーの問題です。キャンセルフィーはしっかりと支払ってほしいという意見が多くありました。さらに、リテイク(修正作業)の回数についても課題があります。2回から3回程度が上限とされるべきだという声が多い中、ひどい場合には6回以上もリテイクを求められるケースがあり、これには多くの人が不満を感じています。

(山田さん)
また、「ホールドフィー」の問題も挙げられています。これは、コンペティションにおいて作品を提供した際に、すぐに採用されないにもかかわらず「他で使うな」と制約されることを指します。このホールドフィーを「そもそも許せない」という意見が多く寄せられました。

それと「買取請求」ですが、これを認めてしまうと報酬が一度きりになってしまうという問題があります。このため、買取請求自体を認められないという声が多いです。また、仮に買取請求を認める場合でも、通常の3倍程度の金額を支払ってほしいという意見が多く寄せられています。

(山田さん)
「著作者人格権」についても触れておきます。著作権や著作隣接権、著作者人格権は非常に複雑な概念です。たとえば、「同一性保持権」や「作者名の表示義務」といった、作家の権利を守るための重要な要素があります。しかし、契約の中で「著作者人格権の不行使」を求められるケースが多く、これに対して反対の声が多く挙がっています。

また、国際標準に基づく対等な契約を求める中で、特に「キャンセルフィー」の設定が注目されています。この点についても改善が求められているようです。

(山田さん)
次に、自由回答の中から注目すべき意見をご紹介します。たとえば、「生成AI」など技術革新への対応に関して、18%の人が負担を感じており、契約での対応を求めています。この生成AIに関する問題は、皆さんも非常に関心が高いのではないでしょうか。

フリーランスやクリエイターが一生懸命作り上げた作品が、生成系AIに無断で使用されるケースが報告されています。また、著作権や著作者人格権、隣接権が十分に守られていないと感じる人が15%もいることが分かりました。

フリーランス新法とは

(山田さん)
それではフリーランス新法について説明します。この法律は、11月1日から施行されました。フリーランス新法とは何かというと、公正取引委員会と中小企業庁が一生懸命宣伝しています。今日はその宣伝資料を活用しながら、わかりやすく解説していきます。

(小山さん)
武尊さんという方を起用し、イラストを使って説明している特設サイトが開設されています。このサイトは非常にわかりやすいので、フリーランスの方や、フリーランスに発注する事業者の方にはぜひ一度ご覧いただきたいと思います。

(山田さん)
今回のフリーランス新法の目的は、フリーランスの「取引の適正化」と「就業環境の整備」です。この法律で保護される「フリーランス」とは何かという点ですが、基本的に一人で活動しており、従業員を雇っていない人が対象となります。

(小山さん)
重要なのは、「業務委託を受けている人」が法律上のフリーランスとして定義される点です。一方で、ネットで写真を販売している場合など、業務委託に該当しない場合は、この法律の適用外となります。

(小山さん)
例えば、消費者から依頼を受けて写真を撮影したり、その写真をネットで販売する場合はこの法律の対象にはなりません。

(山田さん)
それでは、今回のフリーランス新法で義務化された内容について説明します。ポイントとなるのは7つの項目です。当たり前のことが多いと言えばそうですが、重要な取り決めが盛り込まれています。

(山田さん)
まず、「取引条件をきちんと書面で決めましょう」ということが義務化されました。また、「報酬支払いの期日を明確に設定し、期日内に支払う」ことも規定されています。具体的には、発注した物品を受け取った日から60日以内のできるだけ早い日に報酬を支払わなければなりません。これにより、支払いの遅延や未払いといった問題が改善されることが期待されています。

次に、「禁止行為」についてです。受領の拒否や報酬の減額、返品、買いたたきといった行為が禁止されました。また、「募集情報の的確表示」ということで、虚偽の表示をしない、情報が変更された場合には最新の内容に更新しなければならないといったルールが設けられています。

今回の改正で特に革新的だったのが、「育児介護等と業務の両立に対する配慮」が盛り込まれた点です。これは6カ月以上の契約期間が対象ですが、育児や介護を必要とする場合、発注者が配慮する義務があります。さらに、「ハラスメント対応に係る体制整備」や、「中途解約等の事前予告・理由開示」も義務化されました。

こうした取り決めは、取引において当たり前のことを守りましょう、という法律の骨子を示しています。

(小山さん)
確かに当たり前の内容に見えますが、法律の大原則に照らし合わせると意義深いものです。日本の民法では、口約束でも意思表示が一致すれば契約は成立するとされています。しかし、現実には力関係の偏りが問題となる場合があります。

たとえば、労働法では、使用者と労働者の力関係を是正するための規制が設けられています。同様に、独占禁止法から派生した下請法の流れを受けて、今回フリーランスにも類似の規制が課されました。

これは契約自由の原則から見れば例外的な位置づけですが、現代では「これくらいは当たり前」という認識が広がっています。こうしてフリーランス新法の義務内容が整理され、法律として明文化されたわけです。

(山田さん)
フリーランス新法と下請法の違いについて少し整理しておきたいと思います。基本的には、フリーランス新法は下請法にほぼ準じた内容と考えてもらえれば良いと思います。

