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「こどもの本 総選挙」から考える
こどもの本総選挙の結果が発表されました。3回目となる「こどもの本総選挙」。今回は16万人が投票したとのことです。かなりの数の小学生が投票を行ったということになりますね。学校単位で取り組んだところもあったのではないでしょうか。
小学生が手書きで記入して投票したものを、データ化することはとても大変だということです。クラウドファンディングが行われ、3回目の実施にこぎつけた「こどもの本 総選挙」。たくさんの人の協力のおかげで実施できたのですね。
「こどもの本 総選挙」の目的は?
これだけの規模で行っている「こどもの本 総選挙」。どんな目的で行われているのでしょうか。
・こどもの本総選挙は、こどもたちに新しい本に出会う喜びを伝えるために行っているイベントです。
・今1番小学生に支持されている本を発表し、日本中のこどもたちに伝える。そうすることで、こどもたちに素敵な「本」との出会い、豊かな読書体験を提供することを目指しています。
(A-port:朝日新聞社のクラウドファンディングサイトより引用)
「子どもたちに新しい本と出会う機会を」ということで、行われているようですが、正直なところ1回目~3回目のラインナップがあまり変わらず、少しがっかりしているというのが私の本音です。「こんな本知らなかった!」「おもしろそう!」という発見が少ないというのは、子どもたちも感じたことなのではないかなと思います。
現状把握のためのデータとしての価値
新しい本と出会う機会になっていたかは微妙なところですが、今の小学生がどのような本を手に取っているのかという現状を把握するにはとても貴重なデータと捉えることができるのではないかと思います。私が注目した点をいくつか紹介したいと思います。
(1)スイミーのランクイン
まずは、「スイミー」が9位にランクインしたことです。「スイミー」と言えば教科書の定番教材。レオ・レオニの名作です。学年別の集計を見てみると、2年生で3位に入っています。これは、私たち教員としてはとてもうれしいことです。
「スイミー」のお話の中で、海でいろいろなものに出会う場面があるのですが、教科書では絵が一部省略されています。絵本では、少ない文字に対して絵がダイナミックに描かれており、その価値を含めて「スイミー」の作品なのだと主張する人もいます。教科書で味わうだけでなく、ぜひ絵本でも味わってほしい作品なので、こうしてランクインしたことはとても嬉しく思いました。
他の教科書教材の原作がランクインしていないのに「スイミー」だけがランクインしているのはなぜか、などについても考えてみたいです。
(2)実際は「銭天堂シリーズ」が複数ランクインしている
実は、「こどもの本 総選挙」は集計の仕方を今回から変えているようです。10位までの中に「銭天堂シリーズ」は4冊、30位までの間に16冊ランクインしています。(なので、これまでの集計方法で数えると「スイミー」は29位です。)
「銭天堂」の人気ぶりはすごいですね。そして、子どもたちはやはり、シリーズものに安心して手を出しているということ伺えます。また、「銭天堂」は2020年にアニメ化しています。これも、この人気を加速させた要因だと言ってもいいかもしれません。
文章量が小学生が読むのにちょうどよいこと、登場人物やお話の枠組み設定がしっかりしているので内容が理解しやすいこと、それでいて必ずハッピーエンドともならないぞくぞく感があることなどが、子どもたちを魅了しているのでしょう。
(3)今の子たちに人気のビジュアル
名作部門に出ていた3冊は、どれも「10歳までに読みたい名作シリーズ」でした。(しかし、これは、どれも100位以下だったようですね。)
名作シリーズはいくつかありますが、学校の図書室でもこのシリーズが一番人気です。登場人物のイラストに古臭さがあるものは、なかなか手に取られないというのが実情なのでしょう。中にも挿絵があり、かなり読みやすくなっています。
歴史部門で1位になっていた「織田信長」も、やはりビジュアルが相当美化されている印象です。このシリーズもやはり人気です。
本における、挿絵の役割については、たくさんの専門家が研究を行っていて、必要以上に華美な挿絵については私も賛同しかねる立場です。きっと、本を作っている人も、同じように考える人がたくさんいることでしょう。でも、手に取ってもらえないのでは仕方がありません。今の小学生に人気の装丁にすることで、読んでもらえるように工夫しているということだと思います。とても悩ましいことですね。
(4)マンガやアニメ・ゲームのノベライズ
「銭天堂」だけでなく、学習マンガやアニメ・ゲームのノベライズ本などが人気だということも分かります。子どもたちの読書の様子を見ていても感じることです。昔に比べて、視覚的に楽しめるものが増えているし、アニメやマンガも日本の素晴らしい文化なので、大事にしていかなくてはいけないと思います。一方で、文章から想像力を働かせる力がなかなか育っていないということでもあるのかもしれません。
「鬼滅の刃」の小説版を読んでいる子で、アニメも見ずに、マンガも読まずに、小説を読んでいる子はごく少数であると思います。(私の勝手な予想ですが。)じゃあ、その子たちは、どうして小説版を手に取るのでしょうか。それは、文章を読めるようになりたいからなのではないでしょうか。子どもたちの中に「文章を読む力もつけなければ」という切迫感はあるのだと感じます。そういう子たちが、アニメやマンガで親しんでいる物語のノベライズ版を手に取るのでしょう。
「自分で長い本を読めるようになりたい」と願っている子はたくさんいると思います。その気持ちに応えるサポートを私たち大人はできているでしょうか。これは、私の中でずっとテーマにしていることです。
子どもたちが本と出会うために
新しい本と出会うためには、子どもの本総選挙をもう少し違った形で企画するのもいいのではないかなと私は思います。(同じように実施しなければ、データを比較できないという問題点があるので、実施方法を変えるかどうかについては賛否両論あるのかもしれませんが、私個人としては、「新しい本と出会うための企画」ならば、今回と同じ手法を取っていても、毎回変わり映えのしない結果になるような気がして仕方ありません。)
例えば、部門ごとに分けるのはどうでしょう。今は、投票されたものを部門別に集計して「なんでもランキング」の中で発表していますが、投票する時点で複数の部門に分けるといいのではないのかな?と思います。例えば、絵本部門、文庫本部門、読み物部門、学習マンガ部門…のような感じで。
1冊だけ選ぶというのは、本当に悩むものです。投票している子どもたちの様子を見ていると、複数書きたい本がある子もいました。
あとは、保護者にも投票してもらうという案です。そうすると、保護者も自分が投票した本がどのくらいのところにランクインするのか興味をもつと思います。個人で投票する家庭は、子どもが投票する際、大人がそばについている場合が多いのではないでしょうか。保護者にも書いてもらうことで、昔から親しまれる名作や大人が子供に勧める本に子どもが触れる機会になったり、親子で本を楽しむきっかけになるかもしれません。
今後は、1人1台端末が配布されたのでオンライン投票を推進できるといいなと思います。なんとなく、教員や学校司書としては、紙での投票の方が簡単というイメージが強いのかもしれませんが、子どもたちも教員も、今年かなりパソコンに親しんだので、オンライン投票を推進して、気軽に参加できるようになるといいなと思いました。(我が子も今回は紙で投票していました。次回の子どもの本総選挙があったら、司書教諭としてオンラインでの投票を呼びかけたいなとおもいます。)
子どもが本に親しむための企画「こどもの本 総選挙」をこれからも応援したいと思います。子どもたちと本の出会いのきっかけにできたらうれしいですね。