僕らはみんな夜景の点灯員。
うちに帰ってまずすることは、お風呂に入ることよりも、ごはんを食べることよりも、音楽をかけることよりも先に明かりをつけることである。電気をつけないことには部屋の中をまともに歩けないし、なにをするにも暗闇のままだと困ってしまう。それこそまちがえて猫の尻尾でも踏んでしまったらたいへんだ。ンギャー!と叫びながら部屋中を駆け回り、嵐が過ぎ去ったごとくものが散乱した部屋に様変わりしてしまう。まあ、とにかく平穏な夜をおくるために明かりをつけるんですが、それは同時に夜景をつくる一助にもなっていると思うのである。
もちろんこれはじぶんの部屋の明かりにかぎったことではなくて、車を走らせるときにつけるライトも、道を照らすための街灯も、オフィスに居残って作業するための蛍光灯も、みんな夜景をつくる一助になっている。
展望台とか、東京タワーとか、飛行機から夜の東京の街を眺めると、ひとつひとつの小さな明かりが星のように輝きだして息を呑むほど美しい夜景をつくってしまう。目の前で見たら、なんの感興も湧かない明かりも、はるか上空の位置から見ると、人の気持ちを高揚させたり、感動させる明かりに変わる。
明かりをつけることは夜景をつくることとつながっている。部屋の明かりをポチッとつけることは誰かのための夜景を演出していることでもあるのだ。だから、夜の世界に明かりを灯す僕らはみんな夜景の点灯員でもあると思うのです。
あるときは誰かの人生の記憶に残る夜景をつくり、あるときはじぶんの人生の記憶に残る夜景をつくってもらう。もちつもたれつ夜景の世界。今宵もひと押しいたすかな。