#34 ファールボールにご注意できません
NPO法人にいまーるスタッフの横田です。
にいまーるは、障害福祉サービス事業を中心に手話普及活動も行なっている団体であり、ろう者と聴者が一緒に働く職場です。
障害福祉サービスの利用者は全員耳が聴こえません。
しかし、スタッフの比率は、ろう者2割:聴者8割と、聴者が多いので、双方の文化の違いが垣間見え、時には食い違うことも多々あります。
そんな職場から生まれ出る、聴者とろう者が共に仕事をする中での気づきを連載していきます。
今回は、「音の情報」についての気づきを書いていこうと思います。
「マクドナルドで、ポテトがあがったときに音楽が鳴るというのを知らなかったです」
にいまーると関わり始めてから、よりよい関係性を築くために、聴こえないとはどういうことなのかを自分なりに想像するようになりました。
とりわけ、音の情報に関しては、聴こえない人がどういう場面で、どのような情報を得られないのかを理解できるように、「音」を意識して生活しています。
多くの聴者がそうだろうと思いますが、音は「入ってくる」ものであり、無意識のうちに取り込み、無意識のうちに取捨選択して情報を受け取っています。ろう者と一緒にいる現場で情報量の差を生まないためにも、日ごろから音を意識することの習慣化が必要なのです。
しかしながら、冒頭の、ポテトがあがったときの音楽のように、思いもよらない角度から、聴こえないとはどういうことなのかを実感させられることがあります。
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先日、ろう者に誘われて、プロ野球の独立リーグ、BCリーグの試合を見に行きました。
スタジアムでスポーツを見る機会も少なく、ろう者とスポーツを見ること自体も初めてでしたが、野球はろう者も見やすいのではないかと事前に想像していました。理由としては、電光掲示板に文字情報が表示されるからです。
しかし実際はそうでもないことが分かりました。
始めは予想通り、今誰が打席に入っていて、カウントがいくつで、とほとんどの情報がほぼリアルタイムで表示されていたので、これは見やすいと感じていました。
ただ、試合が経過すると、カウントの表示ミスがあったり、表示されている打者と実際の打者が異なっていたり、、、電光掲示板もあてにならないことがあると分かりました。
そして何よりも、ファールボールへの注意を促す表示が意味を成していません。ファールボールは、打ちあがった瞬間にブザーが鳴り、放送で「ファールボールにご注意ください」とアナウンスされます。そしてボールが着地したのち、電光掲示板に表示される。。。
一緒に見に行ったろう者としゃべっている最中にファールボールのブザーが聴こえるたびにファールボールが来る、ファールボールが来ると、僕は気が気ではありませんでした。
日本語で話す場合、試合を見ながら会話を進めることができますが、手話の場合は、視覚言語の特性上、試合から目を離さざるをえません。試合から目を離すとファールボールに気づけず、唯一の頼りであるブザーも役立たない。
「ああ、そういうこともあるのか」と軽いショックを受けました。
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先日、東京の上野駅で、「エキマトぺ」という装置が設置されたというニュースがありました。エキマトぺは、駅のホームに設置され、駅の案内放送や電車の音などを視覚的にわかりやすく届ける装置です。詳細はURLから。
電車に乗る人は分かると思いますが、ダイヤの乱れがある時、基本的に音声での案内がメインになります。電光掲示板にも多少の情報が掲載されますが、ほとんどが「詳しくは係員までお尋ねください」となっています。
電車の遅延のように、先が見通せなかったり、情報が随時更新されていく際に、文字情報は後回しにされがちなように思います。それを仕方ないとしてよいのでしょうか。
情報格差を生まないためにも、聴こえないとはどういうことなのか想像しながら、現場での支援に取り組んでいきたいと思います。
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文:横田大輔
Twitter:@chan____dai
編集:臼井千恵
Twitter:@chie_fukurou
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