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映画【無名】森博之インタビュー(智族GQより抜粋)

今回は渡部役の森博之さんです。
はじめの感想でも書きましたけど、渡部の日本語が聞き取りづらく、それは中国語が続く中の日本語に脳がついていかなかったためと考えてますが、先日の鑑賞では割とすっと入ってきました。それにしても相当重要な役ですし、台詞も一番多かったのではないでしょうか。

森博之/渡部

渡部は頭を傾けて居酒屋の扉枠に寄りかかっていた。顔の半分は暗闇に包まれ、目を細めて前方を睨みつけている。上海の戦局は目まぐるしく変化し、彼はどこへ向かうべきか迷っていた。日本の軍人であり、間諜でもある彼は、周囲の人々が敵か味方かも分からず、時代に翻弄されていた。ただ、信じるものや人としての義を貫くしかなく、誰も信じず、孤独と共に生きていた。劇中の渡部の人生は民国時代に留まっているが、劇外の森博之は現代の上海を目にしていた。森博之が街を歩き、行き交う車や人々を眺めると、彼はまるで渡部と共にこの街を観察しているようだった。渡部の心を支配するのは後悔や悲哀、そして空虚感だが、森博之はどんなカフェに入ることができるのかを期待していた。それによって、彼は今を生きる幸せを感じていた。

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智族GQ:あなたが演じた役はどのような人物だと思いますか?その役の視点から見ると、この映画はどんな物語を描いているのでしょうか?

森博之:私が演じた渡部は、軍人でありながら間諜の顔も持ち、自分を中心に物事を考える人物です。しかし、その時代の人々は皆そうであり、多くの顔を持っていました。彼は自分の信じる大義の中で生きており、それが何よりも優先されました(国家が掲げる大義を信じ、そのために生きている)。その結果、多くを失い、孤独と共に生き、誰も信じなくなりました。この映画の登場人物は皆、時代に翻弄され、歴史の分岐点で様々な選択をしなければなりません。その選択は他者にとって不利なものかもしれず、彼らの選択は利害関係が複雑に絡み合い、結末へと向かいます。しかし、実際には皆、歴史の大きな流れの中にいる小さな存在に過ぎません。この映画はとても深みがあり、複雑な人間性と人間関係を描いた作品であり、非常に悲しい映画でもあります。


智族GQ:最初に台本を読んだときの感想はどうでしたか?前準備としてどんなことをしましたか?

森博之:この役を受けた時、情報はあまり多くありませんでした。ただ、これは程耳監督の作品だということだけは知っていました。彼の『羅曼蒂克消亡史』を観て、その強烈な個性がとても気に入りました。初めて台本を読んだときは、具体的なストーリーはあまり理解できませんでしたが、全体の流れを掴みました。2回目に読む時には、頭の中に映像が浮かび、『羅曼蒂克消亡史』の撮影手法を思い出し、これは良い映画になると感じて非常に期待が高まりました。

渡部という人物を理解するためには、時代背景が不可欠な要素です。私は21日間の隔離期間中に、この映画で描かれている歴史的背景を調べ、映画の背景と実際の歴史を比較しました。台詞の中のキーワードを通じて渡部のいくつかの原型人物を見つけ、彼らを参考にして役に取り組みました。また、渡部の言葉の使い方を理解するために台本を読み込み、彼が何を考え、何を感じ、どのような心情でこの言葉を発しているのかを深く探りました。この準備には多くの時間を費やしました。映画の撮影が始まってからも私の役が決まったので、時間は非常にタイトでした。もう少し準備時間があれば良かったと思います。台詞を覚える時には、対戦する俳優の反応を考慮する必要があり、現場で実際に相手役と演技を合わせることで台詞の言い方が明確になります。最後のシーンを撮影するために、食事を制限し続けており、それによって渡部の感情により近づくことができました。

智族GQ:あなたはどのようにして自分と役柄の接点を見つけましたか?役に入り込んだと感じた瞬間はいつですか?

森博之:渡部の台詞の多くは大義名分のようなものですが、彼の本当の考えが見えないわけではありません。映画の中で彼の本音が直接描かれるシーンはありませんが、彼の本音こそが私と彼を繋ぐ接点だと感じました。役の内面にある孤独や抑圧、苦痛は、誰もが持っている感情です。現場での撮影に入るときには、渡部の感情が複雑に絡み合っていました。そこからは自然とカメラの前で表現できました。もちろん、これが「役に入り込んだ」ということを意味するわけではありません。ただ、できるだけ渡部になりきり、カメラの前に立って雑念を捨てることを心がけました。

智族GQ:あなたにとって最も難しく、挑戦的だったシーンはどれですか?程耳監督はどのように演技を指導しましたか?