(山田さん)
ただし、今回のフリーランス新法では、人を雇わずに一人で活動している場合が対象で、複数人で業務を行っている場合には適用されません。この点でカバーしきれない部分があるため、下請法自体の存在意義は引き続き重要です。

しかし、下請法は発注者の資本金が1000万円を超えないと適用されないという制約があります。このため、資本金を意図的に1000万円以下に抑える企業もあるという問題が指摘されています。こうした点については、今後見直しが必要だと考えています。

(山田さん)
禁止行為に関しては、フリーランス新法と下請法の内容はほぼ同じです。私は当初から下請法の見直しを積極的に進めてきましたが、フリーランス新法としてまとまったことは非常に良かったと思っています。さらに、今回のフリーランス新法では、下請法にはなかった「就業環境の整備」という新たな考え方が盛り込まれています。

(小山さん)
この「就業環境の整備」が加わった点は、画期的と言えるでしょう。フリーランスは労働者に非常に近い側面があるため、これまでの法整備ではカバーしきれなかった部分が補われました。

たとえば、妊娠・出産・育児・介護への配慮や、ハラスメント行為への対策などが含まれています。これらは労働法で進められてきた保護に準拠する形で、フリーランスにも適用されるようになったのです。このように、労働者とフリーランス双方を守るための大きな一歩となった法律だと言えるでしょう。

(山田さん)
さて、フリーランス新法のポイントを簡単にまとめた資料がありますので、これを見ながら説明していきます。主な内容としては以下の七つです。

書面などによる取引条件の明示
報酬支払期日の設定と期日内の支払い
7つの禁止行為(上記紹介済みのもの)
募集情報の的確表示
育児・介護等と業務の両立に対する配慮
ハラスメント対策に関する体制整備
中途解約時の事前予告と理由開示

(山田さん)
これらは、フリーランスが業務委託を受けている場合に適用されます。ただし、フリーランスが従業員を使用しているかどうかや、業務委託の期間によって適用範囲が異なる点に注意が必要です。

(山田さん)
業務委託期間が1カ月未満の場合、適用される規制は少なくなります。一方で、1カ月以上6カ月未満の場合は、禁止行為に関する規定が適用されます。そして、6カ月以上になるとさらに「育児・介護等の業務の両立への配慮」も必要になります。このように、業務委託期間に応じて適用される内容が異なるため、ポイントをしっかり押さえておくことが重要です。

(山田さん)
今回のフリーランス新法では、これらの規定を守るためにチェックシート形式で確認する仕組みも提案されています。たとえば、「納品物の受領を拒否したことがある」「報酬を支払う際に手数料を差し引いて支払ったことがある」「一度受け取ったものを返品したことがある」など、具体的なケースが挙げられています。こうした行為は、今後フリーランス新法に抵触する可能性があるので注意が必要です。

(小山さん)
このチェックシートに1つでも該当する項目があると、実はかなりまずい状況です。この点を念頭に、取引条件を見直していくことが求められます。

(山田さん)
さて、次はクイズ形式でフリーランス新法に関するケースを考えてみましょう。「次の行為は適切かどうか?」を判断してみてください。

発注を受けた際、依頼内容と報酬内容を丁寧に電話だけで伝えられた。
従業員を雇っておらず、自宅を店舗にしてアクセサリーを自分で販売している。これはフリーランスに該当するか?
納品後90日後に報酬の入金があった。
1年以上の業務を受託していたが、発注者の都合で10日後に契約を解除すると口頭で告げられた。
話し合いの結果、発注時に決めていた報酬額が減額された。

(小山さん)
答えは全て「いいえ」です。

(小山さん)
ただし、5番目の「報酬の減額」に関しては補足があります。フリーランスの責任による理由がない限り、たとえ報酬の減額について事前に合意があったとしても、それだけで減額が許されるわけではありません。ガイドラインでも明示されている通り、フリーランスの側に責任がない場合、報酬の減額はフリーランス新法に違反します。

(山田さん)
取引に不審な点がある場合は「フリーランス新法」に違反している可能性があります。この場合、相談や申し入れができる窓口が設けられています。「フリーランス110番」という窓口もあります。

(※この画像をクリックしてもページに移動しません)

(小山さん)
「フリーランス110番」は、山田さんが2019年に再選した際、自民党内で「フリーランスの保護がないのはおかしい」と盛り上がった結果として設置されたものです。フリーランス新法ができる以前から活動している窓口ですが、現在も相談を受け付けています。行政はフリーランスを守るための仕組みを整えていますので、ぜひ活用してください。

(山田さん)
申し入れが行われた場合、行政はフリーランス新法違反と判断すると指導を行います。それでも改善が見られない場合には、最終的には罰金50万円が課されることもあります。

(小山さん)
行政指導に従わない場合は、行政処分が行われ、それでもなお従わない場合には刑事罰として罰金が科されます。

(山田さん)
今回、フリーランスを守るための仕組みがかなり整備されたのではないかと思っています。特に、文化芸術活動に関する法律相談窓口が設置され、AIと著作権に関する相談やインボイス制度についても対応が可能となりました。

(小山さん)
文化庁は、フリーランスとして活動するクリエイターやアーティストの相談にも対応しており、特にAIと著作権に関する問い合わせが多いようです。こうした取り組みは、フリーランス新法の普及に向けた前向きな姿勢を示していると思います。

(山田さん)
ぜひ、この窓口を必要な方に活用してもらいたいと思います。

(小山さん)
相談内容の具体例として、次のような質問があります。

(小山さん)
●現金以外で報酬の支払いを打診されましたが、どう対応すればよいですか?
●業務委託の定義について、自分の行為が該当するか知りたいです。
●発注者がフリーランスに対して行ってはならない禁止行為にはどのようなものがありますか?
●納品から報酬支払いまでの期日はどう考えるべきですか?

