第6回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜小学校編〜
本プロジェクトは、小学校という学び場を軸に、地域のコミュニティと経済を再生していくことを思い描いています。
今回の記事では、立ち上げメンバーのこれまでの活動もご紹介させていただきながら、その限りない可能性を考えていきたいと思います。
前回の鹿児島の保育園を起点としたお話の次は、少し離れて東北の地へ。共同代表の丑田が暮らす秋田・五城目町で起きてきたことについて、まちの公立小学校の話を中心にお届けします。
“越える学校”五城目小学校
人口減少率や高齢化率が日本一高い秋田県。その中央部の中山間地域に位置する、人口1万人弱の五城目町。
この町では、小学校の統廃合によりまちで一つとなった五城目小学校(町立)を建て替えるにあたり、3年間の住民参加型ワークショップ「スクールトーク」を経て、小学校をつくっていきました。
スクールトーク
ワークショップは2017年から3年間に渡って行われ、その中で生まれた新しい五城目小学校のコンセプトは「越える学校」。
子育て世帯、子どもたち、地域の様々な世代。度重なる対話やフィールドワークを経て建築された新校舎は、2021年にオープンしました。
まちに開かれたライブラリー
学校と地域の垣根を越える仕掛けとして、学校と地域のライブラリーを兼ねたメディア棟を新築。
1階がまちに開かれた図書室、2階は小学校のメディアセンター(学校用の図書室、PCやタブレットを使用できる場)になっています。
地域に暮らす人やまちに訪れる誰もが、小学校の中にあるまちの図書室「わーくる」に訪れることができます。
本を読んだり借りに来ることに加えて、館内にはWiFiやコンセントもあるため、ノートPCを持って仕事にくる町民もいたり。
昨今の社会情勢を受けて、全国的に学校のセキュリティ面のハードルは上がってきている側面はありつつ。
学校入口にガラス張りの職員室を配置して目線が合う導線をつくったり(先生の働き方を魅せていくことも意図)、既存の社会教育施設(体育館・プール・町民センター)に隣接して建てることにより、常に人の目がある環境をつくることで、塀のない小学校を実現しました。
日常の中で子どもたちと地域住民が自然と同じ空間にいられることによって、親や先生(タテの関係)と同級生(ヨコの関係)を越えた「ナナメの関係」との出会いが生まれていきます。
みんなの学校
校舎完成後は、ハード面だけではなく、ソフト面での取り組みもはじまっていきました。
その一つが、「みんなの学校」という、学校開放を利用した社会教育講座群です。
0歳から100歳以上でも通える学びの場として、地域の方々が参加できるさまざまな講座が学校空間の中で行われています。
小学校の授業を地域に開放するというケースもあれば、地域の講座を小学校で実施するということもあります。
子ども向けもあれば大人向けも、世代問わず一緒に学べるものも。
例えば、まちのパン屋さんのベーグル教室に、酒蔵の蔵元によるここだけの秘話、健康やお金をテーマにした講座や、五城目朝市などまちづくりの話。
はたまた、小学生時代の恩師が数十年越しに登場する講座や、隣町の町長が乗り込んで?くる企画まで、実に多様。
子どもがいる時間に大人も学校にいるので、子どもも大人も一緒に学んでいるシーンが見られたり。地域の女子大生と高齢者の方が小学校で話し合っているなんてことも。
教育留学
小学校は地域外にも開かれていき、区域外就学制度を活用した「教育留学」の仕組みもはじまりました。
移住や転校をせずとも、任意の期間を選んで小学校に留学することができる制度です。
毎月、首都圏や関西、そして沖縄まで、全国各地から子育て世帯がまちに滞在することで、留学生自身はもちろん、まちの子どもたちにとっても刺激が生まれ、地域を越えた学び合いが起き始めていきます。
先日神奈川から滞在していた小学生は、五城目小学校と自分が通う小学校をオンラインで繋いだ授業を自ら提案し、実行まで漕ぎ着けていました。
こうした取り組みが各地へと広がっていくと、住民票に留まらない多様な暮らし方、学び方を選択できるようになっていくことと思います。
地域まるごと学びの舞台に
以前の記事「「小学校」という概念を見つめなおしてみる」では、
ということを書きました。