森博之:私にとって、すべてのシーンが簡単ではなく、挑戦でした。初日は梁朝偉さんとの共演で、他の人に江小姐の救助を頼むシーンでした。監督はまず私たちにリハーサルをさせ、一度演じてからその映像を見返します。演技に関して厳しく指示を出すことはせず、感情や考えを導き出して、役の感情について私と共に議論し、その後次のシーンを演じます。私たちは現場で絶えず質問し、答え、考えることでこの作品を共に創り上げ、監督の求める映像と演技の理解に到達します。もちろん、感情の複雑さや苦しさという点では、自分自身であれ他人であれ、死に関連するシーンは常に心に重くのしかかります。現場のスタッフは俳優たちに創作の場を提供するため、作業中は非常に整然としており、静かで、創作意欲に満ちた環境を整えてくれました。

智族GQ:程耳監督は具体的にどのようにあなたを指導しましたか?現場で監督が最も多く言ったことは何ですか?

森博之:もしテイクがうまくいかなかった場合、監督は問題を俳優に投げかけます。「このシーンで渡部の気持ちはどうですか?」「この歴史的事件をどう捉えていますか?」といった質問が多く、「今この瞬間、渡部は何を考えているのか」というようなことを頻繁に聞いてきます。監督は私に自由に演技をさせるスペースを多く与えてくれ、感情を抑えるよう注意を促してくれたり、日本語の台詞について一緒に議論したりしました。ただ、監督は決して考えを強制的に押し付けることはなく、むしろ俳優がどのように演じるのかを見たいという姿勢でした。


智族GQ:あなたは自身の役にどのような細部や動きを特別に設計しましたか?最も上手く演じられたと思うシーンはどれですか?

森博之:特に細部や動きを専用に設計したわけではありません。役柄そのものが単純に何かを考えるのではなく、全体のストーリーや各シーン、相手との関係などを結びつけて考え、どの考えを表現するか、どれを表現しないか、台詞にどのように異なる意味を持たせるかに力を入れました。どのシーンが最も上手くできたとは思っておらず、毎回撮影後にはどこが良かったのか、どこが良くなかったのか、どうすればより良くなるのかを常に考えています。どのシーンが最も良かったかについては、観客に判断を任せたいと思います。


智族GQ:どのシーンから相手役の俳優と息が合うようになりましたか?相手役の俳優がどのような点であなたに影響を与えましたか?

森博之:具体的にどのシーンから息が合うようになったかは言いにくいです。というのも、各シーンの内容が互いに探り合うものだったからです。演者同士がある種の息の合った感覚を持ったとしても、その感覚があるからこそ、劇中ではむしろ相手役に対してより警戒心を持ちます。あるシーンでは、梁朝偉さんが椅子に座ったまま一切動かず、台詞も余計な動きもない中で、沈黙を極限まで演じているのを見ました。彼の演技を目の当たりにして非常に勉強になり、翌日の撮影でその技を少し拝借しました。


智族GQ:演技やプライベートでの交流において、どのように言葉の壁を克服しましたか?

森博之:言葉が通じない中で演技をするのも面白いと思いました。相手の言っていることが分からない分、相手のボディランゲージを観察し、感情を感じ取り、この方法で相手の考えを理解しようとすることで、より注意深く演技をするようになります。まだ自由に中国語で会話ができないので、交流する話題はシンプルになります。現場では次のシーンや次のショットについて考えることが多く、あまり雑談はしません。しかし、これは私に強制された緊張した雰囲気ではありません。待ち時間が長いときは、監督が茶を持ってきて少し話しかけてくれたりして、俳優の気持ちを和らげてくれます。撮影期間中は、他の俳優と全力で演技に集中し、創作の過程を楽しんでいました。もちろん、撮影スケジュールがタイトなので、プライベートで他の人と食事に行く時間はありませんでした。


智族GQ:最後のシーンはどんなものでしたか?クランクアップの日、どんな気持ちでしたか?

森博之:最後のシーンは私一人のシーンで、渡部が多くの人々が銃撃されるのを見ている場面です。彼の心境はとても複雑で、その後クランクアップを迎えました。現場を去ることを考えると、心の中は様々な感情が入り混じっていました。渡部の心の中にも複雑な感情があり、様々な思いが交錯していて、とても悲しかったです。


智族GQ:振り返ってみて、映画撮影の数ヶ月の中で、最も印象に残ったシーンは何ですか?どのような貴重な体験を得ましたか?

森博之:私にとって、役を演じることは一人の人間を生み出すことに等しいと感じています。渡部の人生は映画の中に刻まれており、彼はその時代に生き、当時の上海を見ていました。一方、私は現代の上海を見ています。少し話が逸れますが、撮影地が上海であり、物語の背景と同じ場所であることは非常に幸運でした。毎日この街を見ることができ、渡部と一体となって上海を観察することができたのは貴重な体験でした。行き交う人々と街を眺めながら、渡部の心に浮かぶのは後悔や悲しみ、虚無感でしたが、私の心に湧いてくるのはどんなカフェに入ろうかという期待感であり、今を生きていることを実感しました。このチームと一緒に映画を撮ることができて嬉しく思っています。もっと役に没頭し、現場にもう少し長く留まりたいと感じました。全てのスタッフの皆さんに心から「ありがとうございます」と伝えたいです。


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