新宿毒電波通信 第三号 書評 二十億光年の誤読「スターメイカー」オラフ・ステープルドン
緻密な幻視の描写で
宇宙誕生の意義を問う
1930年代から多くの思索的なSFを書いてきた著者の金字塔こそ、この「スターメイカー」である。あらすじは、ある夜、ひとりの男が突如として思念体となる。そして、この宇宙のあらゆる生物の興亡を見て、造物主と邂逅。現実に帰ってくるというもの。精神の冒険譚といえば他愛もないが、実際、筋らしい筋はその程度のものだ。
ここに取り上げるくらいなんだから、なんかがスゲェんじゃねえの?とキサマは思うだろうけど、朕としては、主人公が遍歴する異世界に対する描写の緻密さがスッッッゲェと思う。
本好きはもちろん、本好きでなくとも次に挙げるワードは気になるのではなかろうか。
味覚で思索する哲学者、ヒトデ人間の花粉による生殖、帆船人間の階級闘争、群れることで単一の知的生命体となる無数の鳥、夜間のみ活動する植物的人間……枚挙にいとまがないとはまさにこのこと。各生物の文明の隆盛をちゃあんと書いた結果、生物の歴史=宇宙の歴史であり、宇宙の歴史=創造主・スターメイカーの歴史であるというアナロジーが見えてくる。バカデカスケールの本作をペロリと読ませてしまうのだ。
ところで、歴史の認識とは弁証法である。生活から戦争に至るまで、対立には止揚という結果があり、そこに歓喜と悲哀のすべてがある。それを見届けた主人公より少し遅れて、読者は現実に帰ってくる。本著を読了した私たちの目には、この対立だらけの世界はどのように映るだろうか。