これらについては、それぞれ回答が用意されています。たとえば、現金以外での支払いは、公取委のホームページでも「報酬はできる限り現金で」とされていますが、実際にはPayPayや現物、手形なども含まれます。

(小山さん)
ただし、フリーランス新法では「割引困難手形の交付禁止」という規定はありません。そのため、手形による支払いも可能ではありますが、あくまで「60日以内に支払う義務」があるため、結果として違反に該当します。

また、書面で契約条件を明示する際に「どのように支払われるか」を記載する必要があり、この点も注意が求められます。

(小山さん)
フリーランス新法が施行されてからまだ1カ月も経っていません。そのため、今日もさまざまな省庁に「どのような相談事例が寄せられていますか?」「申告違反の申し出はありますか?」と確認しましたが、現在のところ「いくつか事例はあるが、まだ集計はできていない」という回答でした。

ただし、フリーランス新法はほとんど下請法の禁止行為を参考にしています。そこで、今年に入ってからの下請法に関する事例の中から、特に参考になる3つをご紹介します。

(山田さん)
これらは下請法の違反事例ですが、フリーランス新法においても、同様の行為が違反であることを明確にし、適切に対応していくことが重要です。フリーランス新法が、こうした問題を改善するためにしっかりと機能することを期待したいと思います。

フリーランスと著作権(俳優・声優・ダンサー等)

(山田さん)
さて、今日のテーマの中でも特に重要なのは「フリーランスと著作権」の問題です。俳優、声優、ダンサーなどの方々に関する著作権の扱いについて、多くの方が関心を寄せていると思います。

本当にフリーランス新法でクリエイターを守ることができるのか、この点を詳しく掘り下げていきたいと思います。少し難しい内容になりますが、丁寧に解説していきますのでお付き合いください。

(山田さん)
まず、俳優や声優、ダンサーの出演映像と著作権法の関係についてですが、結論から言うと、これらの出演映像は「映画の著作物」として、著作権による保護を受けることになります。

(小山さん)
法律では必ずしも断言が難しいケースもありますが、一般的にはそう考えて問題ありません。なお、今回は「実演そのもの」についてではなく、2次使用料や2次利用料に関する話が含まれています。たとえば、パフォーマンスが映像化され、その映像がさらに使用される場合などが前提となっています。この点を踏まえてお話を進めていきます。

(山田さん)
俳優、声優、ダンサーなどの方々について、脚本を演じていない場合でも、その行為が「芸能的な性質」を有する場合には、実演家として著作権法による保護を受けることになります。

ここで重要なのは、「実演家」という立場がどのようなものかを理解することですので、この点を整理してお話ししたいと思います。

(山田さん)
たとえば、映画においては、映画監督や映画製作者、そして俳優などが関わっています。この場合、映画監督は著作者人格権を有していますが、著作権自体は持っていません(※ただし、監督が映画製作者も兼ねている場合を除きます)。

著作権は映画製作者、つまり多くの場合は制作会社が保有することになります。このように、映画に関する権利の整理は非常に複雑です。

(小山さん)
日本では、映画監督が著作権を持てないのが一般的です。映画製作者が会社である場合、その会社が映画の著作権を持つことになります。ただし、映画監督が同時に製作者である場合は、監督が著作権を持つこともあります。この点が非常にややこしい部分です。

(山田さん)
一方で、俳優や声優などのクリエイター、つまり実演家にはどのような権利があるのでしょうか。これらの方々は、実演家として「著作隣接権」を有しています。

(山田さん)
著作隣接権とは、著作権ではないものの、実演家の権利として財産権の一部を成すものです。さらに、実演家には「実演家人格権」という権利もあります。

著作権法では、以下のように整理されています

1.著作権
 ●
著作物に関する権利で、著作者の経済的利益を守るもの。

2.著作者人格権
 
●著作者が自らの人格的利益を保護するための権利。たとえば、著作物の改変を防ぐ権利など。

3.著作隣接権
 ●
実演家や録音・録画制作者、放送事業者などが持つ権利。具体的には、実演家が自身の演技やパフォーマンスに関して持つ権利を指します。

4.実演家人格権
 ●
実演家が持つ人格的権利。たとえば、自分の演技が勝手に改変されないようにする権利など。

(山田さん)
これらの権利については非常にわかりにくい部分が多いですが、フリーランス新法がこうした実演家の権利をどのように守るのかについても、しっかり説明していきたいと思います。

(小山さん)
著作権法の目的は文化の発展を促進することにあります。そのためには創作的な表現が増えることが重要であり、著作物の創作者、つまり著作物を実際に作った人が著作者として著作権を持つことが基本です。一方で、演じる人たちは、著作物を演じているという立場にあります。

