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【記者コラム】人口減少を恐れない時代にこそ地域間LCC

先日、ある若手経営者との出会いがあった。彼は首都圏にオフィスを持ち、そこでのビジネスを主な生業にしながら、北海道上川町で地方創生プロジェクトにも加担している。いわゆるデュアルライフ(二拠点生活)の実践者であり、まさにリモートワークの普及定着がもたらした新しい働き方、暮らし方である。

上川郡上川町は、北海道のほぼ中央に位置する人口約3,700人の町。町内に層雲峡温泉があり、かつては団体旅行で賑わったが、それは昔の話。今は団体旅行自体が減少している。人口規模からみれば「過疎の進む寒村」をイメージするかもしれない。しかし上川町は近年、全国的にも注目される「共創」の拠点としてイノベーティブな町へと変貌している。何があったのか。

同町は2021年、ソーシャル型オンライン経済メディア「NewsPicks(ニューズピックス)」と包括連携協定を結び共創コミュニティ「KAMIKAWA GX LAB」を立ち上げた。NewsPicksのPickerと一緒に新たなイノベーションを興そうという試みである。結果、NewsPicksが様々な企業に声をかけ、それぞれの形で上川町と連携し、進出するようになった。世界的なアウトドアブランド「Columbia」も同町と地域包括連携協定を結んで統一ブランドを立ち上げている。「上川町を使って何ができるか」これを多くのイノベーター達が考えるようなった。多くの「よそ者」が関与し、町に息を吹き込んだ。

2014年に元岩手県知事だった増田寛也氏が出した「地方消滅」は、東京一極集中が地方の人口減少を生み、2040年には全国で896の地方自治体がなくなるという仮想現実を綴ってベストセラーになった。それこそ地方住みの我々は恐れおののいた。しかし「人口を増やす」や「人口の流出を止める」などしなくても「豊かな地方」は創ることができる。それが、人の流動が産み出す「関係人口」― 住まなくても、来てもらえる地域の創生である。冒頭の若手経営者は言う「人口が少ない方がむしろ、限られた税収の中でより多くの豊かさを享受できる」と。いわれてみればその通りだ。

「都会の良さも認めつつ、田舎暮らしもしたい」という人は増えている。リモートワークの定着が、それを現実化した。今や日本中のどこにいても仕事はできる。月の半分、違う場所で暮らしたって良い。後はアクセスと移動手段。

そんな中で、地方と地方を結ぶLCC(格安航空会社)であるトキエアの存在はますます注目されるだろう。ドアtoドアで地方間を結び、高速バス感覚で格安に行き来できることで、こうした多拠点生活、人口流動、地方の関係人口増加はますます裾野が広がるのではないか。地方同士でつながる、大都市のハブ空港など経由せずに、直接つながるからこそ地域間に共創が生まれる。

その意味でトキエアの出現には本当に夢がある。地域間LCC、新潟で生まれたこの存在が、日本人の生き方を変え得るかもしれない。

(編集部・伊藤直樹)


にいがた経済新聞 2024年2月25日 掲載


【にいがた経済新聞】


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