例えば、この10年ほど暮らす中で、そして小学校ができる中で、五城目町のまちなかで目にした風景。
530年ほど続く「五城目朝市」を盛り上げるムーブメントが生まれ、山菜やキノコを売るおばあちゃん達の間に混ざって、町のいろんな世代や、時には子どもたちが徒党を組んで出店して稼いでいたり
まちのシンボル・森山を盛り上げるチームが立ち上がり、登りながら森の多様な植生を教えてくれたり。冬にはソリを持って登って滑って降りてくる遊び人「ソリスト」が増殖していたり
商店街の空き物件を皆でDIYした「ただのあそび場」で、遊びからはじまる出会いが生まれたり、学校にいかない子どもたちが学び合っていたり
あそび場の2階に、デジタル機器(3Dプリンターやレーザーカッター等)も駆使して遊びながら学ぶ場「ハイラボ」が誕生したり
そこで電気工事を学んだ子どもが、高校生や地域住民と共に再生させた「湯の越温泉」の電気工事を請け負ったり
町議会の一般質問へ、まちの住民たちが「傍聴族」を組成して皆で見に行ったり。時には小学生たちも学校帰りに議会傍聴していたり
まちの山から木を切り出してデジタル技術を活かして建てた集合住宅「森山ビレッジ」の建築過程に、子どもから大人までが参加したり
昨年の豪雨災害の際には、全国から寄付されてきた食材をシェフとともに調理しまくって被災者に届ける「子どもシェフ」がたくさん誕生したり
こうしたまちの日常に散在する学びの環境と、新たな小学校を起点に生まれていくうねりが影響し合っていくことで、地域まるごとが学びの舞台として活き活きとしてきてくるように感じています。
遊び学び続ける地域へ
目には見えにくい地中に「遊び」という地下水が縦横無尽に張り巡らされて、「学び」という土壌がふかふかな腐葉土となって、その上に多様な植生が芽吹いていく。そんなイメージが浮かびます。
地上に見えてくる植生は、地域の自治活動やボランティア、小商い、新たなビジネスなど、その土地の人や風土に根ざした極めて多様なものが生まれていくでしょう。
その結果、地域内のつながりがより一層豊かになったり。世代問わず新たな挑戦をはじめていく機運や、異質な人・ものを楽しむ気持ちや寛容度が高まってくることも想像できます。
幸福度の高いまちのは、「遊び学び続ける地域」と呼んでみてもよいかもしれません。
こちらの記事も是非ご参考にご覧ください。
前回の鹿児島の保育園での実践や、今回の秋田における実践もインプットにしながら、新留小学校のプロジェクトは進んでいきます。
本プロジェクトでは、小学校をつくることを起点として、学び場を軸とした自立した地域コミュニティを育み、その実践から生まれる知見をどのような場所でも活かせる形で共有し続けることで、各地の学校と地域が変容していく触媒となることを目指していきます。
第1回:「ふつうの学校」作ります。設立趣意のようなもの
第2回:「小学校」の概念を見つめ直してみる
第3回:食とことば とは
第4回:ランチルームとライブラリーの可能性
第5回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜保育園編〜
第6回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜小学校編〜(今回の記事)
第7回:「ふつう」という言葉のこそばゆい感 〜これであなたもふつう通!〜
第8回:ご存知ですか、教育基本法?
第9回:小学校とは地域にとってどういう役割の装置か?【今回の記事】
第10回:【インタビュー】なぜ、このドキュメンタリーを撮るのか
第11回:「これが教育の未来だ」というコンセプトを手放してみてもいいのかもしれない
第12回 まちづくりは人づくりから
第13回:ことばによって世界の解像度を高めよ 〜国語の先生との対話から〜
第14回:第14回:早期外国語教育は必要か?
第15回:第15回:子どもたちの「やりたい!」を実現できる学校を、地域とともに創る
第16回:学校をめぐる地の巨人たちのお話〜イリイチ、ピアジェ、ヴィゴツキーなど
第17回:コンヴィヴィアリティ、イリイチの脱学校から
第18回:これまでのプロジェクト「森山ビレッジ」
第19回:現役中学生たちの、理想の小学校
第20回:理事紹介1・このプロジェクトにかける思い
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?