(山田さん)
演じる人たちは、実際に著作物を作ったわけではありませんが、その内容を伝える役割を果たしています。この違いが重要です。たとえば音楽では、作詞家や作曲家が創作者として著作権を持ちますが、演奏者は著作権を持たないという関係です。

(小山さん)
映画の場合も同様で、映画監督が創作者であり著作者とされます。ただし、著作権は制作会社に集約されるのが一般的です。この仕組みは政策的に決められているため、映画監督が必ずしも著作権を持てるわけではありません。

(山田さん)
では、実演家の権利について考えてみましょう。実演家は「著作隣接権」を持ちます。この権利は「ワンチャンス主義」と呼ばれる仕組みに基づいて運用されています。

実演家には次の2種類の権利があります

1.実演家人格権
 ●
氏名表示権(名前を表示するかどうかの権利)
 ●同一性保持権(実演内容を改変されない権利)
ただし、これらの権利は著作者人格権と比べると制約が多く、保護範囲が限定されています。

2.著作隣接権
 ●
録音権や録画権、自身の実演を放送・配信する権利などが含まれます。
ただし、映画の実演に関しては「ワンチャンス主義」が適用されます。

(山田さん)
「ワンチャンス主義」とは、実演家が自身の実演を映画の著作物に録音・録画することを一度許諾すると、その後複製されたり、配信されたりしても追加の権利主張ができない仕組みです。

たとえば、映画がDVDやブルーレイに複製される場合や、テレビ放送やインターネット配信で再利用される場合でも、実演家は追加の権利を主張する機会がありません。

ただし、最初の段階で契約を結び、「配信や他の利用に関する取り決め」を明記していれば、その内容が優先されます。このため、実演家が自身の権利を守るには、最初の契約で詳細を取り決めておくことが非常に重要です。

実演家には権利があるものの、著作隣接権としての制約が多い点に注意が必要です。ワンチャンス主義の仕組みを理解し、契約内容を慎重に確認することが求められます。

(小山さん)
中山信弘先生の著作権法(第4版)に書かれている内容について少し触れます。中山先生は、日本を代表する著作権法の学者ですが、その著作隣接権に関する記述には、「著作隣接権は契約では対処できない利用形態を規制すれば足りる」という理念が示されています。

ワンチャンス主義については、著作権法上の規定が「任意規定」である点が重要です。任意規定とは、契約で異なる取り決めをしても構わないというものです。

つまり、ワンチャンス主義があるからといって、それ以降の収益を受け取れないわけではありません。契約でしっかりと別の定めをしておけば、その後の配信やDVD化の際に対価を得ることが可能です。

しかし、契約で何も定めていなければ、ワンチャンス主義が適用され、追加の収益を請求することはできません。そのため、実演家の方々は、録音や録画の段階で契約内容をきちんと確認し、権利を主張しておく必要があります。作品がヒットして多額の収益が生まれても、最初の契約が不十分であれば、追加の報酬を受け取ることはできません。

(山田さん)
ですので今回、フリーランス新法が成立しましたが、実演家の権利を守るには、著作権の考え方自体を見直す必要があります。特に、ワンチャンス主義に縛られず、複数回の使用に対して適切な対価を受け取れるよう、最初の交渉が非常に重要です。

(小山さん)
フリーランスの方々からも、著作権や著作者人格権についての不安や懸念が多く寄せられています。フリーランスリーグの意識調査でも、著作権に関する問題意識が多く挙がっていました。我々の事務所にも、「フリーランスの著作権が十分に守られていないのでは?」という相談が寄せられています。

フリーランス新法そのものには著作権の直接的な規定はありません。ただし、買いたたきの禁止や不当な権利の提供強制が著作権の取り扱いと関係する場合もあると記されています。また、著作権の移転に対する対価が発生する場合には、その内容を契約で明示する必要があるとされています。

今回のフリーランス新法は、手続き面で著作権にも一定の配慮がされていると考えられます。契約を結ぶ際には、これらのガイドラインを意識していただきたいです。

(山田さん)
ワンチャンス主義についてですが、「ワンチャン過ぎてとんでもない」と感じる方もいると思います。ただ、この仕組みがなぜ作られたのか、その背景を理解することも重要です。

(山田さん)
ワンチャンス主義とは、1回録音や録画を許諾すると、その後の2次利用について権利主張ができないというルールです。これは、映画製作者などがその後の権利を集中管理できるようにするために作られました。権利が分散してしまうと、作品の流通がスムーズに進まなくなる恐れがあるからです。

たとえば、映画に複数の実演家が関わっている場合、10人、20人といる中で1人でも反対すれば作品を流せないという事態になる可能性があります。こうした問題を避けるため、ワンチャンス主義の仕組みが設けられました。

ただし、この仕組みはクリエイターにとって不利な面もあります。自分の権利を守るためには、対価の設定や許諾権の留保について、最初の段階でしっかり交渉することが求められ、これを怠ると、後々収益を受け取る機会を逃してしまう可能性があります。

