新宿毒電波通信 創刊号 「この家無を見よ」Vol.1「たのしい新聞の知識」
アウトドア哲学 この家無を見よ
たのしい新聞の知識
鶴内手刀
遡ること二十数年、私は冷凍倉庫で働いていた。マイナス20度以下の倉庫内では、15分ごとに外へ出なければならない決まり。しかし、繁忙期は連続で庫内で作業する必要がある。いちいち外に出ては仕事にならないのだ。鼻水は凍り、防寒靴を履いても足の指の感覚はすぐになくなる。先輩のジジイたちはなにか平気そうにしていて、みんなすげえなと思っていた。就労してしばらくたったある日、ジジイが私にアドバイスをしてくれた。防寒靴のなかに新聞紙を入れろ、というのだ。助言に従ってくしゃくしゃにした新聞紙を防寒靴に詰めて足をねじ込み庫内へ戻ると、あきらかに足の指の感覚の保持タイムが伸び、快適に働けるようになった。私は新聞の保温性という側面を身をもって理解したのだった。そして「はよ言えや」とも思った。
その後色々あって、寒い夜に外で寝なければならなくなった時に私が探したのは新聞紙であり、路上生活者の人々が新聞紙を集めるのはこのためであることがわかった。あったけえのだ。
子供の頃、近所の公園などで暮らしていたホームレスのおっちゃんはよく新聞を持っていた。それに書かれているようなことを嫌ってお前はここにいるんちゃうんかいと思ったものだが、私には知恵が足りなかったのだ。
新宿には多くの路上生活者がいる。私はこの新宿毒電波通信がいつか彼らを暖めることを願っている。