見出し画像

誰のための英語でのメッセージ発信?


鶴田知佳子


5月4日付の朝日新聞に掲載された「SNSの被害回復 無登記がハードルに」という記事には、法務省の英語バナーが載っていた。

Do you remember to register a Foreign Company?
Obligation to register a Foreign Company

これは確かに、法務省のサイトの英語版でこのように出ていた。

記事では、SNSを運営する海外のIT大手が日本で法人登記をしていないと、SNSで書かれた内容によってある人が被害を受けた場合に、その人が、SNSに書き込みをした相手に謝罪や損害賠償を求める被害申し立てを行なう際に、海外企業が無登記であると被害救済が難しいことが指摘されている。「SNSの運営企業に開示を求めても、個人情報保護などを理由に、なかなか応じてもらえないのが実情だ。そうした場合は、裁判手続きで請求するしかない。」最新版の書類を米国など本社の所在国から取り寄せるには手間もコストもかかり被害回復をあきらめる人も少なくないが、IT企業が日本で「外国法人」として登記されていれば時間もコストもかからずに手続きが行えるはずと記事では説明されている。

この英語バナーで、この呼びかけの主語が誰なのか?誰に対しての訴えなのかがまず気になった。これは日本語でこのサイトを読むことを想定している内容の、英語への直訳なのではないだろうか。日本語のサイトの方を見ると、以下のようになっている。

ここで指摘されているのは、会社法によって日本で継続して取引をしようとする外国会社は、「外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種の者又は会社に類似するもの」という会社法による定義とともに外国会社の登記の申請をしなければならないとの法律上の規定である。

この場合、日本語でのサイトを読むと想定されているのは、日本語読者である。この記事が問題にしている日本でビジネスを行なっている海外企業の日本法人の担当者も含まれる。

しかし、記事で説明されているように「日本の会社法が定める外国法人登記などを米IT企業などが怠っているとして、法務省は昨秋、同法の周知徹底のための英語バナーを同省サイトに立ち上げた」ということであると、この英語を読んでもらう対象は、指摘がされているような海外のIT企業を含む海外の読者なのではないだろうか。

そうだとすれば、この英語のバナーは日本語の内容をそのまま呼びかけているので、誰に対しての呼びかけなのかがわからないうえ、Do you remember で始まる文章は、忘れていないかという確認をしたいというよりも、外国企業として日本でビジネスをするなら外国会社として登記する義務があります(If you are a foreign company doing business in Japan, you are obligated to register as a foreign company.)、という書き方にするべきなのではなかろうか。法律についてはわからないながら、続く部分は日本語では「外国会社の登記義務について」の訳ではあるが、Obligation to register a Foreign Company とあって、外国会社の登記義務の指摘をしているものとはわかるが、このウェブサイトの英語の発信だけで、外国の読者が注意を喚起されるのだろうか?

むしろ,自分たちに向けて書かれたものではないと受け取られてしまうのではないだろうか。法務省のホームページを見てもらえば,注意喚起が英語で載っていますというだけでは、ホームページを見てもらっての行動に結びつかないであろうことが、気になった。

最近,機械翻訳がかなり進歩しているので,試しに法務省が意図している日本語を機械翻訳してみた。その結果は以下の通りである。

外国会社の登記を忘れていませんか?
外国会社の登記義務について
Did you forget to register your foreign company?
Obligation to register a foreign company

無料のソフトが普及しているのであるから,法務省としても,この程度の英文チェックをした上で,先に述べたようなわかりやすい英文にする工夫をすべきではないだろうか。

いいなと思ったら応援しよう!