デジタル時代では特にこの問題が顕著です。コピーや配信が容易になった現在、一度演じた作品が次々と配信されることがあります。無名だった俳優や声優がその後有名になり、作品が大ヒットしても、契約が不十分だと収益が得られない状況になることもあります。このような事態を防ぐためには、著作権や権利に関する教育をしっかり受け、適切に対処することが大切です。

最終的に、どのような取り決めが最適かはケースバイケースですが、自分の権利を理解し、必要な交渉を行うことで、クリエイターとしての利益を守ることができるはずです。この点をしっかり認識して対応していきましょう。

(小山さん)
次に、2次利用料が支払われているのかどうかについてお話しします。フリーランスリーグの調査では、俳優、声優、ダンサーなどの実演家が取り上げられました。この中で、声優に関しては2次利用料が支払われているという現状があります。ただし、これは全ての声優に適用されるわけではありません。

(小山さん)
日俳連(日本俳優連合)に所属する声優の場合、音声の2次利用料は、日俳連が示した出演ルールに基づいて運用されています。このルールは、音声業界の4団体(日俳連、日本音声製作者連盟、日本芸能マネージメント事業者協会、日本声優事業者会協議会)が厳格に管理しており、分配の仕組みがしっかり確立されています。

一方で、映像の2次利用料については、俳優の多くが受け取れていないのが現状です。たとえば、浅野忠信さんがコロナ禍の際に「今まで参加した作品の二次利用料とか俳優ももらえるといいのになあ」とツイートしていました。この発言から、浅野さん自身や多くの俳優が受け取れていない現状がうかがえます。

映像業界では、交渉力の強い一部の俳優が2次利用料を受け取るケースもありますが、全体としては声優業界のようにシステマティックな仕組みは整備されていません。音声業界では過去に声優たちがストライキや裁判を通じて権利を勝ち取った歴史があり、その結果として現在のルールが運用されているという背景があります。

(山田さん)
この点を理解していただきたいのは、声に関する権利が一定の成果を上げている例もあるということです。私も党内で、声や実演家の権利について、何らかの形で対価を還元できる仕組みを議論しています。声優業界の団体が勝ち取った成果は、権利保護の一つの成功例として注目すべきだと思います。

(小山さん)
これは「外画動画出演実務運用表」というもので、声優業界における出演条件が定められています。この運用表は中小企業等協同組合法による団体協約に基づいており、独占禁止法の例外規定が適用されています。

特に注目すべきは、「日俳連(日本俳優連合)組合員は、本運用表の出演条件を下回って出演しない」と明記されている点です。このように拘束力のある規定が含まれており、独禁法上どうなのかという議論も起こりそうですが、団体協約には独禁法が適用されないため、こうした規定が可能となっています。

(小山さん)
さらに、運用表の中には、「初期目的以外に作品を利用する場合、音声制作会社は転用料を発注元または利用者から受け取り、出演者に支払う」という具体的なルールも記されています。このように、声優業界では契約書や運用表に基づいて権利が管理され、実務が進められています。

さん)ただし、2次利用料がある仕組みが必ずしも最善とは限りません。契約はあくまで交渉ごとであり、2次利用料が支払われる場合、初期の出演料が安く抑えられることが一般的です。

たとえば、長期的に収益が見込める場合は、初期の出演料を低くしても構わないという判断もあります。一方で、作品がヒットするかどうか分からない場合、最初に受け取る金額が少ないと困るため、「2次利用料は不要だから最初に多く支払ってほしい」という交渉も十分にあり得ます。

最も難しいのは、「最初にたくさんお金をください。そしてヒットしたらまた支払ってください」という条件を交渉することです。これが可能な場合もありますが、制作会社側の経済状況が厳しい場合、受け入れられないことも多いです。そのため、契約内容の「落としどころ」を見つけることが重要になります。

1人で交渉するのが難しい場合、声優業界のように団体を組織して取り組むのも有効な手段です。契約金額までを国の法令で決めるのは非常に難しい面があります。このため、個人での交渉力を強化するだけでなく、業界全体での取り組みも求められるでしょう。

(山田さん)
「日本アニメーション・音響映像訴訟」という裁判がありました。これは声優さんたちが最高裁まで争い、勝訴したケースです。

(小山さん)
この裁判は、TVアニメーションがビデオ化された際に、声優にもビデオ化使用料を支払うという音声業界のルールに基づくものでした。しかし、使用料が支払われなかったため、声優381人が原告となり、最終的に360人が債権者として認定されました。

争点は、中小企業等協同組合法に基づく団体協約として締結された「アニメ協定覚書」に添付された出演実務運用表の有効性でした。東京地裁は、音響映像会社に対する請求を全面的に認め、日本アニメーションに対しては技術的な理由で却下しました(棄却ではありません)。

その後、声優側が主張を補足して控訴し、高裁では両社に対してビデオ化使用料の支払いを命じる判決を得ました。最高裁では、被告の上告が棄却され、最終的に声優側が勝訴しました。この裁判では、360人がまとまって訴訟を起こし、大きな成果を勝ち取ったという事例です。

(山田さん)
こうした実演家の権利に関する議論が現在進んでいるわけですが、これらの流れをしっかりと理解し、今後どのように権利を守っていくべきかを考えていく必要があります。

