「NHK国際放送の災害報道」講演会開催
2024年6月16日
鶴田知佳子
日本の英語を考える会では、当会アソシエイトメンバーで、当会の発足をNHK WORLD JAPANの英語ニュースでとりあげてくださるなど、当会と関わりも深いNHK職員の高橋弘行さんの講演会を、「NHK国際放送の災害報道」と題して開催しました。
高橋さんは「すべてはこの日から始まりました」と、東日本大震災が国際放送の災害報道の大きな契機となったお話から始められました。当時高橋さんはNHK衛星放送の「おはよう世界のトップニュース」キャスターでいらしたのですが、この番組で紹介したフランスの放送局F2は、震災当日、そのメインニュースが30分間全て日本の震災報道だったというくらい、世界の関心を集めた日本発の大きな災害ニュースだった、と語られました。
しかし当時NHKの国際放送は気象庁からの地震・津波情報を直接入手することもできなければ、それをすぐに英語化できる手段もなかったということです。高橋さんは実際に震災当日放送された映像を見せてくださいましたが、NHKのキャスターが津波の画面を見ながら英語のアドリブで語っている状況でした。NHKはその反省から、「災害報道の英語化」という課題に取り組むわけですが、当初は予算や人員の問題もあり、開発がなかなか進まない中、ふたつの大きな「追い風」が開発を後押ししたということでした。
一つは、日本への外国人旅行客の増加、もうひとつは近年の災害の大型化・深刻化でした。これによって、国内の外国人向けに英語で防災・減災情報を発信することの必要性が強く認識されるようになった、ということでした。
システム開発をめぐる苦労も教えていただきました。NHK国際放送のキャスターチームが中心になって、普段のキャスター業務の合間をぬって、気象庁が扱うすべての地名の読み方を自治体に問い合わせたり、ローマ字だけでは読み方を間違えやすい地名には注をつけたりする工夫もされたそうです。例えば「雌阿寒岳」はローマ字では「MEAKANDAKE」ですが、これだけではネイティブのキャスターには「ミーカンダケ」と読まれるおそれもあるので「ME-AKAN-DAKE」とハイフンをつける、といった工夫です。また「種子島」は「TANEGASHIMA ISLAND」、「佐渡ヶ島」は「SADO ISLAND」のような違いもひとつひとつ自治体に確認するなどの膨大な作業の結果、気象庁からのデータを直接受け取るシステムがようやく完成し、現在の運用に至っている、というお話でした。
また、このシステムが機能した例として今年一月の能登半島地震での報道ぶりも紹介されました。この時の英語ニュースの映像は、世界の放送局、たとえばイギリスBBCでも津波到達地域や時刻などのNHKの英語表示画面をそのまま引用する形で放送されたということです。
高橋さんは最後に、システムは今後も市町村合併に伴う名称変更などデータの更新、視聴者により分かりやすい表現のための定型文の書き換え作業は常に必要というお話とともに、国際放送の本来業務である「海外の視聴者に向けての情報発信」も、より一層の充実が必要、という言葉に大きく頷いた講演でした。
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