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天陽くん、夏空に逝く

『なつぞら』(9月3日放送:第134話)にて、天陽くんがこの世を去りました。冒頭から2分、あまりにも切なく、あまりにも美しい最期に涙が止まりません。「天陽ロス」を全身で受け止めています。

死期を悟っていた天陽くんは病院を抜け出し、徹夜で遺作となる躍動感ある馬の絵を完成させます。あえて詳しくは語りませんが、天陽くんのモデルである神田日勝の遺作が「馬(絶筆・未完)」であることから、全身を描いた天陽くんの遺作は神田日勝へのオマージュであるとともに制作者の敬意であるとも受け取れます。

絵を完成させるために、天陽くんは家族へ言葉を残していきます。最後の夜、アトリエから出ようとする靖枝を引き止め、「もう行っちゃうの? ここにいろよ」と抱きすくめるシーンは、結末を知っているからこそ、切なさがすぎて胸に迫るものがありました。

開墾した畑で、麦わら帽子を投げ飛ばし、大地に倒れこむ最期はあまりに美しく、山田天陽の生きた証そのものでありました。このシーンについて制作統括の磯智明チーフプロデューサーはこのようにコメントを出しています。

「天陽はやはり畑に種を蒔いて作物を育ててきた人間。最期も何かを撒いて事切れる。あたかも、天陽自身が土に帰っていくようなシーンになっています。土から離れられなかった人間が最期、土に帰っていく。その象徴が麦わら帽子。麦わら帽子を畑に投げ、自分の身も地面に放り出すような最期を描きたいということでした」
出典:スポニチ記事

幸せのカタチというものは人それぞれ違いますし、一定でもありません。
十勝の大地とともに生き、ともに生きてくれた靖枝を愛し、子供を愛し、画家として自らを表現し続けた天陽くんの人生は短くとも、幸せであったと思います。そう信じたいです。

人生は思うようにはなりません。ときには人を羨み、人を妬み、そんな自分に失望しながら自分自身の生き方を模索していきます。経済的な面からも、天陽くんは決して恵まれていたわけではありません。それによって苦しんだことの方が多かったかもしれません。しかし、劇中に彼が弱音や不満を口にすることはありませんでした。

天陽くんには覚悟があったのです。
彼の優しさには自らを奮い立たせる決意の強さがありました。
十勝の大地を慈しみ、感情を排泄するように絵画を制作し、家族との穏やかな時間を過ごすことが彼の生活であり人生でした。

人生は短い。やりたいことをやればいい、と人は言います。
後悔なく生きることと、人生を実り多きものにすることは少し異なります

天陽くんの最期には、自分の生き方を見直すメッセージがありました。
私たちは彼のように生活を大切にできているでしょうか?

小説や新書、映画や展覧会などのインプットに活用させていただきます。それらの批評を記事として還元させて頂ければ幸甚に存じます。