生成系AIをめぐる問題 AIと知的財産権

(山田さん)
もう一つ重要なテーマとして、「AIと知的財産権」の問題があります。この話題は、多くの方が非常に関心を持っているところだと思います。「AIはけしからん」「著作権法に違反しているのではないか」「自分の作品が無断で使われている」というクリエイターからの怒りの声も多く聞かれます。

特に、生成系AIを巡る問題について、私たちの事務所でも、AI開発における学習データの扱いについて検討し、整理を行いました。具体的には、次のような流れが問題とされています。

1.AIの学習段階
 ●
著作物を学習データとして使用。
 ●この段階で、学習データが著作権を侵害しているのではないかという指摘。

2.AIの生成段階
 ●
プロンプトを入力することで、学習済みモデルから生成物が出力される。
 ●生成物が既存の著作物と類似している、または同一である場合の問題。

(山田さん)
こうした流れが、「AIがクリエイターを破壊してしまうのではないか」という厳しい指摘や懸念を生んでいます。この点については、文化庁でも整理が行われました。

(山田さん)
結論として、文化庁の整理は非常に踏み込んだものとなっています。私も著作権課と議論を重ねました、この問題について確認しましょう。ポイントは「学習段階」にあります。この段階で、多くの方が誤解をしている点があるようです。

(山田さん)
たとえば、「新海誠風の作品を作ることを目的として、そのスタイルに特化したデータを集めて学習させる」場合、これはアウトです。初めから享受目的(特定の著作物やスタイルを意図して利用する目的)を持ってデータを収集することは、認められません。たとえ他の学習データと享受目的が併存していても違反とみなされます。

(小山さん)
文化庁のガイドラインでは、「もっぱら享受目的を持たない」ことが学習段階の前提条件となっています。たとえ「こういう作品が出てきたらいいな」と思っていたとしても、それが享受目的に該当する場合、アウトになる可能性があります。

学習の結果としてパラメータ化が行われ、データそのものが復元できない状態であれば、非享受目的を満たしているとされます。しかし、そもそも享受目的が存在していたとみなされる場合、この条件は満たされません。文化庁も非常に厳格な判定を行う方針を示しています。

(山田さん)
もう一つ重要なのは、著作権法の30条の4についてです。この条文に関しては、世間で誤解されているケースが多いようです。そもそも、30条の4に関係なく、「享受目的」か「非享受目的」かというのは、著作権法の大前提として存在しています。

(小山さん)
確かに、複製に関する話が絡むと少し複雑になりますが、基本的に著作物の利用には21条以下で細かく規定された支分権があります。「享受しない」というのは、著作権を利用していないと解釈される場合もあります。この点をどう考えるかが議論のポイントです。

(山田さん)
30条の4について正確に理解していただきたいのですが、この条文は「非享受目的」の要件を厳しく問うためのものです。一部で「30条の4があるから自由に使える」と勘違いしている方がいますが、それは誤解です。

条文には、非享受目的を満たさないものが制限されることが明記されています。特定のクリエイターの作品のみを学習させて享受目的があると評価される場合は、これは違反となります。

例えば、オンラインで提供されるデータを解析用に利用するために整理したデータベースを販売しようとする場合、その複製も30条の4が適用されません。さらに、海賊版のような侵害コンテンツについては、そもそも利用自体が許されません。

(小山さん)
海賊版と知りながら利用した場合、事業者が著作権侵害の主体として責任を問われる可能性が高くなります。

(山田さん)
まとめると、学習段階において「享受目的」や「非享受目的」が問われるだけでなく、それらが併存する場合も違反とされます。この点では、結果としてどういった利用が想定されているのかが厳しく問われることになります。

次に、生成利用段階における問題についてです。AIが生成した作品が既存の著作物に「似ている」場合、依拠性が問われます。つまり、その生成物が元の著作物に依拠して作られたものか、単に偶然似てしまったのか、ここが大きな論点になります。

(山田さん)
今回の整理で画期的だったのは、AIによって生成された作品が元の著作物と類似している場合、それをもとに作られた可能性(依拠性)が「推認される」という点が明確化されたことです。

従来は、単に「似ている」だけでは依拠性を立証するのが困難でしたが、今回の整理では類似性がある生成物について、依拠性があると推認する立場が取られました。

さらに重要なのは、立証責任の所在についてです。これまで、依拠性があるかどうかを侵害を主張する側が証明しなければなりませんでした。しかし今回、類似性のある生成物を出力したAI利用者が、依拠性を否定するための証明を行う必要がある、という考えが示されました。

さらに、AIを使って生成物を作成した場合、その侵害物については生成者(利用者)が責任を負うだけでなく、AIの学習データやモデルを提供した事業者も、著作権侵害の主体として責任を問われる場合があります。

特に、多数の侵害を看過した事業者には責任が及ぶ可能性が高いとされています。この点についても、侵害防止策を講じることが必要であると明記されています。

日本では、依拠性を類似性から推認する立場を取るなど、クリエイター側に寄り添った解釈が採用されています。アメリカやヨーロッパでも依拠性に関する議論は行われていますが、日本のように類似性を基に推認する仕組みは非常に先進的で、世界的に見ても革新的です。

にも拘わらず、日本は30条の4があるから「AI天国」だと誤解されることもあるようです。しかし、実際には文化庁や知財部門で慎重に議論が進められ、依拠性や侵害防止策についても厳格な基準が設けられています。この点を正しく理解し、リスク軽減のために適切な措置を講じることが求められます。

(小山さん)
この問題は非常に難しく、理解するのも大変だと思います。私も最近アメリカやヨーロッパを回り、AI事業者や関係者とさまざまな話をしてきました。その中で、日本のAI事業者ほど著作権や個人情報をしっかり守っているところはほとんどないという印象を受けました。

日本の事業者は「これもやりません、あれもできません」と非常に慎重です。一方、海外の事業者(具体的な社名は控えますが)は、たとえばアメリカでは「転がっているものはフェアユースで問題ない」というスタンスだったり、ヨーロッパでは「学術研究目的なら何でもやる」という態度だったりします。その結果、海外では日本のコンテンツも含めて自由に利用されていることが多いです。

一方で、日本の30条の4があるからといって、機械学習が自由に進められる環境かというと、実際にはそうなっていません。日本の事業者は非常に慎重に運営しており、明確に許可されている範囲でも対応しないケースが多いです。この結果、日本の生成AIの発展が遅れてしまう可能性があるという懸念が出ています。

この状況を改善するためには、権利者の権利をしっかり守りつつ、適切な権利制限規定を運用するバランスが必要です。権利を侵害する利用は当然認められませんが、すべての著作物の利用を禁止するというのも行き過ぎです。

正当な権利が侵害されないように配慮しながら、どこまで利用を認めるべきか、日本のAI事業者が安心して機械学習を行える環境を整備しつつ、クリエイターや権利者の権利を守るためのバランスを取ることが、今後の課題となるでしょう。

(山田さん)
生成系AIに関するガイドラインについて、権利者や事業者からさまざまなコメントが寄せられています。それを整理して確認しておきたいと思います。

(山田さん)
まず、新聞協会は権利者として生成系AIに対し厳しい反対姿勢を取っています。「新聞が勝手に使われている」との主張があり、権利の適正な保護に向けた一歩前進として今回のガイドラインを評価しています。

一方、新経連(新経済連盟)は事業者の立場から、「クリエイターの懸念を考慮しつつ、事業者が配慮すべきリスクを整理している点」を評価しています。しかし、生成系AIが活用しづらい現状について「もっと厳しくてもいいから、明確に決めてほしい」との要望もあるようです。

(山田さん)
ディープラーニング関係の事業者からは逆の意見が出ています。権利者が現行著作権法を拡大解釈している点を強く懸念しており、ガイドラインに対して批判的です。「活用の自由をもっと認めてほしい」という声が中心です。

(山田さん)
学習段階に関しては、学術著作権協会は、享受目的が併存する場合の具体例として、追加学習やRAG(Retrieval-Augmented Generation)を挙げており、この整理を評価しています。「享受目的か非享受目的かを明確に分けられないケースもある」との意見が一定の支持を得ています。

また、雑誌協会や出版業界は、「将来的な販売目的で著作物を集積していると推認される場合には、権利制限の対象とならない」というガイドラインを評価しています。

日本知的財産協会は「作風」という表現に関する意見を出しています。特に「何とか風」といった表現が著作権に当たるかどうかについて、アイディアレベルで共通するだけでは権利侵害に該当しないと明記すべきだとしています。「作風」という概念が曖昧であるため、明確に定義してほしいとの要望もあります。

(山田さん)
日本音楽著作権協会(JASRAC)は、作風が類似するAI生成物が大量に作られることで、特定のクリエイターの著作物が代替されてしまうリスクを指摘しています。このような場合、著作権者の利益を不当に害することになり、著作権侵害に該当するとしています。この問題は非常に難しい課題です。

(小山さん)
JASRACさんの見解ですが、出力段階で特定のクリエイターや著作物の需要が生成AIにより代替されてしまう場合、学習段階自体が問題視されるべきだという意見を持っています。つまり、「学習段階に遡って問題がある場合、そこをしっかり検討してほしい」という立場です。

文化庁の見解では、30条の4は学習段階にしか適用されませんが、生成段階についてはこれまで通り、依拠性や類似性がある場合に著作権侵害と判断される可能性がありますが、JASRACの意見は、生成AIの学習段階から禁止すべきとの立場といえます。

(山田さん)
海賊版に関しては、日本映像ソフト協会が「海賊版と知りながら利用する行為を明確に禁止するべきだ」との意見を出しています。

(山田さん)
また、利用段階での責任について、電子情報技術産業協会は「プロンプトを入力するAI利用者が一次的な責任主体であることを明確化すべき」と提案しています。この責任の所在を明確にすることで、利用者が主体的にルールを守る仕組みを作ろうとしています。

ソフトバンクの意見では、技術的な措置が取られている場合、その事実を反証することで責任を免れるのか、または具体的な結果責任を負うのかが不明瞭であると指摘されていて、事業者が過剰な責任を負わない仕組みを求めています。

(山田さん)
生成物の著作物性については、BSA(The Software Alliance)の意見があります。生成AIで作られた作品の著作物性を否定する立場が基本ですが、創造性のある部分については保護の対象となる可能性があると述べています。つまり、人がツールを使って創造的な成果を生み出した場合、その部分は著作権で保護され得るという立場です。

対価還元に関する議論では、日本漫画家協会が「クリエイターへの適切な対価還元制度を構築する必要がある」と訴えています。生成AIの利用により発生する収益の一部をクリエイターに還元する仕組みが求められています。

生成AIを巡る意見には、責任の明確化や著作物性の判断基準、適切な対価還元制度の構築といったさまざまな課題が含まれています。これらをバランスよく解決するための議論が、今後ますます重要になるでしょう。

(山田さん)
さまざまな意見が出ていますが、これらを考慮した上で、ガイドラインや政策をしっかりと整備していかなければなりません。権利者側、事業者側、ユーザー側、それぞれの立場で異なる意見があります。一つの結論で全員が納得するのは難しいかもしれませんが、重要なのはバランスを取ることです。

私は、クリエイターや著作者の権利を守るために努力してきたつもりです。今回のAIに関するガイドラインでは、依拠性の問題に踏み込んだ内容となっています。

30条の4にもあるように、享受目的や非享受目的が明確でない場合、著作権侵害の疑いが強まります。また、生成物が類似性を持つ場合、依拠性が疑われることになります。

このような場合、プロンプトを作成した利用者や、それを提供した事業者が責任を問われる可能性があります。この点で、クリエイターの権利を守る仕組みを強化しました。

一方で、AI技術の進歩を阻害するわけにはいきません。「AIはすべて駄目だ」という主張と、「どんどん使えるようにすべきだ」という二元論だけでは、この問題を解決することはできません。権利者がいて、技術を享受する人がいる。そのバランスを取ることが何よりも重要です。

今回、クリエイターの懸念に対して厳しく対応したつもりですが、まだまだ改善の余地があると思っています。皆さんからのご意見を伺いながら、必要であれば著作権法の改正やガイドラインの見直しを行っていきたいと考えています。

(小山さん)
アメリカで進行中の訴訟や、ヨーロッパの「AI ACT」の動向にも注目が集まっています。AI ACT以前には「DSA(デジタルサービス法)」や「著作権指令」などがありましたが、ヨーロッパでは研究目的での著作物利用について、著作権者にどれだけ不利益が及んでもオプトアウトが認められないという規定があります。

この点で、EUは日本よりもAI事業者に優しい規定が設けられていると言えます。こうした国際的な規定が日本にどのような影響を与えるかは非常に気になるところです。

仮に、日本で「AIはクリエイターの権利をすべて侵害するもの」と整理されてしまった場合、大きな問題が生じる可能性があります。たとえば、検索エンジンのバックデータにアクセスできなくなる可能性があります。

Googleなどの検索エンジンは、検索結果を適切に表示するため、ウェブページを無断で複製しています。この行為について、アメリカでは裁判になり、最終的に「フェアユース」として許容される判断が下されました。

生成AIについても、これと同じように「フェアユース」として認められるのか、それとも検索エンジンとは異なるものと判断され、一部またはすべての機械学習が禁止されるのか、これからの議論が鍵となります。

生成AIと著作権に関する問題は、日本国内だけでなく国際的な視点で考える必要があります。これからの規制や判例を踏まえた迅速かつ柔軟な対応が求められるでしょう。

今日のまとめ

(山田さん)
フリーランス新法が11月1日から施行されましたが、この法律が作られただけでは十分ではありません。フリーランスの方々、特にクリエイターの皆さんが、法律の内容をしっかりと理解し、自分たちの権利を主張していく必要があります。

また、著作権や著作隣接権、実演家の権利についても、自分たちで理解を深めた上で、どう行動すべきかを考えることが求められます。自分の権利を守るには、まず知識が必要です。

もう一つのテーマである生成AIについても、30条の4が注目されていますが、今回の議論のポイントは「類似性」と「依拠性」の問題にあります。特に依拠性については、侵害された側が証明するのが非常に難しいため、クリエイターや権利者側の視点を取り入れた形でガイドラインが作成されました。

しかし、このガイドラインだけで十分ではありません。実際の事例を積み重ねながら、クリエイターの権利を守りつつ、生成AIの発展も可能にするバランスを探る必要があります。

著作権法はあくまでも権利を持つ人を守るための法律です。その中で例外規定を設け、権利の運用を柔軟にする仕組みが求められています。

生成AIの学習や利用においては、無条件で何でも許されるわけではありません。非享受目的が基本であり、類似性がある場合は依拠性が疑われるという前提があります。

これを防ぐために、事業者だけでなく生成物を利用した人にも責任が発生します。このように、適切な牽制が行われる仕組みを構築することが重要です。

今回の取り組みをスタート地点として、さらに一歩二歩と進めていき、健全な権利利用のバランスを実現していきたいと考えています。

また、フリーランス新法やガイドラインについて、中小企業庁や公正取引委員会がわかりやすい漫画などで解説をしていますが、まだ難しい部分も多いと思います。

最終的には、これらの法律やガイドラインを自分たちを守る武器として活用できるよう、しっかりと理解を深めることが必要です。

それでは、以上で本日の内容を終えたいと思います。皆さんにとって少しでも役立つ情報をお届けできたなら幸いです。本日はありがとうございました。